クドカン『いだてん』が投げかけた2020東京五輪と日本への痛烈批判「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本か?」

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『いだてん』番組HPより


 宮藤官九郎が脚本を担当した大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)が最終回を迎えた。

 最終回は、1964年東京オリンピック招致の立役者である田畑政治(阿部サダヲ)を中心に、開会式から閉会式にいたるまでの大会期間を中心に描いた。

 これまで登場してきたキャラクターも顔を揃え、第1回とも話がつながってくる、ファンには涙なくしては見ることのできない最終回だったが、宮藤が1年かけて視聴者に伝えようとしていたことがよくわかる、非常に興味深い最終回だった。

 その象徴が、閉会式の様子を涙ながらに見る田畑の脳裏に浮かんだ、ある回想シーンである。

 よく知られている通り、1964年東京オリンピックの閉会式はそれまでの慣例を打ち破るものだった。

 参加人数が膨れ上がった、大会終了で開放感に満ちた選手がお酒を飲んでいた、といったハプニングが重なり、閉会式の入場列はきちんとした列にならず、自由気ままに入場するかたちになった。

 しかし、それが良かった。

 国籍、人種、性別、宗教、ありとあらゆる壁を「スポーツ」のもとに乗り越え、選手たちが笑顔で手と手を取り合い入場するさまは、まさに「平和の祭典」としてのオリンピックを具現化したものであり、この閉会式は高く評価された。そして現在の閉会式では、このかたちが定番となっている。

 田畑はそんな選手たちの様子を見て、思わず涙ぐむ。そこに亡き嘉納治五郎(役所広司)の幽霊が現れ、田畑にこう問いかけるのだった。

「これが、君が世界に見せたい日本かね?」

 この台詞は、1940年の幻の東京大会を描いた37話で描かれたシーンの回想だ。

 1940年東京大会は、開催が決まったものの、日中戦争の勃発などで国際世論が日本に対して厳しくなっていた。そうして開催が危ぶまれるなか「日本は大国」と言って開催を押し切ろうとする嘉納に対し、田畑は土下座をして開催権の返上を求める。

 嘉納は1940年東京大会に対する反対意見が強まる国際世論を変えるために、エジプト・カイロで行われるIOC総会に出席するのだが、その旅に田畑もついてきてほしいと語るが、田畑はそれを拒否。激高しながら、スポーツが政治利用されてしまう現状では日本にオリンピックは開く資格はなく、ここはまず返上して、日本は平和になってからまた招致すればいいと叫ぶ。そして、逆に嘉納に対してこのように問いかけたのである。

「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本ですか?」

 嘉納が返上に傾くことはなく、田畑はIOC総会への同行を断る。結果的に嘉納はひとりでカイロに向かい、ひとまず返上阻止に成功するがその帰国途中の船の中で客死する。周知のとおり、結局1940年の東京五輪は開催されることなく、幻の五輪となった。

 最終回で、幽霊となった嘉納に「これが、君が世界に見せたい日本かね?」と改めて問いかけられた田畑は、今度は「はい」と、微笑みながら胸を張って答えるのであった。

 最終回の大詰めとなる閉会式のシーンでこの回想シーンが挿入されたのは象徴的である。これは明らかに、宮藤官九郎の2020年東京五輪と現在の日本に対する痛烈な批評と捉えるべきだろう。

 『いだてん』という作品はそれ以前にも、戦前の日本の歪なナショナリズム、負の部分に踏み込んできた。

 関東大震災の朝鮮人虐殺を示唆するシーン、朝鮮半島出身であるにも関わらず、日本の植民地支配のため、日本代表として日の丸と君が代をバックにメダルをもらうことになったマラソンの孫基禎選手と南昇竜選手のエピソード、オリンピックの舞台となるはずだった国立競技場から学徒動員で戦地へ向かい死んでいった若者の悲劇、満州における中国人に対する加害行為……。

 もちろん戦前・戦中の日本社会を描く以上、これらは当たり前に出てくるべきシーンで、むしろ、それを描くことを「踏み込んだ」と言わざるを得ない状況のほうがおかしい。しかし、安倍政権下で右傾化と歴史修正主義的な風潮が進み、史実通りの戦前、戦争描写が難しくなっているなか、NHK大河ドラマというもっともメジャーな場所で、戦前・戦中の日本の負の部分をギリギリのところでなんとか描いてきた姿勢は高く評価されるべきだ。

 しかも、『いだてん』が描いてきたこれらの問題はすべて、今、日本で起きている問題につながっている。

「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本か?」

 この問いは、まさに来年2020年東京五輪を開催しようとしている現在の日本に向けられた問いだ。

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