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タイ代理出産事件で大新聞が光通信御曹司の名前を伏せ字にした理由
「週刊文春」8月28日号(文藝春秋)
なんとも奇怪な“事件”が日本を騒がせている。24歳の独身日本人男性がタイで体外受精と代理母を使い、自分の子どもを16人も出産させていた。しかも、この問題はメディアの奇怪な対応も引き出すこととなった。
このニュースがタイからもたらされたとき、当初、疑われたのは人身売買や臓器売買だった。東南アジアでは幼児が誘拐され売春婦にされたり、臓器を取られたりという犯罪が頻繁に起きていることからの憶測だったが、そういう事実はなかった。そして、かわりにマスコミが色めき立ったのが、この男性の正体だった。男性は大手IT企業の「光通信」創業者・重田康光氏の長男だったのである。
「光通信」は今でこそIT企業の大手だが、90年代後半に携帯電話の販売で大きな注目を浴びたベンチャー企業だった。だが、その強引な手法は次第に大きな批判を浴びていく。それを決定づけたのが「文藝春秋」(2000年4月号)に掲載された記事だった。「光通信」が架空の契約書の捏造を行い、契約内容を偽って販売していたことなど、商法を批判したものだが、記事は創業者の重田社長(当時)が幼少期に飼っていたニシキヘビに生きたウサギを餌に与え「強い者が勝つんだ」と笑ったというような人格批判にも及んでいた。
いずれにしても、これをきっかけに多くのマスコミが「光通信」商法への批判を強めていった。「実力主義、全員主義」という荒っぽい営業手法、ベンチャー企業への乗っ取りを前提とした出資攻勢などが問題とされた。そのため「光通信」の名前は今で言うブラック企業の代表として批判され、同時に株価の大暴落という事態を招き、さらにマスコミ報道は加熱していった。
だが奇跡的というか重田の辣腕からなのか、その後はシャープやソフトバンクの営業を請け負うなどして奇跡的復活を果たし、現在にまで存続する大企業となっている。
そんな過去の経緯もあり、週刊誌は御曹司の代理出産ネタをこんなふうに大きく取り上げた。
「毎年10人子どもを作り、最終的には100人か1000人ももうけたいと語っている」「カンボジアに子どもを育成する秘密の隠れ家を持っていた」
「光時の父親と母親も大量出産を支援している」「莫大な資産の相続税対策」
「多くの子どもを作るのは選挙に出て勝つための人員」「新たなカルト集団を作ろうとではないか」「光時と行動を共にしているパートナーは性転換した元男性」
特に「週刊文春」「週刊新潮」では、「光通信」の社名と本人の実名をタイトルに使った特集記事を掲載した。
「タイ代理出産 光通信御曹司・重田光時 乳幼児『育成の農場』に初潜入!」(「週刊文春」8月28日号)
「億万長者『光通信創業者』ご長男の人間牧場」(「週刊新潮」8月28日号)
だが、その一方で、新聞では不可解な事が起きていた。全国紙が載せた「週刊文春」「週刊新潮」の新聞広告を見ると、該当タイトルの固有名詞の部分に奇妙な白マルが並んでおり、伏せ字になっていたのだ。
まず、毎日新聞(8月20付)の「週刊文春」広告はこのようなものだった。
「タイ代理出産 光通信御曹司・○○○○ 乳幼児『育成の農場』に初潜入!」
朝日新聞は名前に加えて、社名の一部も伏せられていた。。
「タイ代理出産 ○通信御曹司・○○○○ 乳幼児『育成の農場』に初潜入!」(週刊文春)
「億万長者『○通信創業者』ご長男の人間牧場」(週刊新潮)
さらに読売新聞になると、一切の固有名詞が白マルになっていて、もはや何がなんだかわからない状態である。
「IT企業御曹司・○○○○ 乳幼児『育成の農場』に初潜入!」(週刊文春)
「億万長者『○○○創業者』ご長男の人間牧場」(週刊新潮)
いったいこれはどういうことなのか。広告代理店関係者はこう推測する。
「光通信はグループ会社を200社以上抱え、連結売上高が5600億円以上の大企業。いわばメディアにとって大スポンサーです。また光通信はメディア広告事業を行うなど、広告代理店という側面も持っています。そういうことが関係しているんじゃないでしょうか」
「光通信」という大企業への配慮というわけだが、三大紙が揃って自粛するのはもうひとつの理由があった。それが御曹司サイドが複数のメディアに送りつけた「申入書」だ。
「申入書には『どのように子どもを持ち、育てるのかということは、申し入れ人のプライバシーに関わる問題』『プライバシーを侵害する取材・報道行為が行われた場合には、必要な法的手段をとる』と、メディア報道に警告する内容が書かれていたようです。しかもこれを送ってきた光時氏の代理人は、数々の名誉毀損事件を手がけて、メディア相手に連戦連勝を果たしていることで知られる弘中焞一郎弁護士。週刊誌は申し入れを拒否したようですが、大新聞は“人権に関わる”と完全にビビってしまったようです」(大手紙広告関係者)
しかし今回の一件がいくらプライバシーに関わるとはいえ、「光通信」は一部上場の大企業で、その手法において多くの問題を指摘されてきた会社。しかも、父親の重田康光氏は現在もCEO兼会長として会社に君臨し、社員たちに“神様”と崇められている実力者。光時氏自身も「光通信」株68万5500株を持ち、父親から与えられた資産管理会社で「光通信」株を110万株も保有しているいわば大株主だ。そんな人物が莫大なカネを使い、卵子の提供を受け、代理母を契約、ベビーシッターを雇い、16人もの子どもを次々と作っていたのである。
今回の騒動は「光通信」という大企業の経営体質に加えて、生殖医療、生命倫理、子どもの将来など、様々な問題を内包している。しかし大手新聞社はそれらを検証することすら放棄し、自己保身のもとに週刊誌の広告タイトルにまで介入した。
「たしかにこれまで、自社の批判を掲載した週刊誌の広告タイトルをベタ塗りにしたり、シロ抜きにしたことはありました。しかし、それらのほとんどは性表現や差別表現、あるいは少年法などの法律に抵触する可能性のあるケースだった。一企業の社名を伏せるというのは、ちょっと異常です。それくらい、新聞は光通信にナーバスになっているということでしょう」(週刊誌関係者)
問題の御曹司は未だにタイ警察からの事情聴取に応じず、公の場でコメントもしていない。そのため“本当の動機”は不明のままだ。大新聞がこの体たらくで、真相解明は果たされるのか。今後の動向に要注目だ。
(田部祥太)
最終更新:2014.09.16 07:54
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