ノーベル賞から逃亡? ボブ・ディランの珍言録! 10年前にはあのドナルド・トランプを絶賛する発言も

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
BobDylan_161017.jpg
『完全保存版 ボブ・ディラン全年代インタヴュー集』(インフォレスト)

 あのボブ・ディランが選ばれた今年のノーベル文学賞だが、その少し後、同賞事務局のスウェーデンアカデミーがディラン本人と連絡が取れていないことを公表した。その後も、ディランの受賞コメントは一切報道されておらず、このままいくと、本人の意思が確認されないまま授賞式を迎えるという展開もありえそうだ。

 しかし、この事前代未聞の事態にも、コアなファンからは、「いかにもディランらしい」という声が上がっている。というのも、ボブ・ディランほどひとつの固定的な評価に押し込められることを嫌ってきたアーティストはいないからだ。

 ボブ・ディランのノーベル賞が発表された直後、ほとんどのメディアは「反戦プロテストソングの旗手」というような紹介をしていた。たとえば、10月14日付「朝日新聞」朝刊では文芸評論家の川村湊氏がこのように説明をしていた。

〈反戦を訴えるなど、詩のメッセージの強さが評価された。ノーベル文学賞がこれまでとは違った方向性を帯びていることを示したといえる〉

 しかし、ディランが自覚的に「反戦・プロテストソングの旗手」だったのは、デビューして数年の間でしかない。その後はまるで、そのイメージから逃れるように、目まぐるしく作風を激変させ、ファンの抱くイメージを裏切り続けてきた。1960年代中盤にはエレクトリック楽器を取り入れてロックミュージックに移行し、70年代になると、カントリーに接近してザ・バンドと活動。79年にはクリスチャンの洗礼を受けたことをきっかけにいきなりゴスペルに傾倒した。そして、97年『タイム・アウト・オブ・マインド』以降は、ブルースやジャズなど19世紀以降のアメリカ音楽の影響を色濃くしていった。

 また、その詩も「強いメッセージ」というのは一面でしかなく、ある時期からはさまざまな意味に読み解くことのできる重層的な構造をもつものになっていた。

 このことは本人も常々主張してきたことだ。2004年「ロサンゼルス・タイムズ」の取材にディランはこのように答えている(青土社「現代思想」09年5月臨時増刊号より)。

「定義は得意じゃない。この歌が何についてかわかるとしても、教える気はないよ。聴く人たちがそれぞれ、自分にとってどういう意味があるのかを考えればいい」
「ぼくはいつも、歌に逆向きの力を与えようとしている。そうでなければ、聴く人たちの時間を無駄に使うことになる」

 彼が時事問題や社会問題をストレートに扱った「プロテストソング」から、こうした作風に激変したきっかけは、当時の恋人だったスージー・ロトロに薦められた象徴主義の詩人アルチュール・ランボーとの出会いだったという。彼は『ボブ・ディラン自伝』(菅野ヘッケル・訳/ソフトバンククリエイティブ)にこう綴っている。

〈スージーに教えられてフランスの象徴派の詩人、アルチュール・ランボーの詩を読むようになった。これも大きなことだった。そして「わたしはべつのだれかである」という題の彼の書簡を知った。このことばを見たとき、鐘が一気に鳴りはじめた。ぴったりのことばだった。どうしてもっと早くにだれかがそう言ってくれなかったのかと思った。〉

「わたしはべつのだれかである」──この言葉に触発されて、彼は多角的で重層的な言葉を駆使するようになった。1965年のアルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』リリース時にはこういった発言を残している。

「これまでは、いわば「一次元的」な歌をうたってきた。今度の歌は「三次元的」なものにしようと思った。象徴的な表現も多く使って、多層的な歌を書いた」(『ボブ・ディラン 自由に生きる言葉』クリス・ウィリアムズ・編/夏目大・訳/イースト・プレス)

