つんく♂にも読んでほしい…喉頭がんで声を失った教師が食道発声法で教壇に復帰するまでの全記録

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
tsunku_01_150415.jpg
つんく♂オフィシャルウェブサイトより


 つんく♂の突然の告白は、あまりにも衝撃的だった。昨年10月、「喉頭がん」が悪化し声帯を全摘出したと、自らがプロデュースを務めた母校近畿大学の入学式で明かした。幾多ものミリオンヒットを生んだ、日本を代表するシンガーにとって残酷すぎる現実だった。

 壇上に立つつんく♂の目は、心なしか潤んでいた。それはファンも同じだっただろう。

 しかしこれからは、曲作りをはじめ、リハビリにも積極的に取り組むとニュースは伝えている。なかでもこの数日盛んに取り上げられたのが「食道発声法」なる「声」を取り戻すトレーニング方法。切除した声帯の代わりに飲み込んだ空気を「ゲップ」をする要領で吐き出すことで食道を振動させて発声する、というもの。早い人では数カ月や半年で言葉を発することができるといい、実際つんく♂の関係スタッフのなかにも、普通に電話で会話ができるまでに上達した人もいるという。

 そんなつんく♂の「いま」と「これから」を示唆する本がある。

〈家族がみんな出勤したので、次郎(飼い犬)に餌をやった。(中略)「お手」「お手」と手を出しても首を傾げ、じっと見ていた。(中略)諦めて「よし」といったが食べなかった。(中略)「お手」も「よし」も犬には聞こえないのであった。〉

 これは2001年に出版された『新しいことばの命を得て 私の喉頭がん日記』(池上登/静岡新聞社)の一節。静岡県在住の池上氏は昭和62年ごろから喉に変調をきたし、検査入院の結果喉頭がんと宣告される。慶應大学・近藤誠医師らによる放射線治療で一時はがんが消滅するものの、再発。平成元年に喉頭全摘出手術を受けて「声」を失う。54歳のときだ。当時、県内で障害児教育の第一人者として活躍していた池上氏は、突然自分自身が障害を背負うという運命に翻弄される。この作品ではがんとの闘いや、医療スタッフや家族の献身的なサポート、食道発声法によって声を取り戻すまでの日々が綴られている。

 池上氏の病状は、当初は注射と放射線で8~9割の確率で完治するはずだった。つんく♂も完全寛解したはずだったことを考えると、この病気の難しさを思い知らされる。池上氏は、再発の可能性を告げられたときの心境を、こう綴っている。

〈愕然、恐怖、失望、悲しみ、落胆など、どんなことばも当てはまらない辛い気持ちだった。何くわぬ顔で陽気に飲み、食い、歌って帰ったときの空しさは今でも忘れることができない。〉

 そしてついに喉頭の切除を告げられる。

〈「手術をしなければ、どれくらいもつのですか」(命のこと)「この細胞は勢いのある質の悪いものなので、2、3年で全身に回ってしまう」〉
〈この話を妻に伝えた。妻は泣いた。辛く、悲しい告知である。〉

 手術前に教会で讃美歌「いつくしみ深き」を歌ったときの心境は、こう明かしている。

〈自分の声で歌う最後の讃美歌になると思うと、やたらに涙が流れて困った。〉

 それでも池上氏は前向きだった。食道発声法により声を取り戻した人の経験談やメソッドを聞くうちに、

〈自分でもできそうな気がして、早く手術をしてもらって、挑戦したい、と思った。〉

 その訓練の難しさや煩わしさで挑戦を断念してしまう患者も多いなか、術後22日目から特訓を開始する。

 最初は空気を手で押し込んで「ア」の発音を試みたが、全く出なかった。それが26日目には「ア、イ、ウ、エ」らしき声が出るようになる。やがてお茶を飲みこんで「アー」と試みると「ゲーッ」となるまでになり、指導者を喜ばせた。他にも、水槽に挿したゴムホースをくわえて吹き、一息でどれだけの空気が出るか測ったり、ハーモニカを吹いて吐き出す力をつける、という訓練もした。ついには、音は続かないものの「荒城の月」に聞こえなくもない旋律も吹けるようになる。

 退院して4日目、息子からの電話を取ると思いがけず「もしもし」に近い声が出て〈あっ、お父さん、すごいじゃん〉と驚かせた。地道に練習を続け、数か月後にはほとんど意思の疎通が可能になり、退院後わずか3ヵ月で職場復帰したのである。

