紅白出場のKing Gnu・井口理のリベラルな姿勢に注目! 米イラン緊張でマイケル・ムーアをRTし日本の戦争加担に危機感

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King Gnu・井口理Twitterより


 米国とイランの戦争危機はひとまず回避されたようにみえるが、一触即発の緊張状態は決して解消されたわけではない。テロの危険性はむしろ高まっているし、トランプがまたぞろ突発的な軍事行動を起こす可能性も十分ある。しかし、日本のメディアやSNSなどをみていると、そんな危機感はほとんど感じられない。イラン問題などすっかりなかったことのようだ。

 いや、実は日本の無関心は事態が収束したようにみえるからではない。そもそも、米国によるソレイマニ司令官殺害直後、Twitterで世界的に「WWIII」がトレンドになるほど、戦争の危機が高まっていても、日本だけは“お正月ネタ”がトレンドになっていた。

 そんななか、意外な人物が、米・イラン緊張に関連してツイートしていたのをご存知だろうか。「King Gnu」(キング・ヌー)の、井口理だ。

 King Gnuといえば、昨年のメジャーデビューから大ブレイクした飛ぶ鳥を落とす勢いのミクスチャーバンド。ドラマ主題歌になった「白日」が大ヒットし、年末には『NHK紅白歌合戦』にも出場、今月15日に発売されたばかりのニューアルバム『CEREMONY』も大ヒット中の若手実力派4人組だが、そのツインボーカルのひとりである井口理が、自身のTwitterで「#WWIII」のハッシュタグをつけて、こんな投稿をしていた。

〈ここでムーア氏が言う「我々」という言葉、おれも他人事ではないんだろうな。自分みたいな若者が政治に無関心でいないこと、起きている出来事に疑いを持つことで何かを変えていきたいと思う。日本が後に続かないためにも。#WWIII〉(1月8日)

 井口は、この大戦争へ傾く世界情勢について、「自分みたいな若者が政治に無関心ではいけない」「起きている出来事に疑いをもって、何かを変えなければ」という意思を表明したわけだが、これには少し説明が必要だろう。

 まず、「ムーア氏」というのは映画監督のマイケル・ムーアを指し、井口が言及しているのはムーアが今月4日にPodcastで緊急公開した声明「— Trump Assassinates Soleimani — “An Act of War”」のことだ。井口はこれを翻訳した一般ユーザーの連続ツイートを読んで、それをリツイートしながら上の投稿をしたのだ。

 アメリカはこれまで敵国や敵対組織のリーダーを何度も殺害し、自国民には「その人物が巨悪である」とプロパガンダをうった。そうすることで犯罪を正当化したり、大統領のスキャンダルから目を逸らさせてきた。トランプもまた自身への弾劾裁判を控えているなか、ソレイマニを殺害した。こんな愚かなことのために、罪のないアメリカの人々の血を流さなければいけないのか。アメリカの歴史は他国の選挙・政治への介入の繰り返しだ。イランとイラクもそうだった──。

 ムーアはPodcastのなかで、トランプ大統領がイランのソレイマニ司令官を殺害したことに関して、このような調子で、アメリカの中東を含めた他国への軍事・政治的介入と自国民へのプロパガンダの歴史を語っていた。井口が引用している「我々」というのは、ムーアのこういったセリフにかかっているのだろう。

「あの戦争で失われた命は、我々が奪った命だ。『我々』というのはね、忘れないでほしい、税金を払っていたら『我々』になってしまう。たとえ戦争に反対したとしても、抗議デモをしたとしても、アメリカという『我々』の名のもとに戦争が行われたのだとしたら。私たちは戦争を止められなかった、私たちの税金が使われた。だから『我々』なんだ」(訳:編集部)

 King Gnuの井口が、ムーアのいう「我々」という言葉に「おれも他人事ではないんだろうな」と反応したのは、米国とイランの緊張の高まりの先にある全面戦争を意識したとき、はたして日本で生活している自分のような若者が無関係でいられるのか、という問いだ。