 しかも、ディランに特徴的なのは、自分の音楽に対するこうした解説や分析からも徹底して距離を置こうとしてきたことだ。2006年のインタビューで彼はこう語っている。

「ポピュラー・ミュージックが生きものであるということをきちんと理解している批評家がいない。俺に関する共通認識はソングライターだということだけだろう? それからウディ・ガズリーの影響を受け、プロテストソングをまず歌い、それからロックンロールを歌い、その後一時期宗教音楽を歌っていたということだろ? でもそれは固定観念でしかない。メディアによって作り上げられた虚像だ。でも俺が公人である以上、それを避けることはできないだろうけどね」(『完全保存版 ボブ・ディラン全年代インタヴュー集』インフォレストより)

 いや、この発言など、まだマシなほうかしれない。ディランは、そもそもロックミュージシャンのなかでも屈指のインタビュアー泣かせとして知られているが、彼のインタビューを読むと、とにかく記者の質問にまともに答えているものがほとんどないのだ。

 たとえば、1968年のインタビューで、「自分の音楽をどう形容します?」という質問に、ディランが返した回答は「強いて言えば、ヴィジョン・ミュージック。数学的な音楽だね」というセリフ。さらに、「フォーク・ミュージックをどう定義づけてますか?」と問われると「大量生産を合法的に具現化したもの」、と常人には理解不能な回答をインタビュアーに叩き付けている(前掲『完全保存版 ボブ・ディラン全年代インタヴュー集』)。

 さらに、「曲で伝えていることに加えて、みんなに何か言いたいことは?」と聞かれると「グッド・ラック」と一言。困ったインタビュアーが「確かに歌詞にはないですね」と返しても、「いや、ちゃんとあるよ。どの曲も“グッド・ラック、うまくいくといいね”って終わっていってるよ」と、明らかな嘘を平気で言い張り続けた。

 他のインタビューでは、関心事を聞かれ、「平凡な家庭を築く」「自分の子供の少年野球と誕生日パーティー」と述べたこともあったし、かと思えば、逆に「俺のレコード自体がステートメントだ」などと口にしたこともある。

 また、2006年に「ローリングストーン」誌に応えたインタビューでは、なんと、あのドナルド・トランプを絶賛する発言までしている。自分のヴィジョンを世間に向けて体現できている稀有な人物として、ルイ・アームストロングやデューク・エリントンといったジャズミュージシャンの偉人の名前を口にした後、こう続けたのだ。

「俺が指しているのは自分以外の人間の現実に同調しないだけの意志の力を持ってるアーティストたちのこと。パッツィ・クラインやビリー・リー・ライリー。プラトンにソクラテス、ホイットマンにエマーソン。スリム・ハーポにドナルド・トランプ」(前掲『完全保存版 ボブ・ディラン全年代インタヴュー集』)

 当時のトランプはもちろん、大統領候補などではないが、リアリティ番組『アプレンティス』の人気司会者でいまと同じような発言も口にしていた。それが、ブルースやカントリーの歌手と哲学者や作家のリストに、いきなりその名が登場するのは、かなり違和感がある。得意のまぜっかえしの可能性が高いが、しかし、あの「風に吹かれて」をつくったアーティストが、トランプ絶賛とは……。

 それはともかく、過去のこうした言動を見ていると、今回の「ノーベル賞」に対する行動もその延長線上にあるというべきだろう。辞退というわかりやすいやりかたではなく、態度表明をしないという、まさに固定的なイメージにつかまらない方法で、それをやろうとしているところがいかにもディランらしい。

 ただ、ディランがひとつのイメージにつかまらないために、いかに自分の音楽スタイルを変え、インタビューで言葉をまぜっかえし、ノーベル賞事務局と連絡を絶ったとしても、ディランにはまったく変わっていない部分、変わりようのない部分がある。

 それは、ディランの歌が、常に世界と対峙し続けているということだ。抽象的で難解な言葉を駆使しても、けっして自閉的にはならず、そこには必ず、社会や国家、権力、文明への批評が含まれている。たとえば、07年、アルバム『モダン・タイムズ』は明らかに戦争や権力について歌っていたし、12年、71歳で発表した『テンペスト』にも、文明の滅びというテーマに向き合うものだった。

