不祥事・トラブルに関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
佐々木宏問題の本質は森喜朗や電通と結託したMIKIKO先生の排除! でも電通に弱いワイドショーは完全スルー、かわりにLINE流出批判
組織員会HPより
東京五輪開閉会式の演出の「総合統括」を務める電通出身のクリエイティブディレクター・佐々木宏氏が、タレントの渡辺直美をブタに見立てた「オリンピッグ」なる演出案を出していたことが判明、昨日18日に辞任した。
辞任は当然だろう。本サイトでも既報で指摘したように、人の容姿を嘲るボディシェイミングやルッキズムを問題視する声が世界的に高まるなかで、渡辺はまさにそうしたルッキズムへのアンチテーゼとなり、「ボディポジティブ」ムーブメントの世界的アイコンとして支持を集めている。その渡辺を、嘲笑や侮蔑の象徴である「ブタ」に変身させようというのは「差別」演出にほかならず、そんなアイデアを平気で出すような人物が「総合統括」にふさわしいはずはないからだ。
しかし、愕然とさせられたのは佐々木氏の問題だけではなかった。この話題を取り上げたワイドショーでは、ルッキズムへの徹底した批判がほとんどおこなわれず、むしろ「LINEを流出させた者が悪い」だの「生きづらい世の中」だのといった問題のすり替えや差別の肯定がおこなわれたからだ。
たとえば、昨日18日放送の『ゴゴスマ!』(CBCテレビ)では、ケンドーコバヤシが「アイデア出しの会議はアドレナリンが出て、発言の是非はともかく、とにかくアイデアを出すもの」「こういうことが表に出ると直美のフットワークの範囲が狭くなってしまう」と語り、「こういう情報が流出したことが問題。責任を取るなら流出させてしまった人」とコメントした。
まったく何を言っているのだろう。被害を被った渡辺直美の心配をするかたちをとりながらルッキズムを肯定するような発言をするのもどうかしているが、五輪の開会式の企画会議でもバラエティ番組の企画会議でも、容姿を侮蔑するという差別発言は容認されるものではけっしてない。さらに、五輪のような国家的・国際的イベントに携わる者の発言ともなれば、たとえそれがクローズドの会議であれ内輪の飲み会での発言であれ問題視されるべきものだ。にもかかわらず、ケンコバは「問題は情報を流出したこと」「責任を取るべきは情報流出者」などと言うのである。
だが、こうした主張はケンコバだけではなかった。『バイキングMORE』(フジテレビ)では、フットボールアワーの岩尾望が「会議の時点で反対が出てて撤回してるなら、何がこんなとこまで行くことあったんかな。だからホンマにLINEが誰でも簡単にアクセスできる状態になってたんが良くない」と語り、MCの坂上忍も「僕、この問題は、このLINE出していいのか?っていうところに尽きるような気がするんだけどね」などと発言。さらに北村晴男弁護士にいたっては、森喜朗氏の性差別発言を「世間からの叩かれ方がある意味異常と言えるぐらいすごかった」などと言い出し、「今回、こういうふうに辞任されるというのは、やっぱりものすごく生きづらくなってきたな、世の中が」「異常にバッシングされるような雰囲気というのは、ちょっと抑えたほうがいいのかなというふうに僕は思います」とコメント。坂上も「生きづらい世の中になってきたなっていうのはね(ある)」と同意を示したのだ。
また、閉口したのは『ひるおび!』(TBS)も同じ。『ひるおび!』では、八代英輝弁護士が「オリンピック直前に、(問題発生から)1年も経った時点でこの発言が表に出されてくるということには何か意図的なものを感じますし、これに全面的に乗って糾弾するのは気持ち悪い」とコメントし、MCの恵俊彰も「限られた方々のなかだけでおこなわれたはずの会話なのに、それが出てしまっていることの怖さ」「佐々木さんを降ろしたいというような力があるのか何なのか」と発言。佐々木氏や東京五輪の開催の足を引っ張ろうとする勢力の陰謀があるのではないかと滲ませた。
テレビこそがルッキズムの温床となっているというのに、そのことへの反省など微塵もなく、東京五輪の演出責任者がおこなっていた差別発言を陰謀論で矮小化し、「全面的に乗って糾弾するのは気持ち悪い」だの「LINEを流出させていいのか」だのと批判の矛先をすり替える──。この国のメディアがいかに差別への意識が低いのか、またもはっきりとしたといえるだろう。
排除されたMIKIKO氏は突発性難聴に 森喜朗が「あなたが女性だから」と追い打ち
しかも、今回の報道でさらに重要なことは、批判の矛先のすり替えがおこなわれたことだけではなく、この問題のもっとも肝心な「本題」を、どのワイドショーも伝えようとしなかったことだ。
じつは、今回の問題をスクープした「週刊文春」(文藝春秋)の記事の「本題」は、電通と森氏を後ろ盾にした佐々木氏が演出トップの座をめぐって繰り広げた「権力争奪劇」であり、事実上の演出責任者を任されていたコレオグラファーのMIKIKO氏を「排除」した問題だ。