 日本はアメリカの同盟国であり、アメリカは日本を安全保障・軍事の面で利用している。そして、日本の政府は自分たちが納めた税金でアメリカの軍隊の支援をしており、数日後には自衛隊を中東に派遣することを決めた。私たちは戦争を起こそうとしている「我々」に含まれないのか。

 中東で戦争が始まって、たとえ日本人が殺されたり、直接的にイランの人々を殺したりしなかったとしても、「我々」の税金が戦争に使われる。いかに政治に無関心であったとしても、「我々」がいまの政権を選んでいることによって、日本はその戦争に加担してしまう。

 そうした思考回路を経て、井口は〈自分みたいな若者が政治に無関心でいないこと、起きている出来事に疑いを持つことで何かを変えていきたいと思う。日本が後に続かないためにも〉とツイートしたのだろう。

 実際、井口はこの投稿の後も、一般ユーザーからの〈もう安倍さんが自衛隊を中東に派遣するって勝手に閣議決定しちゃいましたけどね 井口さんみたいな影響力ある方がどんどん発信して戦争なくなればいいです〉というツイートを受けて、〈中東派遣のことも考えるとこれからどうなるか怖いですよね。ただ、こうしておれが発信しただけでは何も変わらないので、どう行動するか含め、ちゃんとみんなで自分の中に答えを出していけたらいいなと思います〉と返信していた。

 前述したように、国際的な問題への想像力、King Gnuという、いま音楽シーンでもっとも勢いのある若手バンドのボーカルが「他人事じゃない」「無関心ではいけない」というメッセージを発信したのは、大きな意味がある。同世代のリスナーも含め、多くの人に目の前に迫る戦争について、等身大で考えるきっかけを与えたはずだ。

京都アニメーションの放火殺人事件に見せた「他者への想像力」と「包摂」という価値観

 井口といえば、その美しい歌声とは裏腹に、ファンからはSNSやラジオ番組では“おふざけ愛されキャラ”として知られているが、実は戦争についてツイートするのははじめてのことではない。
 
 たとえば、昨年の広島の原爆の日に〈平和ボケしながら、悲しみに目を向けながら生きてくよ。母ちゃん父ちゃんありがとう〉(2019年8月6日)とツイート。2018年の8月6日にはこのように綴っている。

〈過去に起きてしまった出来事を、そのうち資料や伝承でしか知ることは出来なくなっても、おれたちは想像することができる。それが自分や、自分の大切な人の身に降りかかるかもしれないって。だから「歴史は繰り返さない」し、繰り返そうとしてる奴がいたら間違いだよと言える井口でありたい。〉

 井口が政治や社会問題にコミットすることは決して多くはないが、発言を丹念に追っていくと、その考え方が表層的なものではなく、深いところで、平和、包摂、多様性といった価値観を大事にしていることがよくわかる。

 その典型が、2019年7月に起きた京都アニメーションの放火殺人事件のときのラジオだ。井口は、『オールナイトニッポン0(ZERO)』木曜日のパーソナリティを務めているが、昨年京アニの事件が起きた7月18日深夜の放送で、事件について語った。

「僕らも音楽をつくっていて、京都アニメーションで働いている方々もアニメをつくっている。同じ状況だったら、もしかしたら僕らにも降りかかっていた事件かもしれない」と同時代のクリエイターとして被害者たちに思いを寄せて語り出した井口だが、その後、繰り返し語ったのは、犯人への非難でなく、他者への想像力と包摂の重要性だった。

