トランプと戦う米ツイッターとは大違い! ツイッタージャパンの反差別に対する消極性 代表には「MSN産経」を生み出した過去も

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Twitter本社公式アカウントより


 米ミネソタ州ミネアポリスでアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人警官に首を抑えられ死亡した事件に対する抗議運動が、全米を超え、世界中で広まり始めている。

 周知のように、「Black Lives Matter」(黒人の命も大事)運動の背景には、アフリカ系の人々が相次ついで白人警官に殺されているという事実があり、積もり積もった人種差別に対する怒りが抗議というかたちで大規模化したものだ。ところが、米国のトランプ大統領は一部の暴徒化したデモ参加者を槍玉にあげて「テロ行為だ」などと糾弾し、連邦軍投入の可能性すら明言。ホワイトハウス前で行われた平和的な抗議集会に対しても警察は催涙ガスをばら撒いている。差別に対する抗議運動を“実力行使”で潰そうとしているのだ。

 米国大統領として差別に反対するどころか、人種間の分断を煽って差別助長するトランプ。安倍首相は今回の抗議運動やトランプ大統領による“最悪の対応”について、今のところ一言もコメントを出していない。こんな人物を最大級にもてなし、言われるがままに従ってきた日本の首相にあらためて目眩を覚えるが、米国では、トランプの圧倒的な力による排除に対し、マスメディアだけでなく世界的企業が次々に「人種差別抗議デモの支持」を表明している。

 たとえば、Appleのティム・クックCEOは、社内文書で従業員へ差別や不平等の撤廃を指示し、社として人種差別問題に取り組む複数の非営利団体へ寄付を行うと約束。Intelも100万ドルの寄付を明らかにしている。NIKEは〈人種差別に背を向けるな(Don’t turn your back on racism.)〉などのメッセージを動画にし、ライバル会社であるAdidasもこれをリツイートしながら〈連帯が私たちを前に進める。連帯が私たちを変える(Together is how we move forward. Together is how we make change.)〉と投稿した。

 また、とりわけ注目すべきは、SNSや動画配信、通販大手など、“ウェブのプラットフォーム”となる企業が続々とメッセージを発していることだろう。

 Google傘下のYouTubeは〈人種差別に立ち向かおう(Stand Against Racial Injustice)〉と題した動画を公開し、警察による人種差別を研究する非営利団体への100万ドルの寄付を明らかにするともに広い寄付を呼びかけた。Amazonは〈我々の国で起きている黒人への不平等や残酷な扱いを終わりにしなくてはならない(The inequitable and brutal treatment in our country must stop. )〉、Netflixは〈沈黙は加担だ(To be silent is to be complicit.)〉などと声明を出している。

 そして、いまや最大規模のSNSであるTwitter本社は、自社公式アカウントのプロフィールに「#Black Lives Matter」のハッシュタグをつけ、ロゴの「青い鳥」を黒に染めた。また、同社の多様性を訴える「Twitter Together」アカウントでは、〈レイシズムはソーシャルディスタンシングとは異なる。パンデミックをめぐる恐怖と不安が高まるなかにあるが、今週、もっと広い問題がさらに注目を集めた。ブラックや褐色系の人々が長年日常的に直面してきた人種差別と不正義のことだ(Racism does not adhere to social distancing.Amid the already growing fear and uncertainty around the pandemic, this week has again brought attention to something perhaps more pervasive: the long-standing racism and injustices faced by Black and Brown people on a daily basis.)〉などと、新型コロナの問題と絡めながら差別に強く反対し、「Black Lives Matter」と共にあることを示した。

米国ツイッター本社がトランプと差別にNOを突きつけたのに対し、ツイッタージャパンは…

 さらに、5月29日には、トランプ大統領のツイートに対して「警告」を出した。問題のトランプのツイートは〈略奪が始まれば銃撃を始める〉と、抗議運動に参加する市民を武力で脅しつける内容だった。これに対してTwitter社は「暴力の賛美についてのTwitterルールに違反しています」として、クリックされない限りは表示されないような処置をとったのだ。

 ステイアットホームが呼びかけられるなかにあって、Twitter本社が差別抗議運動への迅速な共感を呼びかけ、差別を煽動するトランプ大統領の投稿に警告を出した意義は極めて大きい。これが差別に反対する世界的スタンダードということだろう。

