巨人選手が賭博に走ったのは球団と監督のせい! 楽天はオーナーがダメ! 野村克也氏がプロ野球界を一刀両断

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『セ界恐慌 プロ野球の危機を招いた巨人と阪神の過ち』(宝島社新書)

 2015年のプロ野球界はとにかくパ・リーグの強さが際立ったものとなった。日本シリーズではパ・リーグ1位の福岡ソフトバンクホークスが、セ・リーグ1位の東京ヤクルトスワローズを4勝1敗で撃破。“プロ野球史上最強”ともいわれるソフトバンクが、圧倒的な強さを見せつける結果となった。

 さらに“実力のパ”を象徴するのが、交流戦の成績だ。順位だけを見ると、1位から5位までがパ・リーグの球団という結果であり、勝敗で見るとパ・リーグの61勝44敗3引き分け。実に交流戦でパ・リーグは17もの貯金を獲得しており、その結果7月3日にはセ・リーグの全チームが負け越すという、なんとも不名誉な現象が発生してしまったのだ。

 このセ・リーグの体たらくについて、「それもこれもプロ野球を引っ張っていかなければいけない、巨人と阪神のだらしなさが最大の原因だ」と著書『セ界恐慌 プロ野球の危機を招いた巨人と阪神の過ち』(宝島社新書)で語っているのが、南海ホークスなどで活躍し、ヤクルト、阪神、楽天の監督も務めた野村克也氏だ。

 野村氏は、ペナントレースで2位となり今シーズン限りで退陣した巨人の原辰徳監督について、こう評価している。

「若いときの苦労は買ってでもしろというが、下積みがないところが、監督業や采配でもでてしまう。
 原監督の采配で一番気に食わなかったのが、4番打者をコロコロ変えたことだ。(中略)
 コロコロ、コロコロ4番が変わっていては、選手が育たない。『信は万物の基をなす』で、こうと決めたら貫いてほしい。日替わりでは選手も『俺は監督に信用されていないんだな』と思うはずだ」

 強い信念を持った采配ができなかった原監督を、野村氏は痛烈に批判しているのだ。

 その一方で巨人といえば、金に物を言わせた補強策でおなじみであり、だからこそ選手が育たないという側面もある。スポーツライターの小関順二氏は、著書『間違いだらけのセ・リーグ野球 パ・リーグばかりがなぜ強い!?』(廣済堂新書)でこう分析する。

「セ・リーグが交流戦や日本シリーズでパ・リーグに勝てなくなったのは牽引役の巨人、中日、阪神の先細り状態と無縁ではない。単純にパの各球団に勝てなくなったというだけでなく、そのチーム作りがマスコミや野球ファンに申し訳が立たないと思わせるものが、今も続いている。セ・リーグ牽引役のチーム作り、それは他球団の主力選手を過剰に獲得して自チームの中心に持ってくることである」

 FAやトレードで他球団の主力選手を獲得するという手っ取り早い補強策に出る巨人や阪神だが、残念ながら思うような結果は出ていない。しかし、それでもこういった金満体質はなかなか変わらないという。

「買うのは実効性ではなく安心なので、この“爆買い”クセはなくならないだろう」(小関氏『間違いだらけのセ・リーグ野球』より)

 とにかく“優秀な選手で補強した”という事実こそが重要であり、そうして補強することで“戦う態勢が整った”と安心してしまっているのが、巨人であり阪神なのだ。しかも“それでダメなら、また補強すればいい”という思考停止状態に陥っているため、どうしようもないのだ。

 また、そういったセ・リーグの上位球団の金満体質をなかなか批判できないというよくない雰囲気もあるようだ。『間違いだらけのセ・リーグ野球』のなかで小関氏は、2015年7月21日付け毎日新聞夕刊の「パ 強さの秘密」という記事に言及している。

「多くの野球評論家はパが優位なのは昨年までは2連戦が原因だとか、指名代打の有無とか、瑣末な部分に勝因を見出そうとした。人気のあるセ・リーグを擁護することで球界全体が低調にならないように配慮する、そういうことが背景にあったのだと思う」

