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「コロナの犠牲でなく、えらい人が考えた基準の犠牲になった」という遺族の訴えに加藤厚労相が“国民の判断の目安にすぎない”と開き直り
5月8日、厚生労働委員会での加藤厚労相(衆議院TVインターネット審議中継より)
ここにきて、厚労省はようやく2月17日に示した「37.5度以上の発熱が4日以上続いた場合」(高齢者や妊婦、基礎疾患のある人については2日)という「相談・受診の目安」を見直すと方針転換した。新しい目安は「37.5度以上」にこだわらないものになると見られているが、現在の「目安」がPCR検査抑制の要因となり多くの人が検査を受けられず、さらに重症化して死亡するケースが出ていることを考えれば、あまりにも遅すぎる判断だ。
しかし、事ここに至っても、安倍政権には自分たちの判断によって犠牲者を出してしまったことへの反省は一切ない。それどころか、本日おこなわれた衆院厚労委員会では、加藤勝信厚労相が逆ギレし、“自分は悪くない。国民や保健所が悪い”と自身の責任をすべて転嫁したのだ。
加藤厚労相といえば、4月29日の参院予算委員会で “4日ルール”について問われた際、「『37.5度4日』というのは、ようするにそこ以上超えるんだったら必ず受診をしていただきたい、そういうことで出させていただいた」などと強弁。国民もメディアも「熱が出ても相談・受診するのは4日以上待て」という意味だと受け止め、実際に「まだ日数が足りない」「4日経っていない」と検査してもらえないケースが相次ぐなど現場で運用されてきた現実があるというのに、加藤厚労相は“自分は最初からそんなことを言っていない”と開き直った。
そして、目安の変更について質問が及んだきょうの厚労委員会でも、こんなふうに強弁したのだ。
「この『受診・相談の目安』は検査機関に対するものではまったくございません。これは従前から申し上げているとおりであります。国民のみなさんに『そうした状況になったら必ず受診をしてくださいね』と。そして当時、2月の当初はですね、新型コロナウイルス感染症はいったいどういった症状をもたらすのか、ま、必ずしもわかっていませんでした。国民のみなさんもわかっていなかった。しかも当時は2月ですから通常の風邪、あるいはインフルエンザ等の他の疾患もありました。そうしたなかで『ま、風邪だから』ということで待つのではなくてですね、4日続くのであれば、これは新型コロナウイルスの疑いがあるので受診したり相談してください。そういう趣旨でつくったものなんです」
言っておくが、加藤厚労相がこの「相談・受診の目安」を公表した2月17日の会見では、「4日以上待たないで必ず受診して」などとはまったく口にしていない。だからこそ、相談センターに電話しても「4日経っていない」などと撥ねられ、さらには4日以上経っていても検査を断られるケースが続出したのではないか。だが、加藤厚労相は、この“4日ルール”は「検査機関に対するものではまったくない」と主張し、「弾力的に総合的に判断してくださいということも幾度となく申し上げてきた」と答弁したのである。
相談センターや医療機関が勝手に“4日ルール”で運用し、何度も弾力的に判断しろと言ったのに、言うことをきかないだけ──。厚労大臣がこんな責任転嫁や言い訳を繰り返している時点で、もはや大臣失格、辞任に値する発言としか思えないが、さらに酷かったのはこのあとだ。
“4日ルール”を見直した新たな目安では、重症化リスクがない「一般の人」の場合は「37.5度以上」という数値での縛りは明示せず「息苦しさや強いだるさ、高熱などの症状がある場合」はすぐに相談するよう呼びかけるとし、重症化リスクがある人は「発熱やせきといった比較的軽いかぜの症状がある場合」となり、「高熱」「発熱」の区別がなされるという(NHKニュース6日付)。しかし、この見直し案について質問をおこなった野党統一会派の柚木道義衆院議員は、「通告のことで役所の方といろいろやりとりした」際、この見直し案について厚労省からこんな回答が返ってきたと明かした。
「たとえば高熱、『高熱が2日以上続く』とか、『2日以上』ということも言われたんで。じゃあ当然『高熱って何度なんですか』と訊きますよ、当然。みんなわからないから。担当の方はどう答えられたと思います?『37.5度』と答えたんですよ。(これまでと)同じことになりませんか」
「37.5度4日」ルールを国民や検査機関の勘違いと責任転嫁する加藤厚労相
見直すと言っているものの、実質的には「37.5度以上が2日以上」と前と同じような縛りがある中身になってしまうのではないか。こう疑義を呈した柚木議員は、「(加藤厚労相は)外ではいろいろ喋られているが、ここは国会ですから、度数の数字は外す、日数も入れない、あるいはそうじゃない、どちらかくらい見通しをここで答えて」と追及。しかし、答弁席に立った加藤厚労相は、こう切り出したのだ。
「私、それ外で喋ったことないんで。私は外で喋ったことはありませんから、そこははっきりさせておきたい」
