南京虐殺を否定する“歴史修正主義新聞”産経が「旧日本軍が婦女子も虐殺」「犠牲者は40万人」と報道していた

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産経新聞社HPより


 徹底した裏付け取材により、大きな評価を得たドキュメンタリー『南京事件 兵士たちの遺言』(日本テレビ)に対し、「『虐殺』写真に裏付けなし 日テレ系番組『南京事件』検証」なる批判記事で襲いかかった産経新聞。

 本サイトでは先日、その産経記事の内容が、事実誤認に嘘、いいがかり、詭弁、デマゴギーだらけであることを詳しく解説したが、産経はそれまでも歴史修正主義を「歴史戦」と言い換えて、“南京事件は中国のプロパガンダだ”とがなりたててきた。

 たとえば、14年2月16日付「『大虐殺なかった』は正論だ」(論説委員の持ち回りコラム「日曜に書く」)では、作家・百田尚樹の「南京大虐殺はなかった」という発言が朝日新聞などで批判された件について〈ほとんど間違っていない〉と全面擁護し、NHKが01年に慰安婦問題などを題材に放送した『ETV特集 問われる戦時性暴力』を「偏向番組」と批判。こう主張している。

〈「南京大虐殺」は、旧日本軍が当時の中国の首都、南京を占領した1937(昭和12)年12月から38年初めにかけ、多くの中国軍捕虜や市民を虐殺した-と宣伝された事件だ。その人数について、中国当局は「30万人」と主張し、戦後の東京裁判では「20万人」とされた。いずれも荒唐無稽な数字である。〉

 また、16年5月にも連載シリーズ「歴史戦」のなかで、元朝日新聞記者・本多勝一氏への大々的批判を展開。1973年、朝日新聞紙上で本田氏が連載した「中国の旅」によって〈ゆがんだ歴史観〉が形成されたとして、「南京事件」そのものを打ち消しにかかっている。

 今回の日テレの番組への“言いがかり”もそうだが、こういう他社報道や中国側の主張など、一部をあげつらって日本の戦争犯罪全体を否定するやり口は歴史修正主義の典型的なスタイルだ。とりわけ“中国側が主張する「虐殺30万人説」はウソだから南京大虐殺はなかった”という論理展開は、産経新聞のもっとも得意とするところと言っていい。

 ところが、である。実は、他ならぬ産経新聞自身、南京攻略後の日本兵の行動を、かつてこのように報じていたのだ。

〈日本軍はまず、撤退が間に合わなかった中国軍部隊を武装解除したあと、長行(揚子江)岸に整列させ、これに機銃掃射を浴びせて皆殺しにした。
 虐殺の対象は軍隊だけでなく、一般の婦女子にも及んだ。〉
〈こうした戦闘員・非戦闘員、老若男女を問わない大量虐殺は二カ月に及んだ。犠牲者は三十万人とも四十万人ともいわれ、いまだにその実数がつかみえないほどである。〉

 当時の「サンケイ新聞」1976年6月23日付に掲載された、連載記事「蔣介石秘録」第497回のなかにある記述だ。小見出しには「南京大虐殺の悲劇」と記されており、また、日本兵による中国兵・民間人虐殺の“手段”も具体的に書かかれている。

〈虐殺の手段もますます残酷になった。下半身を地中にうめ、軍用犬に襲い掛かからせる“犬食の刑”、鉄カギで舌を貫いて全身をつるしあげる“鯉釣り”、鉄製のベッドに縛りつけ、ベッドごと炭火のなかに放り込む“ブタの丸焼き” ──など、考えられる限りの残忍な殺人方法が実行された。〉

 こうした産経の記述を素直に読めば、日本兵は中国兵だけでなく一般人も対象として極めて無残な虐殺を行い、その犠牲者は30万人どころの話ではなく「三十万人から四十万人」であると受け取れる。つまり産経は、自身が「荒唐無稽」と批判する南京事件の「虐殺30万人説」、いやそれよりも10万人も多い「40万人説」までをも、自社報道で大々的に展開していたのだ。これは、どういうことなのか。

「蔣介石秘録」は、産経新聞が74年から76年まで計666回にわたって長期連載したもので、のちに同名で書籍化、サンケイ新聞社(当時)から刊行されている。執筆したのは産経新聞論説副委員長もつとめた古屋奎二氏で、「社長を説得して台北に連載の準備室をつくり、『蒋介石が生きているうちに証言をとろう。歴史の証言を書くんだ』と、しゃかりきに資料や情報を集めていた。とにかく妥協しない人で、大漢和辞典を手元に置いて原文を読み込んでいた。大変な勉強家だった」(産経新聞2000年9月15日付)という。

 しかし、繰り返すが、現在、産経は「30万人説は中国のプロパガンダだ」「30万人説はウソだから南紀大虐殺はなかった」と、「蒋介石秘録」とはまったく逆の主張をしているのだ。これをどう説明するのか。

