池松壮亮が“芸能人は社会問題を語るな”という風潮に異論! 「負の時代の中で俳優をやる意味を考えてきた」

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『斬、』ポスタービジュアル

『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『万引き家族』など、国内外の映画賞で高い評価を得る作品に次々と出演し、日本を代表する俳優に成長しつつある池松壮亮。

 主演を務めた映画『斬、』(11月24日より公開中)では、塚本晋也監督と初めてタッグを組み、人を斬ることに疑問をもつ侍の役を熱演した。

 『斬、』は塚本晋也監督初めての時代劇となるが、塚本晋也監督は2015年公開の映画『野火』製作後の日本社会を振り返りながら「自分の映画で世の中を変えられるかも、なんて傲慢なことは思いませんが、少しは良いほうに持ち直すのではと思ったんです。でも、何も変わらないばかりか、おそれている方向へどんどん揺るぎなく向かっている。その諦観というか、自分の非力さを痛感して、絶望的な気分で作ったのが『斬、』なんです」(「映画秘宝」19年1月号/洋泉社)と語っており、『斬、』を通して社会に発信しようとしているメッセージは『野火』から地続きのものであると明かしている。

『野火』は大岡昇平による同名小説を映画化した作品。太平洋戦争末期のレイテ島を舞台に、飢えに苦しみ死んでいく日本兵たちの極限状態を描いたこの映画は、右傾化が進み、着実に日本が「戦争ができる国」に戻ろうとしている状況への警鐘としてつくられたものだった。

 しかし、塚本晋也監督が語っている通り、『野火』公開から3年が経った日本社会は、安倍政権のもとでより一層、右傾化を強めている。

『斬、』は、藩を離れて農村で手伝いをしている浪人・杢之進(池松壮亮)を主人公に、「人間にとって暴力とはなにか」を描きだす。塚本晋也監督が『斬、』で表現したかったものは別稿で改めて紹介したいが、そんな『斬、』で主演を務める池松壮亮も、塚本晋也監督が抱く危機意識とはまた別に、現在の日本映画界に危機感を抱いていると語っている。

「日本映画と社会って、どんどん離れていっていると感じていて。
 でも、現代で映画をやるとしたら、少なくとも時代の空気や世の中に漂っているもの、みんなが必要としているもの、怒っていること、喜びや悲しさとか、そういったものを伝えることに「責任を取らないといけない」と思っているんです。
 僕が俳優を志した頃は、「そういう思いを俳優が持つべきではない」と言われがちでした。
 俳優は「言葉」を持つべきじゃないし、何かを発信する立場ではない。俳優はただ作品のピースの一つであれ、という風潮があったと思います。
 でも、もうそんな時代じゃないでしょう、という感じです」(2018年11月25日付ニュースサイト「ハフポスト」)

 池松壮亮の言う通り、現在の日本の映画界が現実社会のなかで担うべき役割をはたせているかは甚だ疑問だ。

 一方、アメリカでは「映画と社会が離れる」どころか、白人至上主義、権力によるメディアへの抑圧、マイノリティー差別の問題など、現実の社会で起きている問題をフィクションのなかに投影させる傾向が強まっている。

 それは、今年のアカデミー賞のノミネート作や受賞作を見ただけでも一目瞭然だ。

 たとえば、作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』は、「航空宇宙研究センターに捕らえられた半魚人と掃除係の女性との恋愛」というストーリーを通して、「マイノリティーたちが自らの生きる権利のために立ち上がる勇気」を賛美した、トランプ政権の時代を色濃く反映した作品となっている。

 下馬評では受賞を有力視されながら、惜しくも受賞を逃した『スリー・ビルボード』も、ミズーリ州の片田舎の街を舞台に、警察権力の腐敗や、有色人種差別と性的マイノリティー差別の問題に踏み込んだ映画だった。

