右翼・左翼に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
安倍首相の個人崇拝が止まらない! ネトウヨ・安倍応援団がタカ派・石破茂を「パヨク」攻撃する倒錯
月刊Hanadaセレクション『安倍総理と日本を変える』
安倍首相と石破茂元幹事長の一騎打ちになると見られる自民党総裁選挙。自民党は立候補者の公開討論や街頭演説の機会を大幅に削減する方針を固めたと産経新聞が24日付で伝えた。党内の異論や議論を封じ込めて“安倍絶対有利”の情勢を盤石にしようとする政権与党。もはや民主主義に必要な熟議は敵視され、日本は“安倍独裁”にどんどん近づいていっている。
そんななか、少し興味深いのがネット右翼の皆さんの反応だ。というのも、どうもこのところ、ネトウヨたちが口々に「石破は左翼」と触れ回っているらしいのだ。実際、ネット上ではこんな書き込みが目立つ。
〈パヨクの希望の星、石破〉
〈左翼反日勢力は、石破氏を使って本当に日本を乗っ取ろうと考えているのではないでしょうか〉
〈流石は、狂産シナに情報を流す様な売国極左活動家。石破ゲルショッカー首領〉
〈もう完全なパヨクやん〉
「パヨク」とは左翼やリベラル派(とネトウヨがみなす者)を揶揄するネットスラングらしいが、それにしても、あの石破茂が「左翼」などと攻撃されるなんて、隔世の感というか、悪趣味なジョークか何かかと思ってしまうではないか。
だいたい石破といえば、自他共に認める軍事オタクで、日本国内の核兵器配備を検討すべきとまでぶち上げたこともある超タカ派。言うまでもなく改憲派で、安倍首相案の9条3項加憲ではなく、交戦権の否認を宣言した9条2項の削除が持論だ。そうしたことや、あの癖の強い喋り方に「焦げたアンパンマン」などと評される容貌もあいまって、ネトウヨから独特の人気を博し、名前の「茂」をもじって「ゲル長官」なる愛称までつけられていた。
にもかかわらず、いまやネトウヨたちは一転、かつて親しんでいた「ゲル長官」を「パヨク」「極左活動家」と総攻撃しているのだから、ちょっと頭が痛くなってくる。石破自身も今年1月、ネット番組で「昔、防衛庁長官になった頃は、あの右翼の石破が長官なんてとんでもないぞと言われたものだ。あの石破だぜって言われましたよ。いまは『軍事オタクの左翼』だと。言ってることは全然変わってないが、座標軸が動いていくと、右が左になっちゃう」(朝日新聞デジタルより)と嘆いていたが、いったいネトウヨ連中の政治的ポリシーはどうなっているのか、聞いてみたくなるではないか。
まあ、もっとも、こうしたネトウヨによる石破攻撃の原因は、連中の価値観の転換とか、そういうレベルではないだろう。背景には、石破氏が安倍首相と距離をとり、ときに政権に対して苦言を呈してきたことがあるのは間違いない。
以前から安倍首相の政治的なライバルだった石破だが、とりわけ前回総裁選を控えていた2015年の夏頃には、安保法制について「国民の理解が進んでいるとはいえない」と公言し、例の百田尚樹氏の「沖縄の2紙は潰さなあかん」発言が飛びだした安倍チルドレンらの勉強会にも「なんか自民党、感じが悪いよね(という国民の意識が高まっている)」とコメントするなど安倍を牽制。また、昨年からは森友学園問題について「国有地は国民の財産で、不当に誰かの利得になっていいはずはない」「非常に奇怪な話としか言いようがない」と自身の派閥の会合で発言するなど、安倍首相との“違い”を打ち出してきた。
そうした安倍首相に異論を唱える石破の姿勢が、ネトウヨから見れば「売国極左」となるらしく、さらに今回の総裁選で石破が「正直・公正」を謳って対立軸を鮮明にしているせいでバッシングがヒートアップしている。どうやらそういうことらしい。そこに分別などなく、政治的スタンスとは関係なしに、安倍首相の「政敵」だからという理由で叩きに走る。いやはや、もはや応援団を通り越して、安倍晋三を個人崇拝する安倍教、安倍カルトと言ったほうがいい領域だろう。
石破茂に「安倍首相の代弁人」と批判された産経、阿比留瑠比記者がまた
しかし、もっと深刻なのは、こうした「右翼」「保守」を名乗る連中の“安倍カルト化”が、何もネットだけの話ではないことだ。いや、むしろこうした安倍首相の政敵はその政治スタンスとは無関係に「左翼」認定して攻撃する流れは、「WiLL」(ワック)や「月刊Hanada」(飛鳥新社)などの極右雑誌、そして産経新聞という「保守」論壇にもモロに現れている。
たとえば、産経新聞が8月20日付1面で「首相『石破封じ』牽制球次々」と銘打ち、先の総理経験者らと安倍首相の会食の“裏話”の体裁で出した記事。ご丁寧に細川護熙連立政権時に石破が一度は離党したことに言及し、最後は麻生太郎元首相が呟いたらしい「そういう苦しい時こそ人間性がわかるんですよ」との言葉で締められるという、安倍を応援する政治的意図がにじみ出た構成だった。
この記事に対しては石破も、生出演した21日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)のなかで、ジャーナリストの青木理氏が「僕はある種、異様な記事だなと思った」と述べたことを受けて、「(メディアは以前は)どちらかの代弁人ではなかったと思っている。私はメディアと権力が一体となっているときってすごく怖いと思っています。それは民主主義のためにはあってはいけないこと」とコメントしている。