何を言うのかと思えば“それはフェイクだ!”って……。しかもこれは嘘だ。実際、加藤厚労相が目安の見直し方針を示したのは、6日午前、神奈川県の医療施設で視察をおこなったときの記者の囲み取材でのことだからだ。
その上、加藤厚労相は「専門家会議に出した資料では『37.5度』という言葉は出ていない」と抗弁し、またも逆ギレしてみせたのだ。
「(柚木委員のように)『じゃあ高熱は何度ですか』と訊かれるんですね。じゃあ、また今度は高熱を調べるのか。まさにそこはずっと、これは本当に、一方でこう言うとですね、必ず『基準を示してくれ』(と言われる)。で、基準を示すとですね、『それじゃなきゃダメなのか』。そのやりとりをずーっとじつは繰り返している部分もあります」
なんでもかんでも“野党のせい”にする加藤厚労相だが、問題なのは「高熱というのは37.5度以上のこと」だと厚労省が隠れた基準を設けるつもりなのではないかということだ。だいたい、加藤厚労相は6日の囲み取材の際、「平熱は人によってそれぞれ」と述べているのだが、ならば「高熱」「発熱」などという判断が分かれる基準ではなく、「いつもより熱が高くて不安な人はすぐに相談してほしい」と言えばいいだけ。それも言えないのは、いまだに検査を抑制しようとしているのではないか。
この無責任極まりない答弁を受け、柚木議員は「検査機関がこれに基づいて運用して、実際に断っているんですよ! これわかっていなかった国民のみなさんが悪いんですか? 勝手に運用した検査機関が悪いんですか? それで何人の方が亡くなっているんですか!」と怒りをあらわに。「ご遺族の方は『あのとき自分が検査をしてもらえるようもっとお願いしていれば』と自分を責めている」と言い、“泣きながらPCR検査を頼んだにもかかわらず断られ、発熱から6日後に検査は受けられたものの、即入院で呼吸困難に陥り、3日後に死亡”した遺族による、こんなコメントを読み上げた。
「私たちはコロナの犠牲者ではありません。どこかの偉い人たちが考えた基準によって、父や家族は犠牲になっています」
「コロナの犠牲ではなく、偉い人が考えた基準の犠牲になった」という遺族の訴えに、加藤厚労相は…
コロナの犠牲者ではなく、国が設けた目安によって犠牲者になった──。これは他の遺族からも出ている指摘だ。たとえば、単身赴任中の50代の男性が社員寮で“孤独死”した件では、亡くなった男性の妻が「このままではきっとまた、同じような不幸が起きます。なぜ、検査まで6日もかかったのか、なぜ結果まで1週間と言われて、せきや39度近くも熱があって入院もできなかったのか」と訴えている(毎日新聞 医療プレミア4月22日付)。
そもそも、“4日ルール”の危険性は2カ月以上前から指摘されていた。現に、和歌山県の仁坂吉伸知事は2月28日に、政府の「受診の目安」について「自宅待機させることで、かえって早期発見と悪化防止の妨げになる可能性がある。クリニックもパンクしている状況にない」と批判し、「和歌山県は従わない」と宣言していた。ここまで放置してきたのは、安倍政権なのだ。
こうした事態を生み出した“4日ルール”を設けた責任を、加藤厚労相はどう考えるのか。柚木議員は「“4日ルール”がはからずも運用がされてしまった、国民がそう受け止めてしまった(としても)、せめて一言、お詫びの言葉をここで述べていただけないか」と追及したのだが、しかし、加藤厚労相はこう言い放ったのだ。
「当時の議論として、国民がわからないというのは、当時、いったい新型コロナウイルス感染症はどういった症状を出すのかわからない、当初ですよ? ということがあったんで、こういう目安をつくりましょ、そういう話を申し上げた。そこは誤解していただきたくない」
「(目安が相談センターや医療機関でも)使われているということがあるんで、これは幾度となく『そうではないんだ、総合的な運用をしていただきたい』と通知も出させていただいて、今回出す通知もですね、したがって相談や受診側がこれで判断するものではありません。国民のみなさん方が受診や相談の、あくまでも判断の目安にするものとして出させていただいている」
悲痛な遺族のコメントを聞いても、「国民がコロナの症状がわからないというから目安をつくっただけ」と開き直った加藤厚労相……。しかも、「今回出す通知は相談や受診側がこれで判断するものではない」ということは、今後も現場では“4日ルール”が続いていく可能性まであるのではないか。
“4日ルール”によって多くの人が重症化し、救えたかもしれないのに亡くなってしまうという犠牲者を出しながら、反省はおろか、抜本的な見直しをおこなおうとはしない加藤厚労相。いや、そもそも最初から感染拡大を防ぐという観点に立っていれば、和歌山県の仁坂知事のように“4日ルール”などは設けていないはずなのだ。事態をここまで悪化させたにもかかわらず、いまだに問題解決を図ろうとしない安倍首相と加藤厚労相が舵取りしていること、それこそが「国難」だ。
(編集部)
最終更新:2020.05.08 09:29
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