ここがヘンだよ健常者! 障害者の意外なホンネとは?

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NHK『バリバラ』番組サイトより


 今週末、毎年恒例の『24時間テレビ』(日本テレビ系)が放送される。障害のある人が芸能人とともにいろんな挑戦をする姿に涙する人も多いと思うが、一方で「あんなのただの偽善だろ」と嫌悪感をあらわにする人も数多いかと思う。そんな嫌悪派の方々にぜひ観てもらいたい番組がある。それは、NHK教育テレビで放送中の『バリバラ』(毎週金曜21時〜)だ。

 テレビ業界内では“もっともチャレンジングな番組”として有名だが、その企画を挙げれば、それも納得。言語障害が原因でモテないと嘆く男性に「原因はそれだけか?」と投げかけ、模擬デートを決行し徹底検証する「モテナイ障害者改善計画」に、まったく役に立たないバリアフリー設備を紹介する「バリバラ珍百景」、統合失調症の妄想をスピード漫才に昇華させたコンビや、寝たきりコント職人が笑いで競い合う「SHOW-1グランプリ」……。先日も「出生前検査」をテーマにした回で、ダウン症のタレントであるあべけん太氏が街頭アンケートなどを行い“当事者の声”を伝え、反響を巻き起こしたばかりだ。

 そんな『24時間テレビ』では絶対に放送されない内容が目白押しの『バリバラ』だが、なかでもこの機会に紹介したいのが、「ここが変だよ健常者」という企画。健常者が気を遣って「よかれ」として行っていることが、当の障害者からは「ありがた迷惑」になっている例を集めたものだ。『バリバラ』から生まれたコミックエッセイ『「すべらないバリアフリー」のススメ!!〜マンガでわかる障害者のホンネ〜』(NHKバリバラ制作班・著、河崎芽衣・漫画/竹書房)から、そんな事例をいくつか紹介しよう。

 たとえば、視覚障害のある女性の例。帰宅途中の電車の車内で立っていた彼女は、酔っ払いのおじさんに「ねえちゃん、帰るんか? 一緒についてってやるわ〜」と声をかけられた。彼女は「慣れた道なのでひとりで帰れます」とキッパリ答えたが、次の瞬間、おじさんは「お前ら席譲らんかい?」と座る乗客に怒鳴り始めた。案の定、乗客はすごすごと立ち上がり、肝心の酔っ払いおじさんは“いいことをしたぞ!”という満足感からか、「気をつけて帰りな!」と言い残して下車。電車には、気まずい空気が立ちこめる。「車内に残された私が…電車を降りるまで針のむしろだったことは言うまでもありません…」と、彼女はそのときのいたたまれない心情を明かしている。

 また、下肢障害をもつ車いすユーザーの男性は、コンビニで上段にある醤油に手が届かず困っていた。そこに「何かお手伝いしましょうか?」と現れたおばさん。そして「車イスで大変でしょ? 私もね2年前に足を骨折してね…」と、なぜか自分の話が始まった。男性も気をきかせて「…大変だったんですね」と相づちを打ったことから、怒濤の“ケガ自慢”を繰り広げられてしまった。で、最後は「あなたもがんばってね」と言い残しておばさんは立ち去ってしまう。

「ケガでつらい思いをしたからあなたの気持ちはわかるからね」と共感を示したい。これは健常者にとっては障害がある人に歩み寄る優しさかもしれないが、度が過ぎればただの迷惑。せめて醤油は取ってあげようよ……と思わずにいられない。

 度が過ぎるといえば、軟骨形成不全症の女性の経験談はさらにすごい。車イスユーザーの彼女は外出先で多目的トイレを探していたが、親切な人が案内してくれた。ここまではよかったが、なんとトイレの中にまでついてくる。「恥ずかしがらなくてもいいんですよ」と言うが、そもそも下の世話までは頼んでいない。「ひとりで出来ますから大丈夫です」と伝えたが、まだ「遠慮しなくてもいいのよ」と引き下がらない。はっきりと「大丈夫です!」と宣言すると、その人は“とても残念そうに”トイレを去って行ったという。

 彼女の場合、フードコートで注文したうどんを運べず、テーブルまで運ぶのをお願いした女性から、うどんを「あーん」と口に運ばれた経験もあるという。「私って…そんなに何も出来ないように見えるんでしょうか?」「車イスはベビーカーではありません! 私は大人です 赤ちゃん扱いはしないで下さい!!」と訴えるが、健常者にはたしかに「病気や障害は人それぞれ」という意識が少ない。 困っている人がいたら手を貸してあげたいという気持ちは大切だが、「それが必要な助けなのか?」を考えることも大事なのだろう。

 昨年、乙武洋匡氏が車椅子であることを理由に予約を入れていたレストランに入店できなかったことをTwitterでつぶやいたところ、大炎上したことがあった。レストランの店名を書いていたことが炎上の大きな理由ではあったが、「やってもらって当たり前みたいな考え」と、障害者が甘えすぎだという声も目についた。日常のなかにはこのように、障害者への差別なのか、配慮すべきなのか、議論が分かれることもある。本書では、そんな事例のアンケート結果も掲載されている。

 たとえば、視覚障害がある人は飲食店で入り口付近に通されることが多い。店側としてみれば配慮しているのだろうが、視覚障害のある人にとっては「人の出入りが多く、レジの音も気になって食事に集中できない」という問題がある。これは不公平なのか、妥当な配慮なのか──『バリバラ』内で行われたアンケートでは、「善意でやっていること」「なんだかんだで、入り口付近がいちばん安全」という「妥当な配慮」だと答えた人が55%、「配慮ではなく、お店の人が自分の安心を優先させているだけ」という「不公平」の意見が45%と、判断が分かれている。

 一方、重度身体障害者の人が大好きなアーティストのライブチケットを手に入れたものの、主催者から「車椅子スペースが限られているため、ヘルパーが入れない可能性がある」と連絡が。この場合、ライブに行くために障害者本人が工夫するべきか、主催者が対策するべきか。この質問に対して、「ヘルパーは体の一部だから、入れて当然」「客の区別をするのは本物のエンターテイメントじゃない!」などとする「主催者側が対策すべき」を選んだのは76%、「1人の優遇したら全員の希望を叶えなければならないから」「責任を持つのは主催者側だから簡単にはできない」などという意見の「本人が工夫すべき」が24%と、主催者側の配慮を希望する声が大きかった。

 飲食店のケースでは、「入店した段階で希望を言う・聞くなど、誤解が起こらないようなコミュニケーションを心がけたい」ものだが、ライブのケースの場合、主催者側にとっては“特例”にあたるとしても、それが特別ではない社会にしていく第一歩になるのではないかとも思う。

 おせっかい問題もそうだが、重要なのは、障害をもつ人たちが「何に困るのか」を知ることだ。ありがたいことに、『バリバラ』という番組も、本書も、そうした障害者の本音がぎっしり詰まっている。そこには思わず笑ってしまうような失敗談があったり、障害を逆手に取った高度な恋愛の駆け引きがあったりで、『24時間テレビ』が生産しかねない“障害者=かわいそうな人”という思考を見事に砕いてみせる。

『24時間テレビ』を偽善番組だと批判するのは容易い。ないよりはあったほうがいい、というのが筆者の考えだが、『バリバラ』は、障害者に不寛容な社会を“バラエティ”として突きつけてくる。だから健常者は、「自分たちの何が変なのか」を気負わず自覚することができる。心のバリアフリー化とは何か──『バリバラ』はきっと、その意味を教えてくれるはずだ。
(田岡 尼)

最終更新:2014.09.16 07:49

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