Wikiコピペ疑惑の百田尚樹『日本国紀』を真面目に検証してみた! 本質は安倍改憲を後押しするプロパガンダ本だ

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WGIPの真実、保守派の学者からも「そんな大それたものでない」の指摘

 もともとWGIPの存在自体は、1989年に保守系文芸評論家の江藤淳が『閉された言論空間 占領軍の検閲と戦後日本』(文藝春秋)で指摘したものだ。以降、保守界隈で受け継がれ、近年では『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』(高橋史朗/致知出版社)、『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(ケント・ギルバート/PHP研究所)などの“WGIP史観本”が密かな出版ブームになっている。

 しかしながら、敗戦後にGHQの主導のもとで、新聞・ラジオを通じたプロパガンダや出版物の検閲などがおこなわれたことは事実であっても、それが戦後70年経った今も「国民を洗脳している」と呼ぶべき状況とみなすのは、陰謀論的解釈にもほどがあるだろう。

 だいたい、WGIPは「日本の右派にとって“歴史戦の決戦兵器”」(能川元一)としてもてはやされる一方で、学術的研究や検証があまり進んでいるとはいえない。

 たとえば保守派の歴史学者である秦郁彦氏ですら、WGIPについては〈江藤は「戦後日本の歴史記述のパラダイムを規定するとともに、歴史記述のおこなわれるべき言語空間を限定し、かつ閉鎖した」と、高橋史朗は「日本人へのマインドコントロール計画」と評すが、果たしてそんな大それたものだったのか〉と疑問を呈している(『陰謀史観』新潮社)。

 また、これは哲学研究者の能川元一氏も指摘している(「“歴史戦の決戦兵器”、「WGIP」論の現在」『徹底検証 日本の右傾化』筑摩書房、所収)ことだが、江藤のWGIP論には決定的な弱点があった。それは、江藤自身も認めるように、敗戦直後に仕掛けられたはずの「日本国民洗脳計画」が、実のところ、当初は明らかに十分な効果をあげられなかったという事実だ。実際、サンフランシスコ講和条約の1952年には、全国的に戦犯の釈放運動が広がっている。

 十分な学術的研究が蓄積しないまま、保守論壇で一人歩きしてきたWGIPについて、膨大な資料をもとに検証した研究者の賀茂道子氏(名城大学非常勤講師)は、今年刊行した著書のなかで、「ウォー・ギルト・プログラム」は「敗戦の真実」と「戦争の有罪性」を国民に認識させるための情報教育政策だったと説明している((『ウォー・ギルト・プログラム GHQ情報教育政策の実像』法政大学出版)。

 占領開始直後のGHQは、日本軍による残虐行為が一切報道されていないことと、国民に罪の意識がないこと驚いたという。さらに日本政府も「無条件降伏」の解釈の違いから非協力的であり、戦争犯罪については公にしようとしなかった。そのため注力されたのは、軍事的に完全に敗戦したという事実と、言論弾圧が戦争を導いたこと、そして国民に隠されていた日本軍の残虐行為や非人道行為を明かすことだったという。

 賀茂氏によれば、資料の検討の結果〈「ウォー・ギルト・プログラム」と東京裁判は一体のものではなく、プログラムの施策の一つとして、東京裁判判決を理解させることが含まれていた〉。また、前述の戦犯釈放運動についても〈もし本当に残虐行為に対する有罪性が理解できていたとしたら、はたしてこれほど大規模な運動が繰り広げられたであろうか。つまり、この運動の盛り上がりは、「ウォー・ギルト・プログラム」による「戦争の有罪性」が、国民に理解されず浸透しなかったことを意味している〉と記している。

 一方で、「戦争の有罪性」が全体的には受け入れらなかったとしても、プログラムが完全に失敗に終わったわけではないという。賀茂氏は〈東京裁判の意義の一つとして、これまで隠されていた真実が明らかになったことが挙げられるが、「ウォー・ギルト・プログラム」もまた、一貫して真実の提示をモットーとし、隠された事実を日本国民に開示した〉とも指摘している。

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