そもそも、2018年に発表された東京五輪開閉会式の演出チームの「総合統括」は狂言師の野村萬斎氏だったが、「週刊文春」によると、野村氏は森氏の主導で肩書きはそのままだが事実上の責任者から降ろされ、2019年にはPerfumeや「恋ダンス」を手掛けてきたMIKIKO氏が事実上の演出責任者となっていた。しかも、MIKIKO氏がまとめあげた企画案はたんなる「お国自慢」ではない出来で、2019年7月におこなわれたコーツ副会長らIOCへのプレゼンでも高評価を得たという。
一方、佐々木氏はパラリンピックを担当していたのだが、MIKIKO氏が佐々木氏に「ストーリー作りができる人材を紹介してほしい」と相談したところ、佐々木氏は「自分がやる」と乗り出し、森氏を後ろ盾にして五輪の開閉会式のチームにも参加するようになった。
本サイトの既報でもお伝えしたように、森氏はリオ五輪での「安倍マリオ」が大のお気に入りで、その演出に携わった佐々木氏を目にかけてきた。そんな森氏のバックアップを得て五輪開会式の演出チームに加わった結果、くだんの「渡辺直美をブタに」というアイデアが飛び出したわけだが、問題はそのあと。五輪の開催延期が発表されると、森氏と「親密」な関係にあり、佐々木氏と同期である電通代表取締役社長補佐の髙田佳夫氏が、佐々木氏を「コロナ緊急対策リーダー」に抜擢。このとき佐々木氏が「自分一人で式典をイチから決めたい」という条件を出したことから、すでに500名ものキャスト・スタッフを固めて企画が完成に近づいていたにもかかわらず、MIKIKO氏は責任者を降ろされてしまうのだ。
しかも、それまでも「天皇」のように振る舞ってきたという佐々木氏は、自身の企画案がIOCからダメ出しされると、なんとMIKIKO氏の企画案を借用し、さらには電通や組織委を丸め込んでMIKIKO氏を「排除」していったというのだ。
その結果、MIKIKO氏はストレスによる突発性難聴まで患い、昨年11月9日に辞任届を提出。同月25日には組織委会長だった森氏と面談をおこなったというが、その席で森氏はこう言い放ったというのである。
「あなたが女性だったから、佐々木さんは相談できなかったのでは。事を荒立てるんじゃないだろうな」
つまり、佐々木氏は森氏や電通の高田氏を後ろ盾にすることでMIKIKO氏を蹴落として演出トップの立場に登り詰め、挙げ句、森氏はこのときも「あなたが女性だったから」などと差別丸出しで辞任に追い込んだことを正当化した上、黙らせようとしていたというのだ。
MIKIKO先生の排除をワイドショーが取り上げないのは、電通タブーが理由
MIKIKO氏は佐々木氏の「渡辺直美をブタに」というアイデアが飛び出した際も、〈容姿のことをその様に例えるのが気分よくないです/女性目線かもしれませんが、、理解できません〉と問題を指摘したというように、佐々木氏よりも責任者にふさわしいことは明らかだ。だが、そのMIKIKO氏が、このような下劣なやり方で佐々木氏と森氏から「排除」されていたのだ。
東京五輪をめぐっておこなわれていた佐々木氏によるMIKIKO氏へのむごい仕打ちはもちろんだが、ようするにこれは森氏や佐々木氏という権力を持った男性による「わきまえない女」排除の問題であり、組織委の体質を象徴する重大事であることは言うまでもないだろう。
実際、当の佐々木氏自身が昨日公表した謝罪文でも、渡辺直美への謝罪よりもMIKIKO氏への言及が目立つ内容となっており、佐々木氏は繰り返し〈オリンピックの開閉会式の実質責任者MIKIKOさんが、ストーリー強化のために、私に手伝って欲しいという申し出があり〉などと強調。〈私の認識としては、前任者の企画を乗っ取ったかのような内容は、事実ではないと思います〉〈MIKIKOさんを中心に考えられていた開会式プランは、私が白紙化した事実はなく〉〈MIKIKOさんは、私にとっては、本当に開会式にはなくてはならない方という認識でした〉と必死に否定している(ちなみに佐々木氏は、なぜMIKIKO氏に代わって自身が責任者となったのかという肝心な部分には一切ふれていない)。
しかし、当の本人もここまでMIKIKO氏の問題に言及しているというのに、『バイキング』では坂上忍が、『ゴゴスマ』では石塚元章・CBC特別解説委員がコメントのなかで「権力闘争」があったことを軽く紹介するだけ。番組としてはMIKIKO氏の「排除」問題をまったく取り上げなかったのだ。
なぜか。その理由は電通がマスコミに共通する“最大のタブー”だからにほかならない。MIKIKO氏の「排除」問題を紹介しようとすると、組織委がいかに電通の影響下にあり、一体化しているかを伝えないわけにはいかなくなる。そのために渡辺直美の問題にだけフォーカスを当てたのだ。
五輪招致をめぐって電通が巨額の買収問題にかかわっていると海外メディアが報じた際も、ワイドショーをはじめとする日本のテレビは電通の疑惑を3カ月間も沈黙しつづけた前科があるが、またもテレビは電通タブーを恐れ、MIKIKO氏の「排除」という組織委の体質を象徴するこの問題に頬かむりをするのか──。組織委だけではなくメディア状況を考えても、五輪開催の資格がこの国にあるとはとても思えないだろう。
(田岡 尼)
最終更新:2021.03.19 12:26
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