メリル・ストリープ、ロバート・デ・ニーロ…声をあげるアメリカの俳優たち

 他にも作品賞にノミネートされていた映画で現実の社会を反映したものは多い。

 スティーブン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、ニクソン政権による圧力に負けず、アメリカ政府が隠ぺいし続けてきたベトナム戦争に関する機密文書の公開に踏み切るワシントン・ポスト紙の戦いを描いた実録映画。スティーブン・スピルバーグ監督が敢えていまの時代に1970年代に実際に起きた出来事を映画にしたのは、当時のニクソン政権がメディアに対して行っていたことと、現在のトランプ政権がメディアに対して行っていることがほとんど同じだからである。

 また、作品賞にはノミネートされていないが、黒人としては初めてアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』は、「ボディ・スナッチャーもの」というホラー作品の定番ストーリーのなかに黒人差別問題に関するエッセンスを取り入れ、観客に新たな恐怖を喚起させる映画だった。

 また、アメリカ映画のこうした動きはもちろん、映画人たちの行動や発言にもあらわれている。そちらのほうは、映画そのものよりもより直接的だとも言える。

 第74回ゴールデン・グローブ賞にて、功労賞にあたる「セシル・B・デミル賞」を受賞したメリル・ストリープが、「私たちには、報道する力を持ち、どんな横暴に対しても厳しく批判する信念を持った記者が必要です。だからこそ、建国者たちは報道の自由を憲法で定めたのです」「ジャーナリストが前に進むことが私たちには必要だし、彼らも真実を守るために私たちの手助けを必要としているのです」といったスピーチを行って話題となったことは記憶に新しい。

 メリル・ストリープ以外にも、授賞式のスピーチの場や、ツイッターなどのSNSを通して、政治的なメッセージを発信する映画人は多い。

 たとえば、ロバート・デ・ニーロは今年6月、トニー賞の授賞式でプレゼンターとして壇上に立った際、「Fuck Trump」と発言して喝采を浴びた。これには当のトランプ大統領も反応し、ツイッターで「デ・ニーロはIQが非常に低い人物だ」と書き込む展開にもなった。

政治的発言を行った芸能人がバッシングされる日本社会

 他にもトランプ批判を明確に行っている俳優は数えきれないほどいる。トランプ批判の急先鋒であるクリス・エヴァンスやサミュエル・L・ジャクソンのツイッターを覗けばかなり頻繁にトランプ大統領への皮肉が書き込まれているし、レオナルド・ディカプリオは、昨年4月にワシントンで行われた、トランプ大統領が提示した地球温暖化対策の見直し政策に反対するデモに「気候変動は現実に起きている」と書かれたプラカード片手に参加している姿を目撃されている。

 ひるがえって、池松壮亮が指摘した通り日本の映画界はあまりに異なる状況だ。

 ただ、日本にも社会問題と接続するような映画を撮る人はいるし、政治に関する発言を積極的に行う気骨ある映画人がいないわけでもない。

 塚本晋也監督はそのひとりだし、自身の戦争体験を交えながら現在の日本社会の危うさを指摘し続ける大林宣彦監督も、生活保護バッシングへの違和感から『万引き家族』を着想した是枝裕和監督も、『検察側の罪人』で原作にはない安倍政権や日本会議への風刺を多数入れ込んだ原田眞人監督もそうだ。

 とはいえ、監督でそのような社会への問題意識を積極的に発信する人はいても、これが俳優となるとその数は激減する。反戦や反核を主張する吉永小百合や仲代達矢や吉川晃司など、数名を数えるほどだ。

 その背景には、欧米とは違い、芸能人が政治的な発言を行うと「芸能人風情が偉そうに語るな」とバッシングを受ける日本社会特有の傾向があるだろう。前述のインタビューで、まさに池松が語っていた「俳優は「言葉」を持つべきじゃない」「俳優はただ作品のピースの一つであれ」という風潮だ。

 そんななか、池松壮亮のようなまだ20代後半の若手俳優が、「映画」と「社会」の乖離を憂いているのはとても心強い。

 池松壮亮は「キネマ旬報」(キネマ旬報社)2018年12月上旬号のインタビューでこのように語っている。

「僕は平成2年の生まれで、物心ついたときから、平成の時代にはネガティブな事件や負の出来事が多く、そういう時代の中で俳優をやる意味を考えてきた」

池松壮亮の今後の活躍に注目したいし、池松に続く若い俳優や女優が増える日本映画界であって欲しい。

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