「犯人がどういう経緯でそこに至ったかはわからないけれども、俺はやっぱり、なんか、なんだろう。たとえば、電車で席を譲る、とかね、っていうことが、もしかしたら譲られた側にしたらたいしたことないかもしれないし、でもその人はものすごく救われるかもしれないし。逆に体が当たってしまって、舌打ちをされた。された側はその日、ものすごくネガティブな気持ちになるかもしれないし、ずっと絶望の淵にあった人がそれをされたら、もしかしたら、何かそれがきっかけで悪いほうに転じてしまうかもしれないし。ていう、なんだろう、俺が今日席を譲って、それが巡り巡って、もっとこう遠い人、その人じゃなくて、その人を取り巻く環境の人のもっと外側に届いてしまうかもしれないなあとか。やさしさが届いてくれるかもしれないし」
「もしかしたら、できたことがあるかもしれないって思うのは、今日の事件に対してね、すごい驕りだとは思うんだけど。でもなんか、明日を生きるとか、そうしていくうえで、できることってあるんじゃないかなって俺はすごい思ったので。こうしてほしいってわけではないんだけど、みなさんに」

 また井口の話を聞いたリスナーからの「多様性を認めることが大事なんじゃないか」というメールに答える形で、こう語った。

「やっぱり人間の尊いところって想像ができるっていうことだから、人の気持ちがわかるとか、その人の置かれた状況は自分には起きたことないけどでも自分だったらこうだろうっていう考え方ができる生き物だから。すごく多様性を認めるっていうのはすごく大事なことだと思うし、それが平等につながると思うし、平和につながるのかなと、僕も常々そう思ってますね」

安田純平氏への「自己責任論」バッシングにも違和感を表明するツイート

 多くのワイドショーコメンテーターを務める芸能人がそうであるように、こうした凶悪事件が起きたときは、ただただ犯人を激しく糾弾するのがいちばん無難だ。そういった犯罪を生む社会構造を問題にしただけで、「犯人を擁護するのか」などと非難される。メディアでもネット世論でも、背景にある社会の構造的な問題を無視して、犯人を異物としか捉えないのはもちろん、ひいては異質な存在を犯罪予備軍とみなす阻害や排除の空気は、年々強まっているから、なおさらだ。

 しかし、そんななか井口は、そうした排除の空気こそがこうした事件を生むのではないか、多様性を認めること、自分の知らない遠くの他者への想像力をもつこと、そうなれる社会にしないと、こうした犯罪もなくならないと訴えたのだ。

 井口が世間の空気に抗って勇気ある発言をしたのはこのときだけではない。2015年、後藤健二さんと湯川遥菜さんがISに人質にとられ殺害された事件でも、日本で吹き荒れた自己責任論バッシングに、井口は異議を唱えていた。

〈ここからは遥か遠い荒れた土地で彼は、二度と帰ることが出来ない家族や故郷を想い、受け入れがたい現実と向き合い、そして殺された。こんなに悲しいことってあるだろうか。自分の責任で死ぬなら仕方ないと言えるあなたは強い人なのかもしれない。でも今はただ、何も言わずに祈ろう。どうか彼に安らぎを〉(2015年2月1日)

 2018年10月には、中東の武装勢力に長期拘束されていたジャーナリスト・安田純平氏が帰国し、ワイドショーやネット上で「自己責任論」の大バッシングが吹き荒れるなか、井口はこんなツイートをしている。

〈今まで人に迷惑ばかりかけてきた人生なので各位に本当に申し訳ない気持ちがあること前提で言いますが、「人に迷惑をかけるな」と言ってしまう人間はヒマラヤの奥地で天涯孤独の修行僧にでもなればいいと思うので、お漏らししたパンツを一緒の洗濯機に入れても怒らないで欲しい〉(2018年10月26日)

 普段社会問題について積極的に発言するわけではない井口が、このとき、あえてこうした言葉を口にしたのも、遠くの他者に対する想像力を持つことや、異物を排除せず包摂することに、それだけ大きな価値を置いているからだろう。

 井口は昨日16日の『報道ステーション』(テレビ朝日)で阪神大震災関連の特集でナレーションを務めた。1993年生まれの井口がナレーションを務めたことでリアルタイムには震災を知らない世代のファンたちが大きく反応しており、その表現力と発信力の強さがあらためて感じられた。周知のとおり、日本のマス音楽シーンでは、アーティストが政治や社会問題について発言することに否定的な風潮があるが、今後も積極的に発信してもらいたい。

最終更新:2020.01.17 12:19

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