 登場人物の言葉は、そのままつんく♂に捧げられるかのようだ。担当医が、〈朝の来ない夜はない、と言うからね。痛みも苦しみも必ず軽くなるからがんばってね。桜も咲き始めたしね〉と言えば、カトリック教徒の看護師は、〈私たちは栄光にあずかる希望を誇りにしています。そればかりではなく、苦難も誇りとします。私たちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むことを、希望は私たちを欺くことはできません〉と諭すのだ。

 娘と息子は〈生きていれば、喋れなくても、我々の親でいてくれれば十分〉と言った。

 養護施設のスタッフはこう激励する。

〈私たちにとって、大切な人を奪うなんて、許されるはずがない。絶対よくなって、もう一度私たちに夢と希望を与えてください。(中略)“子供たちが胸を張って生きるためには負けちゃいけない”と。今度は先生の番です。負けてたまるかです。〉

 いまワイドショーでは専門家が「話せるようにはなるが、歌うのは無理でしょう」と声をそろえる。だが、奇跡が起こらないと決まったわけじゃない。大阪の路上で燻っていたローカルバンドをトップに押し上げ、番組の企画に過ぎなかったガールズグループを国民的なアイドルに育て上げた男が、これから何を実現するかなんて誰にもわからないのだ。

 そして何より同じ病を患う多くの人たちもその日を待っているだろう。
(相模弘希)

最終更新:2015.04.15 09:20

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

新しいことばの命を得て 私の喉頭がん日記

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

つんく♂にも読んでほしい…喉頭がんで声を失った教師が食道発声法で教壇に復帰するまでの全記録のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。がんつんく♂相模弘希闘病の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 小室圭さんをとにかく糾弾したいワイドショーの事実歪曲とグロテスクな差別性
2 菅と河野が嘯く「ワクチン9月完了を合意」は嘘!実際はファイザーCEOに相手にされず
3 マリエ問題で出川はCMゼロも…松本人志も公の電波で枕営業を煽る発言
4 日本城タクシー坂本社長が橋下徹を再び論破!「アホな議論」と一刀両断
5 菅首相が米メディアから「五輪を進めるのは無責任」と質問され無視する愚行
6 名古屋リコール不正で維新市議が関与を証言!吉村知事、松井市長の責任
7 吉村知事は自己正当化モンスター!「重症センター」縮小をつっこまれ
8 「かまいたち山内」にネトウヨ疑惑…排外主義や嫌韓ツイートにも「いいね」
9 吉村知事への批判がテレビでも…北村教授、日本城タクシー社長、小木博明も
10 佳子内親王の「姉の一個人の希望を」に批判殺到はおかしい
11 橋下徹が西村大臣のPCR検査擁護で検査封じの責任に頰被り
12 眞子内親王の婚約者バッシングの裏
13 稲垣、草なぎ、香取がJタブーをポロリ
14 葵つかさが「松潤とは終わった」と
15 吉村洋文知事は5月に30本のテレビに出演していた
16 玉川徹が『バイキング』の小室圭さんバッシングの嘘を批判!
17 大阪に看護師不足は維新のせい!橋下徹は看護師の給料を「バカ高い」と攻撃
18 櫻井よしこ、西岡力、文春…朝日・慰安婦報道叩きのデタラメが次々露呈
19 菅首相が緊急事態宣言を出さないのは五輪開催のため ワクチンも五輪選手優先
20 汚染処理水・海洋放出の蛮行に加え安倍が顧問の「原発新増設」推進議連
1 吉村知事は自己正当化モンスター!「重症センター」縮小をつっこまれ
2 日本城タクシー坂本社長が橋下徹を再び論破!「アホな議論」と一刀両断
3 菅首相が米メディアから「五輪を進めるのは無責任」と質問され無視する愚行
4 名古屋リコール不正で維新市議が関与を証言!吉村知事、松井市長の責任
5 吉村知事への批判がテレビでも…北村教授、日本城タクシー社長、小木博明も
6 菅と河野が嘯く「ワクチン9月完了を合意」は嘘!実際はファイザーCEOに相手にされず
7 NHKが聖火リレー中継から五輪反対の声をカット!北京五輪のような情報統制
8 萩生田文科相「子どもが変異株に感染しやすいという知見ない」とデマまがい
9 汚染処理水・海洋放出の蛮行に加え安倍が顧問の「原発新増設」推進議連
10 菅首相が緊急事態宣言を出さないのは五輪開催のため ワクチンも五輪選手優先
11 DHC吉田会長がNHKに「社員のほとんどがコリアン系」とヘイトデマ
12 海外から批判も政府と組織委は五輪強行、選手に特別な感染対策を実施
13 マリエ問題で出川はCMゼロも…松本人志も公の電波で枕営業を煽る発言
14 小室圭さんをとにかく糾弾したいワイドショーの事実歪曲とグロテスクな差別性

カテゴリ別ランキング

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