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立民議員「50歳と14歳」問題めぐる議論で露呈した意識の低さ…おぎやはぎは「多様性」「立派な恋愛」「ロリータは名作」
『バイキングMORE』公式サイトより
立憲民主党の本多平直衆院議員が、性的同意年齢の引き上げに関する党内のワーキングチームの議論のなかで、「たとえば50歳近くの自分が14歳のコと性こうしたら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と発言した問題。
直後は批判が殺到していたが、少し時間が過ぎて、最近はワイドショーやネットでもあまり話題に上らなくなった。しかし、本多発言をめぐっては、批判意見も含めて、ピント外れのものがほとんどだったため、改めて問題の本質を指摘しておく必要があるだろう。
まず、はっきりしておかなければならないのは、本多議員の発言が国会議員として、言語道断のものであるということだ。
近年、世界各国で性的同意年齢を16歳以上に引き上げる動きが高まっている中で、日本は明治時代に決められた13歳という最低水準のまま。その結果、13歳の子どもが性被害に遭った場合も、同意がなかったことを、13歳の子ども側が立証しなくてはならないという理不尽な状況が続いている。また、表面的に「同意」があったとしても、14歳の中学生と成人という非対称な関係において起きた性行為が、本当の意味で「同意」といえるのか、という問題もある。
そんな観点から、日本でも同意年齢の引き上げを求める声が高まってきたのだが、本多議員は、そうした性的同意年齢の引き上げ議論の趣旨や歴史的経緯を無視。「たとえ同意があっても」などと、成人男性の都合を持ち出した。
限界事例の議論のつもりだったというが、16歳と14歳のように年齢が近いケースや、14歳同士というケースをどうするか、などという議論ならまだしも、50代の大人側が「同意があっても捕まるのはおかしい」などというのは、論外。子どもを性被害から守るという観点が完全に欠落している。
批判されるのは当然と言えるし、立憲民主党の幹部も早い段階でもっと毅然とした態度を取るべきだった。
しかし、問題の本質を理解していないのは、本多議員だけではない。その発言を批判するマスコミやワイドショーのコメンテーターも同様だ。
ワイドショーの中身のない批判 立民叩きへの利用と「気持ち悪い」の矮小化だけ
今回の発言はもともと産経新聞が6月4日に「「50歳が14歳と同意性こうで捕まるのはおかしい」立民議員が主張」という記事ですっぱ抜いたものだったが、その後追い報道で目立ったのは以下のようなものだ。
「立民、本多氏対応で「身内に甘い」姿勢露呈」(産経6月8日)
「本多議員に蓮舫、枝野両氏もダンマリ…「身内に甘すぎ」と批判続々」(「女性自身」6月8日)
「舌鋒鋭く批判する面々が…立民“ダンマリ戦術” 本多議員の「14歳と性こう」不適切発言が波紋 維新・松井氏「感覚おかしい」」(夕刊フジ6月9日)
「大炎上! 立民・本多平直議員は悪評まみれ「口汚いヤジ将軍」「枝野氏の威光を利用」」(東スポ6月9日)
「門田隆将氏 立民・本多議員発言めぐり福山幹事長に「お得意の“議員辞職では済まない”は?」」(東スポ6月9日)
たしかに前述したように、立憲民主党の対応が鈍かったことはおおいに問題だが、こうした報道を見ていると、中身がまったくなく、立憲民主党を批判したいだけで、本多発言の問題をまともに議論する気などないことがわかる。
もうひとつ、多かったのが「気持ち悪い」「変態」などという生理的嫌悪感の話に矮小化すものだ。
「この上なく気持ち悪い」(金子恵美元衆院議員/TOKYO MX『バラいろダンディ』)
「得も言われぬ不快感を感じる」(谷原章介/フジ『めざまし8』)
「例え話にしては具体性があって気持ち悪い」(東スポweb)
6月8日放送の『バイキングMORE』(フジテレビ)もそうだった。この日の『バイキング』ではたっぷり時間をとってこの問題を取り上げたのだが、その内容は「気持ち悪い」の大合唱だった。
MCの坂上忍がコメンテーターのカンニング竹山、おぎやはぎの矢作兼、小木博之に「3人は(本多発言と同じ)50歳くらいですよね、どうですか?」とふると、竹山が「この例を出すことが、ちょっと気持ち悪いですよね。14歳だとたとえばそうなってもストップ、ちょっとないじゃないですか」と応じ、坂上も「僕は50歳超えちゃってますけど、考えられない」と同調。おぎやはぎの矢作も「まさに気持ちが悪いとしか言いようがないんだけど、14歳を僕らの年齢でね」、小木も「気持ち悪いのは大前提」と強調していた。
しかし、繰り返すが、本多発言が問題なのは、性的虐待や性的搾取から子どもを守るという観点が欠落していることだ。それを、「気持ち悪い」などと、排除的な物言いをしてもなんの解決にもならない。
むしろ「性」をめぐる発言について、「気持ち悪い」「変態」などと決めつけることは、性差別主義者が性的マイノリティに対して「気持ち悪い」「理解不能」などと言って差別することと同根だ。
