ツイッター社でドロドロ内紛劇! 謀略、追放、クーデターにCEOは嘔吐

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『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』(ニック・ビルトン/伏見威蕃・訳/日本経済新聞出版社)

 一文無しの野宿者がわずかな時間で億万長者となることも夢ではないベンチャービジネス。しかし、その偉大なる創業者たちが、内部抗争の結果、追放されたり隔絶させられたりすることも珍しくない。Appleのスティーブ・ジョブズや、Facebookのエドゥアルド・サベリンなどが有名所だが、あのTwitterでも内紛による追放劇があったのをご存知だろうか。

 その知られざる内幕が、関係者への数百時間にも及ぶインタビューなどから構成されたノンフィクション小説『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』(ニック・ビルトン/伏見威蕃・訳/日本経済新聞出版社)のなかで明かされている。

 本書には4人の「共同創業者」が登場するが、Twitterの「創業者」としてもっとも広く知られているのは、ジョブズ2世とも称されるジャック・ドーシーだろう。ビートルズを聴き、ガンジーを語り、毎日同じ服を着る習慣を身につけたシリコンバレーの寵児(すべてジョブズの真似である)。だが28歳のころの彼は、ただの田舎出身のプログラマーだった。サンフランシスコのコーヒーショップで、ある男を偶然見かけ、履歴書を送ったところから、彼の運命は大きく変わることになる。

 その男こそ、エバン・“エブ”・ウィリアムズ、ツイッターの共同創業者のひとりであり、2代目CEOだ。ブログの流行を創り出したBloggerの生みの親で、ポッドキャスト会社Odeoの設立者(事実上、この会社がTwitterの前身だ)。このとき、エブはすでにIT業界で名の売れた人物であり、投資家でもあった。

 ジャックはOdeoの社員になった。エブとは被雇用者と雇用主という関係だったが、友情を交わし、ともにTwitterを立ち上げた。まもなくしてジャックが初代CEOに就任すると、最大の投資家で取締役会会長のエブとの雇用関係が逆転した。CEOジャックの働き方に、形式上は部下であるエブが不満を持つようになった。サーバ・ダウン。彼らのプロダクトはまだ産まれたてで、恐ろしい頻度で沈黙した。それは問題だった。

 ジャックは(ジョブズ崇拝からも分かるように)ビビッドなカリスマリーダーを目指していた。一方、内気なエブは“成功者”や“自由人”を演じることよりも、もっと着実に、堅実な手段でプロジェクトを拡大しようとしていた。「彼は働き足りない」。エブからしてみれば、そう見えた。社内のエンジニアたちもこう言った。「ジャックはすごいやつだし、いい友だちだ。楽しいボスだ。でも自分の能力を超える仕事にはまり込んでいる」「大統領になった庭師だ」。

 上層部を巻き込んだ謀略の結果、エブは2代目CEOに就任することに成功した。ジャックをCEOから引きずりおろし、“活動しない会長”という椅子に座らせたのだ。完膚なきまでに会社から締め出すことをしなかったのは「道義上の理由」からだ。だが、この判断がエブにとって命取りになる。

 共同創業者のひとり、クリストファー・“ビズ”・ストーンは、2人の権力闘争の際、最後まで両方の肩を持とうとした。飛行機恐怖症だが人懐っこいビズは、ムードメーカーであり、仕事の面でも優秀で、社内闘争によって人間関係の崩壊していない唯一の共同創業者だ。彼は、3代目CEO着任のときを静かに見届け、そして会社を辞めた。

“その発表”の45分前、エブはゴミ箱に吐いていた。それが2代目CEOとしての最後の仕事だった。取締役会のクーデター。裏で糸を引いたのは、秘密裏に決定された3代目CEO──“Twitterの真の発明者”“ジョブズの再来”“シリコンバレーのニュースター”。マスコミを使ったブランディングに成功したジャック・ドーシーが、再び頂点に返り咲いた瞬間だった。

 2人の軋轢の外枠をシンプルに説明すれば、“仕事の流儀の違い”である。金と権力のるつぼでは男同士の友情など容易く崩壊するという典型的な例であるように思えるだろう。だが、本質は別だ。2人は根本から異なっていた。“Twitterをどう見るか”という最も重要な部分において。

 最後にもうひとりだけ登場人物を紹介する必要がある。共同創業者は4人いると言った。ITオタクのノア・グラス。彼は、ジャックやビズよりも先に、エブの親友となり、ビジネスパートナーとなった人物だ。「Twitter」という名称を発案したのも彼である。

 Odeoに後のTwitter創業者たちが集結し、すこしばかりの歳月が経過したある日、ノアは、ジャックが「ステータス」という構想を口にするのを聞いた。パソコンに“今どうしているか”という現況(status)を表示させるというアイデアだった。ノアは大声を出した。「分かったぞ!」と。彼は辞書を開いた。そしてその単語を見つけ出した。

 [twitter]——「特定の種類の鳥の小さなさえずり」「ふるえるような小さな声やくすくすと笑う声などの、似たような音も指す」。

 本書で描かれる「創業者」たちの逸話に、数億人のツイッターユーザーたちがリンクする。“それ”をどう見なし、どう使うか。なんのためのものなのか。

 ノアにとってそれは“人々の孤独感を癒すためのもの”だった。この“さえずり”が独りぼっちでパソコンに向かってばかりいたノアのような人間に光明を与えてくれると信じ、開発に尽力した。だが皮肉にも、Twitterが軌道にのる前に、ノアはエブたちによって追放されてしまった。

 エブにとってそれは“人々がどこでなにをしているかを共有するためのもの”だった。「通りの角で火事が起きて、それをツイートするようなとき、火事のあいだに自分のステータスを書き込みはしないだろう」。ジャックとの果てしない議論のときに、エブは言った。「こうツイートする。サード・ストリートとマーケット・ストリートの角で火事だ」。ニュースソースとして分かち合うところに、Twitterの可能性を見ていた。

 ジャックにとってそれは“自分のエゴを見せつけるためのもの”だった。「いや、火事を見ながらステータスを書く」。彼はエブに反論した。「こう書く。サード・ストリートとマーケット・ストリートの角で火事を見ている」。つまり、ツイッターはあくまで「自分のことを話す道具」だということだ。

 どうだろう。あなたは何のため“さえずる”? これらはまったく異なるツイッターの用法だ、と著者はいう。そして、このジャックとエブの決裂の根源は、同時にTwitterを特徴づける最大の要因でもあったのだ、と。

《自分のことか、相手のことか? エゴのことかそれとも他人のことか? 現実では、その両方だろう。いっぽうがなければ、もういっぽうは成り立たない。一四〇文字の単純なステータス・アップデートは、はかなく、自己中心的だから、長くは生き延びられない。一四〇文字のニュース・アップデートは、瞬間的で、ニュース速報としては中身が貧弱だ。ふたりとも気づいていなかったが、そのふたつが組み合わさっていたからこそ、ツイッターはひと味ちがっていたのだ》

 人命を救う救難信号になり、革命の一助になり、自己顕示のホワイトボードになり、炎上のフィールドにもなる、たった140文字のツール。その使い方に対する考えが、人生までも左右する。今まで明かされていなかったTwitter創業の軌跡。その設計思想や彼らの人間ドラマに興味のある人は一読してみるといい。読了後、あなたは一寸考えるだろう。そしてまたパソコンに向かう、あるいはスマートフォンを手に取るに違いない。
(都築光太郎)

最終更新:2015.01.19 05:32

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