ビジネス本が語る企業の「進化論」は大ウソ! 99.9%が絶滅する現実

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『理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社)

 日々大量に刊行される“自己啓発系ビジネス書”の数々。一体どんな「ビジネス」に役立つのかよくからないものばかりなのだが、これが近年ベストセラー連発の流行ジャンルなのである。書店の関連コーナーは、もはや一種の社会現象ではないかというくらいの盛り上がりようだ。だが、実際に中身を読んでみると、ずいぶん怪しいものが多いことがわかる。単なる成功者の自慢話だったり、人間力(?)を向上させるとかいう就活指南もどきだったり……。「なんぞこれ、どういう理屈?」と思うこともしばしばだ。

 この種の本を乱読するうちに、気づいたことがある。カリスマ経営者として知られる人物たちは、どういうわけか、そろいもそろってビジネスを“進化論”風に語ろうとするということだ。たとえばこんな具合。

「『適者生存』こそ真理です。滅びる企業は競争相手に負けたのではなく、日々刻々と変わっている環境にうまく適応できかったというだけのこと」(京セラ創業者・稲盛和夫)

「突然変異種をどれだけ持っているかが、企業の新たな発展の大きな力になる」(ダイキン工業取締役会長・井上礼之)

「国際輸送業者として世界的な営業網を充実させ、業績は伸びましたが、社員数は逆に減りました。むろん、リストラで減らしたのではなく、採用抑制による自然淘汰です」(近鉄エクスプレス元代表取締役会長・雲川俊夫)

 いわば“ビジネス進化論”である。その背後に透けて見えるのは、実績を挙げた企業や人材だけが優秀で他は愚劣だったという、あからさまな“強者の論理”だ。でも、こういうのって、一見もっともらしいけれど、本当なのだろうか? というか、世の中ってこんなに勝者とか強者とかいう人たちで溢れ返っているのだろうか?

 と、そんなことを考えているとき、たまたま、一冊の本を手に取った。その名も『理不尽な進化』(朝日出版社)。進化っていう言葉には進歩的で合理的なイメージがあるけれど、それが「理不尽」であるとは、なんとも意味深なネーミングである。著者は在野の哲学研究者であり文筆家の吉川浩満氏。本書は、現代の進化生物学に至る科学史として、あるいはエポックメイキングな大衆思想として、かのダーウィンの進化論がいかにして受容されてきたかを腑分けする哲学的・科学的エッセイなのだが、とりわけ、気がかりだった“ビジネス進化論”に関係する箇所が目をひいた。

 本書によれば、ビジネス書や自己啓発本が奉じる俗流進化論は重大なことを見落としているという。本家本元の進化論が示すのは、これまで地球上に出現してきた生物種のうち、じつに99.9パーセントが絶滅したという厳然たる事実だ。つまり、生き残ったのはわずか1000分の1。しかもこれは「生まれて 老いて 病んで死ぬ」(©みつを)とかっていう話ではまったくない。

 古生物学の常識では、絶滅種の大部分は、競争に敗れて滅びるというより、たんに「運が悪い」せいで滅びるのだという。いわば、理不尽な仕方でこの世からの退場を余儀なくされるのだ。もちろん競争は存在するが、競争のルールそのものが運によって決まってしまうのが、この世界なのである。

 そう考えてみると、人間の社会も同じではないか。企業の存続ひとつをとってもそうだ。さまざまな会社が浮かんでは消えていく。何十年も存続するのはごくごく一部で、大多数は泡沫である。しかも、産業構造や政治体制の変化といった“環境要因”は一個人や一企業の努力や能力でどうこうできるものではなく、ほとんど運の問題だ。たとえば最近でいうと、原油価格の下落によって自動車メーカーなどは儲かっているが、他方で採掘業者などはコストをペイできずにバッタバタと倒産している。なお、原油価格は株式市場みたいに投機で上下するから、たまたまこれが逆だったら、採掘業界はガッポガッポで自動車業界は阿鼻叫喚というわけ。ようするに賽の目しだいってこと。

 それなのに、自己啓発系ビジネス書は自分たち(書き手と読者)が生き残りの「0.1パーセント」に属すると勝手に仮定する。確率的にいって、むしろ「99.9パーセント」の側に属すると考えるのがマトモじゃないのか?

 もちろん、人は成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。成功したあと失敗するかもしれないし、失敗したあと成功するかもしれないし、ずっと成功しっぱなしかもしれないし、ずっと失敗しっぱなしかもしれない。しかしそれは「自己啓発度」の多寡によって決まるのではない。“ビジネス進化論”の教条が見本にしているはずの本家本元の進化論が教えるのは、成功も失敗も環境と能力のマッチング/ミスマッチングによって決まるのであり、その大部分は運が左右するということなのである。

 結局、自己啓発系ビジネス書が語る「適応」や「進化」は、自らの願望を社会や自然に押しつけているだけではないか。というか、これって「成功」という餌をちらつかせて、本来どうにもできないことをどうにかできると言いくるめる詐欺なんじゃないだろうか。

 本書から学問的な用語を引いてくれば、それは「生存バイアス」と「公正世界仮説」という認知バイアスを利用したトリックだ。こうした詐欺に乗る「意識の高い」読者は、嬉々として成功者の自慢話を聞き、それによって自己を啓発した気になる。だけど、本物の進化論が教える真実(99.9パーセントが絶滅すること、しかも運が悪くて絶滅すること)を前にしたら、自己啓発系ビジネス書の号令は、なんと虚しく響くことか……。

 そんなことなら、むしろ失敗者・落伍者の累々たる屍からなにかを学ぶ謙虚さを身につけることから始めるべきだと思うのだが、どうだろうか。
(都築光太郎)

最終更新:2017.12.13 09:16

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