『この世界の片隅に』ドラマ版とアニメ映画版の間で何が? ドラマの「special thanks to」に映画制作委は「一切関知しない」

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丹念な時代考証を積み重ねた片渕監督の作品と戦争に向き合う姿勢

 片渕監督がここまで調査を深めたのは『この世界の片隅に』という物語をより理解するためだ。『この世界の片隅に』の原作漫画自体、こうの史代による詳細な時代考証がベースとなっている作品であり、そのうえ地元出身者ならではの情報もふんだんに盛り込まれている(こうの史代は広島市出身の作家)。

 それだけに『この世界の片隅に』を描くためには、広島や呉の街についてはもちろん、当時の人々の生活、戦艦や戦闘機、原爆のきのこ雲など戦争の実相についても深く調べてから映像にする必要があった。そうして調べた知識のすべてが映像にそのまま反映されているわけではないが、調査を深めたのは無駄ではない。監督は「そうやっていろいろなことを理解できたから、このカットのこの片隅にはこういうものがあるんだってところまで納得できるようになりました」(「キネマ旬報」(キネマ旬報社)2016年11月15日号)と語っているが、『この世界の片隅に』が日本映画史に残る名作として高い評価を受けた背景に、片渕監督のこうした作品に向かい合う姿勢があったことは間違いないだろう。

 しかも、片渕監督のこの姿勢は、そのまま「戦争」に向き合う姿勢でもあった。

 1960年生まれの片渕監督にとってもちろん戦争はリアルなものではない。親が戦中世代なので、戦争体験を聞く機会もあったが、それだけで戦争について物語をつくるのはあまりにも不十分であると片渕監督は指摘する。体験談はもちろん重要だが、それはあくまでその人個人の体験に過ぎない。だから、より客観的に戦争について知るには、当時を生きた人の日記、雑誌の記事、新聞、公文書など、とにかく膨大な数の資料にあたる必要がある。

 それは、戦争を知らない世代が戦争の本当の姿を知るために採り得るもっとも正確なアプローチであり、かつ、戦争を体験した世代がいなくなった後でも、戦争を知らない世代が戦争の恐ろしさを知ることのできる唯一の方法だ。そして、そのためには、膨大な資料を残し、アクセスしやすい状況に保っておく必要がある。

「ユリイカ」(青土社)2016年11月号のインタビューで片渕監督はこのように語っている。

「このやり方は戦時中を体験したひとがいなくなったとしても有効なままでしょうから、僕らがもし後世に伝えられるものがあるとしたら、そういうことなのかなと。どこで何を調べれば当時の様子がわかるのかという、読者や視聴者にとっての調べ方の道標にならないといけないのかなと思っているんです」

 日本社会が急速に保守化を進め、日本国憲法第9条を骨抜きにしようとする動きすら出ている昨今、『この世界の片隅に』のような作品がテレビドラマとして放送される意義は大きい。それだけに、この話がスキャンダラスに消費されるような展開になってほしくないと思うし、他の作品の演出や時代考証を参考にすることがはたして「パクリ」といえるのか、という問題はある。

 またTBSは、朝日新聞の取材に対し「原作(漫画)を実写化したもので、外部の時代考証専門家の指導のもと独自に制作している」とコメントしている。

 ただ、TBSというテレビ局のドラマ『この世界の片隅に』と、片渕監督が丹念につくりあげた映画『この世界の片隅に』の、作品に向き合う姿勢と圧倒的な資本力の差を考えると、やはりTBS 側がなんらかの配慮をするべきだったのではないのか、と思えてならない。

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