つんく♂にも読んでほしい…喉頭がんで声を失った教師が食道発声法で教壇に復帰するまでの全記録

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 そしてついに喉頭の切除を告げられる。

〈「手術をしなければ、どれくらいもつのですか」(命のこと)「この細胞は勢いのある質の悪いものなので、2、3年で全身に回ってしまう」〉
〈この話を妻に伝えた。妻は泣いた。辛く、悲しい告知である。〉

 手術前に教会で讃美歌「いつくしみ深き」を歌ったときの心境は、こう明かしている。

〈自分の声で歌う最後の讃美歌になると思うと、やたらに涙が流れて困った。〉

 それでも池上氏は前向きだった。食道発声法により声を取り戻した人の経験談やメソッドを聞くうちに、

〈自分でもできそうな気がして、早く手術をしてもらって、挑戦したい、と思った。〉

 その訓練の難しさや煩わしさで挑戦を断念してしまう患者も多いなか、術後22日目から特訓を開始する。

 最初は空気を手で押し込んで「ア」の発音を試みたが、全く出なかった。それが26日目には「ア、イ、ウ、エ」らしき声が出るようになる。やがてお茶を飲みこんで「アー」と試みると「ゲーッ」となるまでになり、指導者を喜ばせた。他にも、水槽に挿したゴムホースをくわえて吹き、一息でどれだけの空気が出るか測ったり、ハーモニカを吹いて吐き出す力をつける、という訓練もした。ついには、音は続かないものの「荒城の月」に聞こえなくもない旋律も吹けるようになる。

 退院して4日目、息子からの電話を取ると思いがけず「もしもし」に近い声が出て〈あっ、お父さん、すごいじゃん〉と驚かせた。地道に練習を続け、数か月後にはほとんど意思の疎通が可能になり、退院後わずか3ヵ月で職場復帰したのである。

 登場人物の言葉は、そのままつんく♂に捧げられるかのようだ。担当医が、〈朝の来ない夜はない、と言うからね。痛みも苦しみも必ず軽くなるからがんばってね。桜も咲き始めたしね〉と言えば、カトリック教徒の看護師は、〈私たちは栄光にあずかる希望を誇りにしています。そればかりではなく、苦難も誇りとします。私たちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むことを、希望は私たちを欺くことはできません〉と諭すのだ。

 娘と息子は〈生きていれば、喋れなくても、我々の親でいてくれれば十分〉と言った。

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