百田尚樹は『ナイトスクープ』時代から杜撰でテキトーだった…プロデューサーが証言!

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『探偵! ナイトスクープDVD Vol.15 百田尚樹 セレクション ~ブーメランパンツでブーメラン?~』Amazon商品ページより


「沖縄の2つの新聞は潰さないといけない」発言で物議をかもしている百田尚樹氏だが、その後も暴言は止まらない。しかも、同じ勉強会の席で、軍隊をもたないナウル、バヌアツ、ツバルについて、以前、問題になったのと同じ「クソ貧乏長屋。とるものも何もない」という発言をしたことも判明した。

『殉愛』騒動といい、今回の問題発言といい、百田氏の何も考えていないとしか思えないテキトーさ、杜撰さには唖然とさせられるが、しかし、この百田イズムは、小説家になるもっと前、放送作家だけをやっていた時代からのものらしい。

 ここに一冊の本がある。そのタイトルは、『全国アホ・バカ分布考 はるかなる言葉の旅路』(新潮文庫)。同書は百田氏が構成作家をつとめる『探偵! ナイトスクープ』の神回「全国アホ・バカ分布図の完成」(1991年5月24日放送)の制作の裏側を同番組のプロデューサーである松本修氏が綴った本だ。この本では、松本氏による方言の広がり方についての興味深い考察が行われているのだが、それだけではなく、なんと百田尚樹という人物のお調子者っぷり、いい加減さも味わうことができる(味わいたいかどうかは別として)、貴重な本なのだ。

 そもそも、この企画がスタートしたのは、90年1月。はじめは、アホという言葉とバカという言葉を使う地域の境界線はどこか?という企画で放送されたのだが、当時の司会者の上岡龍太郎がさらなる調査続行を命令。そのチームの一員に構成作家である百田氏がいたのだが、松本プロデューサーは百田氏を本書でこのように紹介している。

〈構成陣を率いるのは、会議中、無駄口ばかり叩いている百田尚樹である。彼は昭和五十一年から四年間、私がディレクターをしていた『ラブアタック!』の“みじめアタッカー”として、全国に知られる学生のスーパースターだった。その当時から抜群のアイデアマンだったが、就職もしないままブラブラ遊んでいたのを、そんなことではいけないと番組を手伝ってもらっているうちに、いつの間にかこの世界に入ってしまったのである〉
〈彼は見上げるべき趣味人で、最近はコイン手品に凝っている。会議中にも練習を止めようとせず、失敗しては大きな音を立てさせてコインをあたりに散らばらせ、みんなの顰蹙を買っていた〉

 ずいぶんはた迷惑な話ではあるが、それでもスタッフが百田氏、いや“百田くん”を重宝していたのは、〈鋭いアイデアのひらめき〉があったからこそ。ただ、一方で、相当に注意不足な人間でもあったようだ。たとえば、調査結果をもとにアホとバカの分布図をつくっても、〈ズボラな百田君らしい誤りがいくつかあった〉。しかし、この間違った分布図は、視聴者の郷土愛を多いに刺激した。

〈分布図が間違っているから訂正せよ、と抗議する人々も少なくなかった。百田君の杜撰な分布図作りがかえって幸いしたもので、これは貴重な発見だった〉

 そうして松本プロデューサーは、百田くんの“杜撰さ”を利用すべく、〈分布図作りは当分、百田君に任せておいた方がいいだろう〉と判断。なるほど、“バカとハサミは使いよう”とは、このことかもしれない。

 しかし、百田くんの“困ったちゃん”ぶりは、仕事が杜撰というだけではなかった。いまも百田くんの特徴のひとつとなっている“頑固で持論を曲げない”という点だ。

 調査をはじめた松本プロデューサーが知りたいと考えたのは、〈「アホ」「バカ」「タワケ」「ダラ」「アンゴウ」などの方言分布の成り立ち〉だった。そのとき、大きなヒントとなったのが『日本の方言地図』(徳川宗賢/中公新書)という本。この本には、民俗学者・柳田國男が『蝸牛考』で示した理論である「方言周圏論」がわかりやすく書かれていた。

「方言周圏論」とは、〈ちょうど池に石を投げ込むと、波紋が丸い円を描いて広がってゆくように、言葉もまた都から同心円の輪を広げながら、遠くへ遠くへと伝わっていった〉という考え方。松本プロデューサーはアホ・バカを示す方言も柳田のこの解釈に当てはまるのではないかと考え、これを会議で報告したのだが、スタッフは納得しない。その急先鋒こそ、百田くんだったのだ。

 というのも百田くんは、以前にスタジオでの中間報告で上岡龍太郎が語った“言葉が「県」や昔の「藩」で区切られているのではなく、古代以来の「国」によって分けられているのでは”という指摘にすっかり染まっていた。そのため、〈上岡局長の本番での直感による発言に触発されて、独自に古代王朝語残存説をぶち上げた百田君にとっては、(方言周圏論は)とうてい承服できるものではなかった〉のである。そして、百田くんはこんな持論を会議でぶつのだ。

