自己責任論者・本田圭佑が転向? W杯前にオキュパイ運動の理論的支柱が書いた反資本主義の書『負債論』を推奨した謎

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
fusairon_01_20180627.png
本田が推薦した『負債論』(以文社)

 ロシアW杯で、レギュラーの座を失いながらも、第1戦でアシスト、第2戦でゴールを決め、手のヒラ返しの賞賛を浴びている本田圭佑。これからまたぞろ調子にのって、上から目線のビッグマウスが連発されるんだろうなあと思うと、ちょっとうんざりだが、その本田がW杯前、サッカーとは関係のない興味深いツイートをしていたのをご存知だろうか。

 本田のサッカー以外のネット発言といえば、昨年6月、政府が公表した2017年版の自殺対策白書の結果を受けて、「他人のせいにするな! 政治のせいにするな!! 生きてることに感謝し、両親に感謝しないといけない。今やってることが嫌ならやめればいいから。成功に囚われるな! 成長に囚われろ!!」と弱者への想像力を欠いた説教ツイートをしたり、今年の2月に自らの公式アプリで「ロスチャイルド家に遡って勉強するのがいいかもしれないです」「僕はお金とユダヤ人の歴史くらい勉強してたら、今の資本主義の真実が見えてきたって流れです」と、ユダヤ陰謀論めいた発言をしたりと、かなりトホホなものが多いのだが、今回はちょっと趣が違う。

 本田は5月1日のツイートで「最近読んだお気に入りの本。シェアしたいと思ったくらいなので是非。」として、デヴィッド・グレーバー『負債論 貨幣と暴力の5000年』(酒井隆史監訳、高祖岩三郎・佐々木夏子訳/以文社)を紹介したのだ。本田のこのツイートのおかげで定価6000円プラス消費税という、結構な価格の一冊がAmazonでも一時品切れとなるなどの事態となった。

 しかし、驚いたのは本田が紹介したその『負債論』の中身だ。本田が推薦するくらいだから、新自由主義丸出しの本かと思いきや、まったく逆。著書のグレーバーはロンドン・スクールオブエコノミクス教授であり文化人類学者にしてアナキスト、反資本主義運動の活動家だ。2011年9月に始まったウォール街を占拠する「オキュパイ・ウォール・ストリート運動」にも関わり、「われわれは99%」というスローガンを作り出した人物でもある。

 そして『負債論』は、そのグレーバーが、世界を覆う資本主義や貨幣が実際は国家と暴力に裏打ちされてきたということを人類史的に立証し、負債を作り出すことで維持されてきた資本主義の限界を示す、明らかな反資本主義の本なのだ。

 グレーバーと対談したこともある思想家の矢部史郎氏は『負債論』についてこう解説する。

「グレーバーの『負債論』は、世界中で大きなインパクトをもって迎えられているようです。それは、数年前に話題になったピケティ以上のものがある。このインパクトの理由を端的に言うと、古典派経済学の祖アダム・スミスの学説を根本からひっくり返したことです。これはマルクス以来誰もなしえなかった画期的な成果です。“物々交換の面倒くささを解消するために貨幣が発明された”というのが古典派経済学による貨幣の創設神話ですが、『負債論』は物々交換から貨幣が生まれたのでなく、むしろ仮想貨幣と“信用”を軸にした取引のシステム、“人間経済”がブツとしての貨幣に先行していた、と説いています。そして、「義務と負債は本来おなじではないに関わらず、義務は負債の論理によって説明されること、そこに暴力と貨幣による数量化という二つの要因が深く関わってくる」という話を軸に、5000年の人類史を俯瞰しながら負債の歴史が語られる。グレーバーが描きなおす経済史は、ある意味ではマルクスよりも深く、マルクスよりも説得力を持って、アダム・スミスの嘘を暴いている。グレーバーは、私たちが日ごろ感じている経済学者たちのうさん臭さを、人類学の知見によって見事に表現したのです」

ピケティも絶賛する反格差の活動家の書をなぜ本田圭佑が薦めたのか

 たしかに、矢部氏の言うように、同書は2011年の出版以来、資本主義の本質と問題点を明らかにした書として、リベラル知識人や経済学者の間で非常に注目されてきた。『21世紀の資本』で知られる経済学者のトマ・ピケティも「『負債論』、愛しています(I Love Debt)」とコメント。また、ベーシックインカムの導入と1日3時間労働の提唱で話題になった『隷属なき道』(ルトガー・ブレグマン著/文藝春秋)にも大きな影響を与えたといわれる。ブレグマンは「数えきれないほど多くの人々が、仕事人生の全てを、自ら無意味と思う仕事に費やしている」という、グレーバーの論を踏まえた論を展開している。

 さらに、『負債論』はニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズなどでも絶賛されるなど、世界的ベストセラーとなっている。

 そういう意味では、日本のリベラルの間でももっと注目されるべきだと言いたくなるくらいの良書なのだが、しかし、不思議なのは、自己責任論者の本田がなぜそんな本を推薦しているのか、だ。

 本田は公式アプリでも「元々は物々交換って物語ですが、何故か僕も学校で習った記憶がありますが、そんな事実はどこにもなさそうです。少なくても証拠を発見した経済学者はいないみたいです」「僕含め、この資本主義が機能してると人々に思い込ませるのも狙いの1つなので」とコメントしている。