 そういう意味では、ディランは今も新しいかたちの「反戦・プロテストソングの旗手」であり続けており、まさにノーベル文学賞にふさわしい存在というべきなのかもしれない。
(新田 樹)

最終更新:2018.10.18 04:01

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

ボブ・ディラン自伝

  • 楽天ブックスの詳細ページへ
  • Yahoo! ショッピングの詳細ページへ

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

ノーベル賞から逃亡? ボブ・ディランの珍言録! 10年前にはあのドナルド・トランプを絶賛する発言ものページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。トランプ大統領ノーベル平和賞ボブ・ディラン新田 樹の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 年金積立金が1~3月期で18兆円マイナス! 国民の年金を溶かした安倍政権の責任
2 小池百合子都知事が東京アラート解除のため陽性者数を操作していた疑惑
3 大谷医師が明かしたネトウヨの電凸攻撃!「反日」と怒鳴り込まれたことも
4 官製デマによる『モーニングショー』一斉攻撃はやはり安倍官邸の指示
5 東京の感染者は7月1日から100人超、発表67人を139人に修正
6 PCR検査拡大を訴える大谷クリニック院長がテレビから消えた!
7 東京都の感染者100人超で小池知事、加藤厚労相、安倍首相の仰天言動
8 小池百合子が当選後、コロナ対応担う都立病院の合理化計画
9 葵つかさが「松潤とは終わった」と
10 吉村洋文知事がコロナワクチン開発でもペテン手口!
11 小池百合子、小野泰輔の“ヘイト”に津田大介が切り込んだ
12 安倍首相秘書が案里陣営とともに溝手陣営切り崩しに動いていた!
13 『テラスハウス』木村花さんへの「やらせ指示」はやはりあった!
14 河井事件でバービーが「安倍首相の名前で金を受け取らせたのは圧力」
15 『進撃の巨人』のシキシマはリヴァイ?
16 杉田水脈事務所が本サイトに抗議! フィフィさんは大はしゃぎしてない
17 久米宏が終了決定のTBSラジオで田中真紀子と
18 “フジのスシロー”平井文夫解説委員の安倍擁護は“本家”田崎史郎より酷い
19 久米宏がTBSラジオの最終回で何も語らなかったのはなぜか?
20 極右ヘイトの企業経営者総まくり(前)
1 小池百合子都知事が東京アラート解除のため陽性者数を操作していた疑惑
2 年金積立金が1~3月期で18兆円マイナス! 国民の年金を溶かした安倍政権の責任
3 安倍首相秘書が案里陣営とともに溝手陣営切り崩しに動いていた!
4 小池百合子が当選後、コロナ対応担う都立病院の合理化計画
5 橋下徹の政権批判はポーズ!安倍首相とAbema対談でアシスト
6 検品したアベノマスクにまだ「虫」が…作家で医師の海堂尊が画像公開
7 大谷医師が明かしたネトウヨの電凸攻撃!「反日」と怒鳴り込まれたことも
8 「安倍さんからと言われた」河井前法相から現金を受け取った町議が証言!
9 東京の感染者は7月1日から100人超、発表67人を139人に修正
10 「専門家会議廃止」の裏に緊急事態宣言の解除をめぐる安倍官邸と専門家の対立
11 田崎史郎が『モーニングショー』から消えた! 原因は玉川徹?
12 東京都の感染者100人超で小池知事、加藤厚労相、安倍首相の仰天言動
13 吉村洋文知事がコロナワクチン開発でもペテン手口!
14 安倍首相がイージス・アショア停止を悪用して「敵基地攻撃能力」保有へ
15 河井事件でバービーが「安倍首相の名前で金を受け取らせたのは圧力」
16 小池百合子、小野泰輔の“ヘイト”に津田大介が切り込んだ
17 『テラスハウス』木村花さんへの「やらせ指示」はやはりあった!
18 久米宏がTBSラジオの最終回で何も語らなかったのはなぜか?
19 渡部建が妻や相方に謝罪する一方、被害者である相手女性に謝罪せず

カテゴリ別ランキング

マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