石原慎太郎はたった2冊! あの大御所作家の小説は手に入るのか

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 石原慎太郎も小説となると『太陽の季節』『弟』の2冊が手に入るのみ。五木・石原と同い年の小田実にいたっては、講談社文芸文庫の短編集『「アボジ」を踏む』の1冊しかない。ただし、数には入れなかったが、50年以上前に書かれた海外旅行記『何でも見てやろう』は、いまだに読み継がれるロングセラーである。

 そのなかにあって、大江健三郎の24冊というのはさすがというべきか。冊数だけ見ると飛び抜けて多いわけではない。しかし、その文体はけっして読みやすくはないうえ、『万延元年のフットボール』『懐かしい年への手紙』などの代表作は、他文庫よりも割高な講談社文芸文庫に収録されている。そんなハードルの高さからすれば、これだけの作品数が流通していることは特筆に値しよう。もっとも、20年前のノーベル賞受賞後に文庫がどっと増刷された一時期とくらべると、いま入手できる本は少なくなっている。

 野坂昭如も、10年ほど前にちくま文庫から「エッセイ・コレクション」(現在全巻品切れ)が、岩波現代文庫から「野坂昭如ルネサンス」(現在、第1巻のみ品切れ)という小説選集が刊行されるなど、ちょっとしたブームがあった。その頃とくらべると流通する文庫はあきらかに減っている。これというのも、長らくオピニオンリーダーとして活躍し、テレビ出演も多かった本人が、病気でめっきり表舞台に出てこなくなったことも影響していそうだ。

 そこへゆくと、この8月に没後30年を迎える有吉佐和子は健闘といえる。今年に入って集英社文庫から初期作品が立て続けに復刊され、中公文庫にも『出雲の阿国』が収録されたばかり。もちろん『恍惚の人』『複合汚染』『華岡青洲の妻』『紀ノ川』といった代表作は、以前からずっと文庫で読み継がれている。冊数でいえば、同じく1950年代にデビューし「才女」と並び称された曽野綾子に倍以上の差をつけた。

 さて、今回の調査では、電子書籍として復刻された文庫はあえて数に入れなかった。それは電子化された文庫が全体としてまだ少ないからだ。しかし、開高健のように全作品が電子書籍として刊行されるケースもちらほら現れ始めている。おそらくいずれは、紙版よりも電子書籍の点数が上回る作家も出てくるに違いない。

 ここにとりあげた作家たちは、たとえ流通する文庫の総数は少なくとも、代表作だけは文庫としていまでも流通している分、まだマシといえる。一方で文学的評価は高くても、まったく作品が手に入らないという作家はざらにいる。そうした不公平さを解消するためにも、電子書籍はますます重要なツールになっていくことだろう。
(近藤正高)

最終更新:2017.12.07 07:34

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