 本田はロシア、イタリア、メキシコのクラブチームで選手としてのキャリアを積み、オーストリア、カンボジア、ウガンダではサッカーチームを経営しているが、ひょっとすると、そうしたグローバルな活動を通じて、資本主義の残酷な現実を知り、少し考えが変わったということなのだろうか。

 もしそうなら、歓迎すべきことだが、しかし、やっぱり本田が『負債論』をきちんと理解して評価しているとはにわかには思えない。それは、本田が一方で、グローバリズムと格差助長政策をエスカレートさせている安倍首相と嬉々として会ったり、格差や家庭環境を一切無視して、弱者に「政治のせいにするな」などと平気で主張しているからだ。

安倍首相に会い「政治のせいにするな」と叫ぶ本田の言動と『負債論』推しの矛盾

『負債論』は、この世界の支配者が〈社会運動が成長し、花開き、代案を提示できることなどゆめ考えたりしないようにする〉ために、ありとあらゆるプロパガンダ機関を網羅する広範な装置を用意し、〈オルタナティブを直接攻撃するというよりも、恐怖と愛国主義的順応、そして世界を変えるというどのような思考も無駄な空想でしかないという絶望感の入り交じった空気をつくりだし、浸透させる〉と指摘している。しかし、やたら「個人の努力」や「責任」を強調し、自殺するほど追い詰められた弱者にまで「政治のせいにするな」と説教する本田の行動はまさに、グレーバーの言う「社会運動やオルタナティブを考えさせないためのプロパガンダ」そのものではないか。

 そう考えると、本田の『負債論』推しは、ユダヤ陰謀論にはまった延長線上で、確証バイアス的に欧米の資本主義批判として読んでいるだけなのかもしれない。それどころか、ファシズム的な反資本主義思想の補強材料として読んでいる可能性も……。

いやいや、本田センセイが常日頃、自己啓発トークで熱く語られているように、ネガティブ思考はいかん! SNSなどから想像するに、本田が『負債論』を読み始めたのは今年に入ってから。もっと本格的に『負債論』を読み込み、グレーバーの思想をさらに深く理解すれば、これから反格差、反グローバリズムの旗手になってくれる可能性もある。W杯後のケイスケホンダにぜひ、期待しようではないか。「夢を叶える可能性があるかどうかは、あなた次第」(by本田圭佑)。

最終更新:2018.06.27 09:59

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

自己責任論者・本田圭佑が転向? W杯前にオキュパイ運動の理論的支柱が書いた反資本主義の書『負債論』を推奨した謎のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。W杯デヴィッド・グレーバーワールドカップ本田圭佑負債論高幡南平の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 統計不正で厚労省課長が「官邸関係者」明記の圧力メール
2 テレ朝で黒鉄ヒロシが慰安婦像デマと韓国ヘイト
3 ウーマン村本と宇賀なつみのテレビ批判に羽鳥慎一が
4 加計学園獣医学部の「四国枠」合格者がたった1名! 
5 安倍が統計不正答弁中の根本厚労相に「戻れ」指示
6 「憲法9条を守れ」と主張する芸能人
7 データ不正、元厚労次官の村木厚子が「何かの圧力」発言
8 小川彩佳アナが『NEWS23』キャスター就任か!
9 安倍の成蹊時代の恩師が涙ながらに批判
10 メリー氏が文春の記者に「殴るぞ」…
11 蓮池透氏が著書で安倍の冷血を批判!
12 安倍が拉致被害者に「北朝鮮に戻れ」と
13 ネトウヨ局アナがテレ朝のお昼の顔に
14 グッディ!土田マジギレ真の原因
15 恵俊彰が田崎史郎を「政権の代弁者」と
16 KAT-TUNの恋愛を側近が暴露
17 沖縄2紙の記者を警察が拘束する暴挙
18 美智子皇后が誕生日談話で安倍にカウンター
19 安倍が国連演説で北朝鮮を煽りまくり
20 安倍首相が統計不正に「選挙5回勝ってる」とヤジ
1 安倍首相が統計不正に「選挙5回勝ってる」とヤジ
2 嫌韓批判で炎上も…石田純一はブレない
3 渡辺謙が東京五輪の東北無視を批判!五輪の人命軽視がひどい
4 安倍が統計不正答弁中の根本厚労相に「戻れ」指示
5 安倍政権が拉致被害者の生存情報を隠し
6 勤労統計不正で厚労省委員が官邸と菅長官の圧力を証言
7 加計学園獣医学部の「四国枠」合格者がたった1名! 
8 安倍首相「自衛隊募集に6割以上の自治体が協力拒否」は嘘だった
9 小川彩佳アナが『NEWS23』キャスター就任か!
11 厚労省に圧力をかけた首相秘書官は安倍首相の子飼い官僚
12 安倍「私は森羅万象を担当」発言の背景
13 統計不正で厚労省課長が「官邸関係者」明記の圧力メール
14 ウーマン村本が朝鮮学校差別を煽る政治とメディアを痛烈批判
15 ウーマン村本と宇賀なつみのテレビ批判に羽鳥慎一が
16 フィフィの蓮舫デマに新聞が丸乗り! 背景に安倍忖度と女性蔑視
17 「安倍がトランプをノーベル賞に推薦」を海外メディアが
18 安倍がトランプ「ノーベル賞に推薦された」で世界に恥
19 辻元清美の外国人献金に大騒ぎする夕刊フジの愚劣
20 橋本聖子が池江選手の病を利用しスポーツ界の不祥事放置を宣言

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