女流官能小説家たちが「性を語る女性への偏見」を批判!「女性作家は処女かヤリマンのどっちか」といわれ…

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『性を書く女たち インタビューと特選小説ガイド』(青弓社)

「an・an」(マガジンハウス)が毎年恒例の「セックス特集」を初めて掲載してから約30年の時が経ち、女性が自らあけすけに「性」を語り、表現する場所や機会も増えてきた。

 たとえば、AV業界ではソフト・オン・デマンド(以下、SOD)の山本わかめ監督をはじめ女性の監督も生まれ、また、「SILK LABO」をはじめとした女性向けAVも堅調な人気を獲得している。

 官能小説業界でもそれは同じで、女性作家が次々登場して、男性向けはもちろん女性向けの官能小説でもヒット作を連発している。しかも、特徴的なのが、彼女たちの多くが何か特別な動機があるわけではなく、ごく自然なかたちでこのジャンルを選んでいることだ。

 たとえば、新潮社が主催する「女による女のためのR-18文学賞」で大賞を受賞したことからデビューした南綾子氏は、『性を書く女たち インタビューと特選小説ガイド』(いしいのりえ/青弓社)のなかで、官能小説を書き始めた理由についてこともなげに語っている。

「「人と性欲」に興味がありました。性欲によって人生を狂わされることがあるというのが、ずっとおもしろいなと感じていたんです。例えば権力者だったら、性欲による一晩の過ちで、人生が転落してしまうかもしれない。子どもを残すための必要欲求であるはずの性欲なのに、人を滅ぼすこともありうるというのが、十代の頃から不思議でした」

 ここには、これまで性表現に関わる女性に対しメディアが当て嵌めがちだった、「性的なトラウマがきっかけ」といった物語はまったくない。いまや女性たちにとって、性を語ることはごく普通のことなのだ。

 しかし、同書を読んでいると、一方で、いまだに女性が「性表現」に関わることへの偏見が根強くあることも痛感させられる。SF、児童文学から官能小説までを幅広く手がけている森奈津子氏は、前掲『性を書く女たち』のなかでこのように語っている。

「女性がエロい創作物を作ることが気にくわない人たちは一定数存在していて、エロマンガ家でも女性であることを隠して描いている人がいます。女性が性的に解放されることを恐れている人が大勢いるなんて、それこそ女性差別だと私は思うんですけどね。女がエロを書いて誰を喜ばせようと、それは自己決定権に基づくものなのだから、他人がとやかく言うべきではないと思います」

 また、森氏はいまも、女性のオナニーはある種のタブーになっていると指摘する。

「セックスについて語る女性は多くても、オナニーについては語りたがらないのは、「欲求不満」だと誤解されてしまうからですよね。男性だったらオナニーしていてもモテないやつとは思われません。本当はオナニーは女性を幸せにできるはずだと、信じています(笑)」

 第一回団鬼六賞受賞者の花房観音氏も、前掲書のなかでこのように語っていた。

「セックスは人生を左右する行為だと思うんですけど、どうしても女性の「性」はないことにされるか、逆にヤリマンや娼婦として語られるなど、両極端なんですよね。男性のセックス観は変わらずに保守的で「女性は、好きな相手とじゃないとできない」という考え方が強い。ただ、望まない妊娠など、女性にはセックスにリスクが大きいのと、男性が女性より優位に立ちたいがために、女性の性欲は封じ込められがちです。本当は男も女も性欲のあり方はそう変わらないのに」

 花房氏が指摘したのは、まさにフェミニズムの議論において「性の二重規準(ダブルスタンダード)」として批判されてきたものだ。男性は好色であることに価値があるとされ、女性は受動的で無垢であることを求められる。

 しかも、この男性本位の身勝手な考え方は「女性の性欲」の存在を封じ込めるだけでなく、一方で、男性の性欲を満たす娼婦的な存在を作り出してきた。花房氏が指摘するような「性欲のない女性か、ヤリマンか」という極端な二分化を生み出してきたのだ。

 たとえば、高畑裕太事件で橋本マナミに「お前がやらせないのが悪い」と暴言を吐いた梅沢富美男や、沖縄の米軍に対して「日本の風俗の活用を検討してほしい」と提案した橋下徹などはその発想の典型だろう。彼らのような「守るべき女」と「暴力が向けられて構わない女」を無意識に分けて考える男たちは今も多い。

『性を書く女たち』で、前述の南綾子氏は、周囲の人からまさにこの二分化について指摘されたこんな言葉を紹介している。

「そういえば昔、「官能小説を書く女の人って、ぜんぜん経験がない人か、ヤリまくっている人のどちらか。南さんみたいに、普通に何人かと付き合ってセックスをしてきたような人はまれ」なんて言われましたね」

 これが誰から言われたのかはインタビューでは明かされていないが、口ぶりから推察するに、おそらく官能小説に携わり続けた編集者から言われた言葉だろう。しかし、南氏はそのステレオタイプなイメージを否定する。

「私は性的な人間ではないんです。「性欲がない」とは言いませんけど、一生セックスできないと言われても、三日くらい泣いて、それだけだと思います」

「アダルト業界」という「性」の最前線の現場でさえ、人によってさまざまなセックス感があるという当たり前のことが理解されずにいる。これは、一見オープンになっているようで、女性の性がまだまだ不自由な状況に置かれているということの証明だろう。
(田中 教)

最終更新:2018.10.18 01:55

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