「岡山の『アンゴウ』は吉備王朝の名残りである可能性もきわめて高い。『アンゴウ』が志摩半島にもあるのは、神武東遷の際、ここにも迂回してきた跡を示すものにほぼ間違いないでしょう」

 分布図づくりも杜撰だったのに、気分はすっかり専門家。しかも「ほぼ間違いない」とな。『殉愛』でも〈この物語はすべて真実である〉と大見得をきって、その後ボロボロとウソが発覚したが、断言癖は当時からのものだったのか。当然、この百田くんの発言には松本プロデューサーも「すべてが推測から成り立っている」としてやんわり反論しているが、それでも納得しない百田くんは、方言周圏論を「そんなバカなことが!」と批判している。

 だが、驚くのはこのあと。自信たっぷりに「そんなバカなこと」と方言周圏論を否定したのだから、それなりに勉強でもするのかと思いきや……百田くんは何もしないのである。松本プロデューサーはみんなに『日本の方言地図』を読んでもらおうと大量に用意したのだが、〈百田君をはじめ番組スタッフは、誰ひとりとしてこの本をまともに読んでくれなかった〉のだ。

〈バカバカしいギャグを考えさせたら天下一品の強者ぞろいだったが、しち面倒くさい勉強は注射よりも大嫌い、という困った連中ばかりなのであった〉
〈それまで一年間、なにかの発見をするたびに意見が欲しくて彼(百田氏)に伝えてきたが、彼はこむずかしい理屈には一向興味を示してくれなかった〉

 持論はぶつが、裏付けがない。投げかけられた反論に対し、その中身を知ろうという努力もしない。このエピソードには「これぞ百田イズム!」といった要素が溢れているが、しかし、これくらいで百田伝説は終わらない。その後、松本プロデューサーは時間をかけて調査・研究を行い、さすがの百田くんも方言周圏論に納得するようになるのだが、今度は松本氏の調査報告に対して、十八番の「絶対に間違いないでしょう」を連呼しはじめたのだという。自分で調べたわけでもなければ、根拠も何ももっていないというのに。

 もちろん、“みじめアタッカー”時代から百田くんを見てきた松本氏は、こうした断言癖を知り尽くしているのだろう。〈百田君の自信にあふれた意見は、これまでの経験からしてけっして鵜呑みにはできなかった〉と述べ、「またまた、『絶対に間違いない』かいな。あんたにそれ言われると、かえって自信を失うわ」とツッコんでいる。

 また、さらにあるときは、「アホ」や「バカ」という言葉の起源が中国にあり、それが日本文化と結びつき、京の流行りことばとして流通したことに辿り着いた松本氏の話に、百田くんは「日本人はずっと『ホ』(阿呆の呆)を求めていたんですよ」と話題を飛躍させて興奮。この主張には松本氏も納得・感心する部分もあったようなのだが、「『アホウ』は、実に響きがいい。音楽的にも美しい」などと言う百田くんの〈異常なまでの「アホウ」の褒めっぷり〉には別の思惑が働いていることを松本氏は察知し、百田くんにこんなツッコミを入れている。

「関西ナショナリズムに酔うてるんと違う?」

 フラットな視点から中国と日本の文化の同時代的なつながり、そのすばらしさを語っているのに、結局、“関西、最強”と話をすり替えてしまう。──もしかすると、この「関西ナショナリズム」が、いまの「愛国心」に進化を遂げたのだろうか。ただ、大阪のオッサンが他の土地をディスりながら関西自慢をするのも大概ウザいものだが、「反日」「売国奴」と声を張る現在は、そんなウザさの限界値を遥かに振り切っている。ああ、いまも「アホウって言葉、すてきやん」とだけ主張していてくれたら、たんなる風変わりなオッサンとして愛されたかもしれないのに……。

 このように、百田尚樹として認知される以前の“百田くん”とは、会議中に手品の練習をして顰蹙を買ったり、いいかげんな地図をつくって放送にのせちゃったり、勉強もしてないのに持論を炸裂&断言を繰り返したりと、“調子にのったらタチが悪い、困ったオッサンあるある”に数えられるような人物だったのだ。そこから成長もなく、ただ増長し、わずかにあった愛嬌さえ失ってしまった……それが現在の姿なのだろう。

 しかし問題は、そんなテキトーなオッサンを重宝して、NHKの経営委員会に呼び込んだり、“文化人”として勉強会に迎えてしまうことのほうだ。安倍首相を筆頭に自民党議員の小物化が進みすぎて、そんな問題にも気付かなくなっているのかもしれないが、いかにもオッサンの類友とは恐ろしいものである。
(大方 草)

最終更新:2015.07.02 07:22

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