 セ・リーグが金に物を言わせた補強ばかりをして、若手をしっかり育てられないということが、弱体化の大きな原因であることは自明であるにも関わらず、ある意味それがタブーであるかのような妙な雰囲気があるというのだ。

 とはいえ、野村克也氏にはそんなタブーが通用するはずもない。前出の『セ界恐慌 プロ野球の危機を招いた巨人と阪神の過ち』では、巨人の選手による野球賭博事件について、厳しい意見をぶつけている。

「まったく最悪で、話にならない。詳しい内容までは知らないが、そんなものに手を染めるとは、野球選手としてだけではなく、人間失格」
「今回の巨人の件は、まさに『子を見れば、親がわかる』の典型。今季限りで退任する原辰徳監督は選手の人間教育などやっていなかったのだろう。そういうミーティングをやっているという話は聞いたことがない。足かけ10年以上も監督をやっているのに、一体何を教えているのだろうと思う」

 野村氏から見れば、原監督は“野球の采配以前”ということだったようだ。

 ちなみに、野村氏が牙をむくのは巨人や阪神だけでない。圧倒的な強さで日本一となったソフトバンクについても、嫌味をぶつける。

「孫正義オーナーが惜しげも無く大金を注ぎ込むことは凄いが、それにより優勝がカネで買える時代になってしまった。二軍にも一軍で投げられるような投手がゴロゴロいて、誰かケガをしても、代わりにあまり見劣りのしない選手がすぐに出てくる」

 ソフトバンクは金満体質の成功例とも言えるが、選手の育成も怠らないという点は、しっかり野村氏も評価しているようだ。

 しかし、ソフトバンクと同じくIT企業が親会社である楽天については、厳しい見方だ。

「15年、大久保博元が監督になったが、そもそも楽天が大久保を監督にしたのはおかしいと思った。いくら何でも監督はない。初めて聞いたときは、プロ野球をバカにしすぎだと憤ったほどだ。まぁ今となっては、三木谷オーナーが言いたいことを言えて、言うことを聞く人物を据えただけだとわかるが」

 さすがに大久保氏をバカにしすぎとも思える野村氏の見解だが、実際、三木谷浩史オーナーによる現場介入に我慢ならなくなった田代富雄打撃コーチがシーズン半ばで退団するという出来事も起きている。

「楽天は2年連続で最下位に終わったが当たり前だ。野球経験もないオーナーが『このメンバーで行け』と口を出してきたら、勝てるわけがない」

 まさにごもっとも、野村氏の言うとおり。いくらお金を出しているからといって、オーナーがすべてを決めてしまうのなら、監督もコーチも必要ない。楽天という球団は、監督・コーチにとっては、まったくもって野球ができる環境とは言いがたいのだろう。

 強くもならないのにただ金に物を言わせて、よく考えもせずライバル球団から主力選手を奪い取るだけの巨人や阪神がセ・リーグの没落に拍車をかけているのは間違いないだろう。さらに言えば、ろくに選手の育成もしないで、FAやトレードばかりに頼っているから、若手選手が賭博なんていうものにハマってしまうのだ。

 そもそも賭博行為は野球協約に抵触するだけでなく、単純に犯罪行為である。結果的に犯罪者を生み出しかねない球団運営であると考えると、巨人は相当に罪深いことをしてきたといえるだろう。どうしても、野村氏が巨人を批判していると、少々の嫉妬心的なものが見え隠れしてしまうが、実はそんなレベルの話ではない。犯罪行為を防ぐことができなかったという点で、今の巨人はかなりヤバいことになっているのかもしれないのだ。

 少し前に相撲界で次々と不祥事が起き、本場所が中止となったり、観客が激減したりといったことがあったが、いまのプロ野球界だって他人事ではないはず。賭博行為の発覚をきっかけとして、次から次へと不祥事が表沙汰になる可能性だって否めない。取り返しの付かないことになる前に、もっと真剣に体質改善を図る必要がありそうだ。
(田中ヒロナ)

最終更新:2015.12.13 11:04

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