 実は、産経は2014年12月24日付記事のなかで、〈「『30万人虐殺』は中国側の一方的な宣伝であり現実にはあり得ない」との立場だ〉と明言しつつ、〈産経新聞も過去に犠牲者数を「30万~40万人」と紹介したこと〉については〈これは中国国民党が保有する記録などに基づいて執筆された〉とサラっと流しただけで、その自社報道をしっかり「検証」したことは、これまで一度たりともないのだ。

 「南京事件」の被害者数については1万人から30万人まで諸説あるが、本サイトはその人数の多寡を問題にすることは歴史の矮小化だと考えている。しかし、他のメディアに対して「30万人説は中国のプロパガンダだ」と血祭りにあげながら、自社の報道についてほおかむり、というのはあまりにご都合主義が過ぎるのではないか。

 しかし、これこそが産経新聞のお家芸とも言える。産経はいわゆる朝日新聞慰安婦報道問題でも、まったく同じことをしでかしていた。

 産経新聞は、元朝日新聞記者の植村隆氏が1991年に書いた記事に対し、“「女子挺身隊」と「慰安婦」は別物なのにわざと混同して書いた”とする。そして、植村の記事がスクープとして報じられたため、慰安婦問題が日韓の懸案として燃え上がり、誤った認識を世界に発信したとしている。

 しかし、本サイトでも以前報じた通り、当時の新聞各紙では、産経を含む朝日以外も「女子挺身隊」と「慰安婦」は同じものだという前提で記事を書いていた。たとえば、産経新聞91年9月3日付には〈「挺身隊」の名のもとに、従軍慰安婦として狩りだされた〉と、ほとんど植村氏の記事と同じ表現が使われていた。また当時産経は、植村氏が聞き取りを行った金学順さんは「日本軍によって強制連行された」と明確に報じていた。

〈太平洋戦争が始まった1941(昭和16)年ごろ、金さんは日本軍の目を逃れるため、養父と義姉の3人で暮らしていた中国・北京で強制連行された。17歳の時だ。食堂で食事をしようとした3人に、長い刀を背負った日本人将校が近づいた。「お前たちは朝鮮人か。スパイだろう」。そう言って、まず養父を連行。金さんらを無理やり軍用トラックに押し込んで一晩中、車を走らせた〉(1993年8月31日付産経新聞大阪本社版)

 なお、植村氏の記事では、金学順さんは「騙されて慰安婦にされた」とされていて、「強制連行」や「軍」という言葉はひとつも出てこない。ようするに、「日本軍によって強制連行された」というフレーズは、朝日ではなく産経が広めたものだったのである。

 ところが、産経はこうした自社の記事をチェックすることなく、朝日新聞、とりわけ植村氏を“慰安婦捏造の戦犯”として血祭りにあげた。

 事実、昨年、植村氏に対し、産経新聞政治部編集委員・阿比留瑠比記者および原川貴郎記者がインタビューをした際には、植村氏からかつての産経記事を突きつけられ、「これは今日、初めて見ましたから訂正したかどうかはちょっと分かりません」(阿比留記者)、「私、初めて見ましたので」(原川記者)などと答えていた。つまり、自分たちが批判する問題の自社報道すら、きちんと確認していなかったことを露呈してしまったのだ。

 ようするに、産経新聞には自社報道を振り返り、「誤報」を反省したり、徹底的に検証したりする態度がまったくないようなのである。ちなみに今回、日テレの『南京事件 兵士たちの証言』に対する言いがかり記事を執筆したのも、植村氏に論破された原川記者であった。

 いずれにせよ、明らかなのは、産経新聞が「歴史戦」と称して展開する歴史問題の報道や「検証記事」は、事実をないがしろにした結論ありきの宣伝、それこそ“プロパガンダ”でしかないということだ。歴史修正主義者たちが、人数の問題や言葉遣いといった小さな問題にこだわるのは、結局、歴史的事実そのものを否定できないため、そうやって枝葉末節を大きく見せて、歴史的事実がないかのような宣伝をするためにすぎない。

 戦中に軍人として南京へ出向いたこともある三笠宮崇仁親王は、かつてこう述べていた。

「最近の新聞などで議論されているのを見ますと、なんだか人数のことが問題になっているような気がします。辞典には、虐殺とはむごたらしく殺すことと書いてあります。つまり、人数は関係ありません。私が戦地で強いショックを受けたのは、ある青年将校から『新兵教育には、生きている捕虜を目標にして銃剣術の練習をするのがいちばんよい。それで根性ができる』という話を聞いた時でした。それ以来、陸軍士官学校で受けた教育とは一体なんだったのかという疑義に駆られました」(読売新聞社「This is 読売」94年8月号)

 産経は、この崇仁親王の言葉をどう受け止めるのか。安倍政権の歴史修正主義と二人三脚で“独自の報道スタンス”をとっている産経新聞だが、そろそろ、自分たちの足元を見つめなおした方がいい。すくなくとも、人々のマスコミへの信頼を一番失わせているのは、朝日でも毎日でもNHKでもなく、こうしたプロパガンダ記事ばかり打ってジャーナリズムをかなぐりすてている産経新聞のほうだろう。
(編集部)

最終更新:2016.11.10 08:14

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