念のため言っておくと、本サイトは石破茂の政策にシンパシーは微塵も感じていない。1ミリもだ。それでも、この発言は、民主主義国家の政治家として至極当たり前だろう。ところが、産経はそれすら石破叩きの材料にしてしまった。
“安倍首相に最も近い記者”のひとりである阿比留瑠比・論説委員兼政治部編集委員が23日付のコラムのなかで、〈まるで産経が権力の代弁人だと言わんばかりだが、いったい何の根拠があってどの部分がそうだというのか甚だ疑問だった〉と噛み付き、〈不都合な真実を指摘されて報道のせいにするようでは、鼎の軽重が問われる〉〈現に、最近の石破氏の言動をめぐっては、党内にも疑問の声が多い〉などとまくし立てたのである。
産経新聞が安倍首相の「代弁人」的な記事を濫造していることは、本サイトで数えきれないほど具体的に指摘してきたので繰り返さないが、それにしたって過剰反応というか、反転して石破叩きを欠かさない阿比留記者の姿勢には恐れ入るとしか言いようがない。
血眼で石破茂を叩き、安倍首相を「宿命の子」と讃える「保守」論壇誌
これが「保守」論壇誌となるとより露骨になる。事実、昨年の「WiLL」と「Hanada」では森友・加計問題から必死に安倍首相を守ろうとする論調が目立ったが、実は、それと同じくらい石破叩きに紙面を費やしていた。
「WiLL」は17年9月号で「『加計学園』問題 ウソを吠えたてたメディアの群れ」という総力特集を組んだのだが、そのなかに「怪しいのは安倍でなく石破!?」(屋山太郎、潮匡人)なる対談記事を掲載。「安倍首相のどこが悪い」なる身もフタもない特集を組んだ同年10月号では、「石破茂だけは総理にしてはいけない」(田母神俊雄)、「自衛隊は総スカン 石破さんはウソつきだ」(海上自衛隊元幹部の匿名対談)と二本も石破攻撃に精を出した。「Hanada」も同様で、「加計学園問題の“主犯”は石破茂」(小川榮太郎/9月号)、「石破茂まだまだあるこれだけの“罪状”」(山際澄夫/10月号)、「石破茂の経済政策は支離滅裂だ」(上念司/11月号)と畳み掛けていた。
ちなみに「WiLL」と「Hanada」の両版元は、今年の夏にそろって安倍首相をヨイショする本を出版している。
たとえば「月刊Hanada セレクション」として出された飛鳥新社の『安倍総理と日本を変える』では、巻頭を「稀代の宰相・安倍晋三」と題された安倍首相のカラーグラビアが飾り、16ページもの安倍首相の独占寄稿(書き下ろし)を掲載。続いて「安倍総理の世界史的使命」(櫻井よしこ)、「今再び新たなる『約束の日』を」(小川榮太郎)、「安倍に代わる宰相はいない」(長谷川洋幸、阿比留瑠比)、母・洋子氏のインタビュー「晋三は『宿命の子』です」(聞き手はNHKの岩田明子氏、「文藝春秋」からの再録)などヨイショ記事・対談が盛りだくさんだ。さらに21ページにもわたって安倍首相のツイートを「厳選」のうえ紹介しているのだが、これが贅沢にもフルカラー。ここは「アベ国」か何かなのか……とにかく正気の沙汰ではない。
阿比留瑠比、小川榮太郎らが総裁選に合わせて安倍礼賛本を出版
それだけでなく、この8月から9月上旬にかけては、完全に安倍の個人応援団化した「保守」論壇界隈から、続々と安倍ヨイショ本、アンチ「反安倍」本が世に送り出される。阿比留瑠比『だから安倍晋三政権は強い』(産経新聞出版)や『徹底検証 安倍政権の功罪』(小川榮太郎/悟空出版)、『「反安倍」という病 拝啓、アベノセイダーズの皆様』(八幡和郎/ワニブックス)がそれだ。
これらの書籍が自民党総裁選をにらんだものであることは疑いない。本サイトが昨日の記事でそのあまりのヨイショぶりの酷さを紹介した、安倍のスピーチライターである谷口智彦内閣官房参与の著書『安倍晋三の真実』(悟空出版)も、そうした一連の流れにあることは間違いなく、空中戦で安倍三選のムードを醸成している。実際、『安倍晋三の真実』や『安倍総理と日本を変える』はすでに新聞広告が打たれているし、また25日発売の「Hanada」10月号の総力特集は「結論! 安倍以外に誰が」だというが、これも新聞や中吊りに大きく載るだろう。
言うまでもなく、こうした雑誌、書籍には莫大なカネが動く。大規模な広告を展開するならなおさらだ。ようするに、いま、「保守」論壇というのは、ビジネスとして安倍晋三の存在に完全に寄生している(唯一、路線が異なるの保守系論壇誌はケイアンドケイプレスの「月刊日本」ぐらいだ)。だからこそ、政治的には保守派の石破茂であっても、安倍首相にとって目障りな存在ならば、容赦なく叩きのめしにかかるのだろう。
その意味では、すでに「保守」論壇なるものは、「石破はパヨク」「石破ゲルショッカーは売国極左」だとかほざいているネトウヨの、極めて低い知的レベルと大差ない。繰り返すが、ほとんどカルトの領域だ。そのうち、安倍首相に敬称をつけろ、敬語を使えとか言い出す日も遠くないだろう。
このまま“教祖”である安倍晋三が首相であるかぎり、この国の言論の質は落ちるところまで落ちていく。“安倍独裁”を支えるヨイショメディアの増長に、もっと本気で危機感を覚えるべきだ。
(編集部)
最終更新:2018.08.25 12:09
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