 しか、不可解なのは、そのTwitter社の日本法人であるTwitter Japanだ。前述のように、米国のTwitter社は自社アイコンを黒くするなど、大々的に「Black Lives Matter」を支持しているが、かたや、Twitter Japanの公式アカウントを見てみると、レイアウトは以前と変わらず、「#Black Lives Matter」のタグすらつけていない(なお、Netflixの日本語版であるNetflix Japanは本社の投稿をリツイートしながら〈決して見て見ぬふりをしてはいけない、そう信じています〉とツイートしている)。これはどういうことなのか。

 さらに言えば、Twitter Japanをめぐっては、アメリカでの差別抗議デモと同時期に、日本の差別に反対する複数アカウントを「凍結」していることが憶測を呼んでいる。5月30日、東京・渋谷の路上でクルド人の男性が職務質問した警察官から暴力を受け、首などを怪我した事件を受け、警察による人種差別に抗議するデモが渋谷署周辺で行われた。ところが、その抗議デモの模様を動画配信した対レイシスト行動集団「C.R.A.C」のアカウント(@Nohatetv)が、同日夜にTwitter Japanによって「凍結」されてしまったのだ。渋谷抗議デモの動画が世界的に注目を集めているなかでの出来事だった。

 米国のTwitter本社が差別と軍や警察による暴力を助長するツイートに「警告」を出したのとは、まさに対照的としか言いようがないだろう。なぜ、人種差別に反対しているアカウントをTwitter Japanは突如として「凍結」したのか。このあまりにも不可解な判断に、ネット上では批判があがるとともに、「Twitter Japanはヘイトに味方しているのではないか」との声も広まっている。

 実際にTwitter Japanはこれまでも、差別に反対するアカウントを数多く「凍結」してきたという“前科”がある。一方で、差別を撒き散らしているアカウントに対しては“寛容”なことに定評があり、事実、在日コリアンへのヘイトクライムを煽った百田尚樹氏や、ナチを礼賛する投稿を行った高須クリニックの高須克弥院長などの極右著名人のアカウントが「凍結」されるようなことはめったになかった。

Twitter Japanは右が大好き?“宇予くん”で改憲煽動のJCと提携、上級役員はK・ギルバートに“いいね”

 また、日本青年会議所(JC)が2018年に「宇予くん」なるキャラクターアカウントでネトウヨ暴言を連発し問題になったことがあったが、今年1月末、Twitter JapanはそのJCと「情報・メディアリテラシー確立のためパートナーシップ」を締結し、大きな波紋を広げた(その後、パートナーシップを解除)。ちなみに、「宇予くん」は中国と韓国について〈日本はこのバカ二国と国交断絶、もしくはミサイル攻撃したほうがいいど〉と差別や戦争を煽る投稿などを繰り返していたうえ、JCの「日本青年会議所メディアリテラシー確立委員会」のアカウントも高須院長の投稿などをリツイートしている。他にも、2017年には同社の上級役員が『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社)などのヘイト本で知られるケント・ギルバート氏らのツイートに「いいね!」をしていたことが一部で取り沙汰されたこともある。

 そうした経緯から、Twitter Japanについてはもともと「極右やヘイトに甘い」という声があるなど“政治的偏向”が指摘されてきたわけだ。そして、こうした見方に拍車を掛けているのが、Twitter Japanの代表取締役である笹本裕氏の存在だ。

 笹本氏といえば、2017年4月に自民党本部の勉強会に呼ばれ、「Twitterの現在と政治での活用」なる講演をおこなっていたという事実も明らかになっているが、「右派との親和性」を物語るのはこれだけではない。

 実は、笹本氏はあの“ネトウヨ製造メディア”と呼ばれる産経新聞のウェブ展開を押し進めた、いわば“生みの親”とも言えるからだ。

 周知のように、産経新聞は大手メディアのなかでもっとも早くニュース配信の無料化を行っており、その本格的始動は2007年10月、日本マイクロソフトが運営するポータルサイトと提携した「MSN産経ニュース」に遡る。これにより、産経はネット上での影響力を強め、極右傾向や差別主義者であるネトウヨたちを大量に生産することに成功。これは、あの池上彰氏も「いまは他紙も公開するようになりましたが、産経の流通量は多いから、基本若者たちが得るニュースは産経新聞のものです。紙では産経新聞は部数が少なく影響力は極めて低いけれど、ネットでは圧倒的なのです」(「世界」2014年12月号/岩波書店)と指摘しているとおりだ。

 そして、この「MSN産経ニュース」のスタートに尽力したのが、当時、マイクロソフト執行役オンラインサービス事業部事業部長だった笹本氏なのである。そのことは、笹本氏自身がメディアのインタビューで証言している(CNET Japan「垣間見えてきた新聞社のネット戦略−MSN産経ニュースの場合」2007年10月4日)。

Twitter Japan代表には「MSN産経ニュース」誕生に関与した過去も

 同記事によれば、マイクロソフトのMSNは、2004年4月5日から毎日新聞社と共同で運営してきた「MSN毎日インタラクティブ」を2007年9月末に終了。前述のように、直後に産経新聞との「MSN産経ニュース」に鞍替えすることになったわけだが、その経緯について笹本氏はこのように語っている。

〈2004年4月5日からスタートして、約3年半共に歩んできた毎日新聞とたもとを分けた理由について、マイクロソフトの執行役オンラインサービス事業部事業部長である笹本裕氏は、「毎日新聞社がフォーカスしたかったのは紙媒体で、我々とは進む方向性が異なった」と説明する。そこで、マイクロソフトのほうから産経グループにアプローチしていった。産経を選んだのは、「新聞社の中では比較的ネットに力点をおいていたし、いろいろな新しい試みにチャレンジする社風もあったので非常に相性がよかった」(笹本氏)と言う。〉(CNET Japan)

 また別の記事でも、産経との提携について「我々から持ちかけた」と笹本氏は語っている(「マイナビニュース」2007年9月25日)。

 つまり、マイクロソフト側から産経新聞に売り込んで、結果、ネトウヨ製造メディアである「MSN産経ニュース」は始まったのだ。そして、この責任者的な立場にあったのが、現Twitter Japan代表取締役である笹本氏だったというわけである。

 さらに笹本氏は先日、「文春オンライン」のインタビュー(「「なぜツイッターは青年会議所(JC)とパートナー協定を結んだの?」社長の本心とは」5月10日)に応じて、JCとのパートナーシップ締結騒動を釈明しているのだが、そのなかで、Twitter上のヘイトスピーチ問題についてこのように語っていた。

〈この件だけではなく、ヘイトスピーチなどに関しても「何が正しくて、何が正しくないのか」「どこに線引きをすべきなのか」ということについては「解がない」と思っています。そのような「解がない」ことに関して議論に加わることは控えたいのです。
 ぼくにはぼくの意見があるし、他の人には他の人の意見がある。それがまさにツイッターの世界です。そこにぼく個人としては加わりたくない。
 それは「ツイッター社の笹本だから」というよりは、個人的な思いからです。「どっちの言い分もあるよね」というのが、強いていうとぼくの言い分です。「人によって見方は違うし、なぜお互いにもっと冷静に向き合えないのかな」というのが正直な気持ち。しかし、それを言うとおそらく「無責任だ」と言われるでしょう。
 でも、世の中の会話すべてに誰かが責任を持っているのでしょうか?〉

 マイノリティへの差別を助長し、ときに虐殺まで煽動するヘイトスピーチ(ヘイトクライム)に対して「どっちの言い分もあるよね」は通らない。まして、笹本氏は同インタビューで〈よく批判を向けられるのですが、ツイッター社がどちらかに寄っているということはまったくありません。ツイッターはあくまでも、いろいろな意見が交わされるプラットフォームで、意見を交わすことは皆さんの自由です。その自由をぼくらが剥奪するということは、本末転倒なのではないかと思うのです〉とも語っているが、だとしたら、反差別を広めているアカウントを突然「凍結」するというのは、まったく意味がわからないだろう。

 いずれにしても、米国のTwitter本社など、いま、ウェブのプラットフォームと呼ぶべき世界的企業が明確かつ迅速に反差別のメッセージを発信していることは、情報・言論のインフラとしての社会的責任の大きさを示したと同時に、あらためて、日本におけるTwitter Japanの問題を改めて浮き彫りにしたと言える。あらゆるレイシズムに抗う方法として、SNS上で反差別を訴え続けることは当然だが、わたしたちは、その媒体企業がどのような姿勢であるかについても注視する必要があるだろう。

最終更新:2020.06.04 02:27

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