おぎやはぎ矢作兼の「多様性」「立派な恋愛」発言は、本多議員と同じだ
ようするに、連中は、自分が批判されないために「自分は違う」と潔白証明しようと必死になっているだけ、本多発言の何が問題なのか、実はまったく理解していないのである。
実際、この日の『バイキング』では、「気持ち悪い」と言いながら、子どもとの性行為を結果的に肯定するような発言すらあった。
おぎやはぎの矢作が「多様性」という言葉を持ち出してこう語ったのである。
「なんか難しいなと思って、こういう。あり得ないじゃない、そもそも僕らの年代で14歳って。最近、ほら多様性って言葉が多いじゃない。だからさ、俺はもうあり得ないけど、もうさ、人には、それだって本当に立派な恋愛じゃないかっていう意見とかさ」
「だから多様性って難しい」
何度でも言うが、子どもとの性行為は性の多様性の問題ではない。社会的な知識や経験、財産などで圧倒的に優位に立つおとながその力関係を利用して、性行為に及ぶことの犯罪性という問題なのだ。
それは、14歳のこどもが「同意」していたとしたとしても、かわりがない。たとえば、14歳が表面的な「同意」をしていたとしても、それは本当の「同意」とは限らないからだ。
教師、親、親の配偶者・パートナー、家に居場所がない未成年者を保護・理解してくれる(ように感じられる)大人……こういった支配関係のもとでは、抵抗したり被害に対して声をあげることじたい難しい。ブラック企業やカルト宗教などと同じく、そうした関係においてなされた「同意」は表面的な同意であって、本当の同意とは言えない。実際、教師、親、親の配偶者・パートナー、家に居場所がない未成年者を保護・理解してくれる(ように感じられる)大人による、性犯罪、性的虐待は少なくない。
ところが、矢作はこうした背景、力関係を無視して、50歳と14歳の性行為が「多様性」「立派な恋愛」と言ったのだ。これは、本多議員とほとんど同じ発言をしているようなものだろう。
ナボコフ原作『ロリータ』をもちだした小木博明は、どういう物語かわかって言っているのか
さらに、トンチンカンなことを言い出したのは、おぎやはぎで矢作の相方である小木博明だ。小木はこんなことを語った。
小木「気持ち悪いのは大前提なんですけど。たぶんこの方は最近『ロリータ』っていう映画を観たのかなと思って。あれは、たしか14歳のコなんですよね、女性が。で、14歳の女性っていうのは、時には子どもっぽい、時には妖艶な雰囲気を醸し出すとか、とても複雑な年齢の、とてもいい映画なんですよ。」
矢作「大学教授とね」
小木「ぜひ、みなさん観ていただきたい。『ロリータ』、すごい名作ですからね。あれも14歳とたしか50歳近くだったと思うんだよな、博士」
小木はつまり、映画『ロリータ』をもちだすことで、主人公の中年男性が14歳の少女に性的欲望を抱き、性的関係をもつことを、矢作と同様、「性の多様性の表れ」「恋愛のひとつのかたち」であるかのように示唆したのだ。
しかし、小木はほんとうに『ロリータ』がどういう物語か知っているのか。『ロリータ』というのは、言うまでもなくロリコン(=ロリータ・コンプレックス)の語源にもなったウラジーミル・ナボコフの小説で、1962年にスタンリー・キューブリック監督、1997年にエイドリアン・ライン監督、によって映画化もされている。
だが、その物語は、けっして少女との性行為を美しい恋愛譚として描いているわけではない。
『ロリータ』のストーリーを簡単にまとめれば、30代後半の大学教授・ハンバートがロリータ狙いで母親と結婚し、母親の再婚相手=義父としてロリータに近づき、母親を間接的に死に至らしめ排除。ロリータにとって唯一の「保護者」として、支配関係のもとで性行為を強要するというもの。
最初の肉体関係も、ビタミンと騙して睡眠薬を飲ませ、ロリータの意識が明瞭でないなか、会話で巧みに誘導して行われ、翌日、ロリータが怒って警察に性的暴行を通報すると言ったり、一緒の部屋で寝たくないと抵抗する場面もある。
だが、母親が死んだことを聞かされハンバートの他に頼るすべがないと思い知らされたロリータは結局、その夜以降もハンバートと同室で寝ることになる。
その後も抵抗するロリータに対しハンバートは、もし警察に通報して自分が逮捕されれば身寄りのないロリータは感化院や教護院などの施設に送られ、いまより不自由な生活を送らなければならないと度々脅す。
そして、ロリータは2年ものあいだハンバートのもとを逃げる術をうかがい続け、最後は実際に逃げる(逃げた後も別の男による性搾取の被害を受ける)。数年後に再会した際も「人生をめちゃめちゃにされた」とハッキリと糾弾している。
『ロリータ』は小児性愛が支配関係に基づいた一方的な性搾取であることを描いている
ようするに、『ロリータ』はこうした支配関係や脅しに基づいた「性行為強要」「性搾取」の描写に満ちているのだ。
もちろん文学作品なので、善悪を糾弾するものではないし、そもそも『ロリータ』はハンバートの告白手記という体裁をとっているため、ハンバートの一方的な思い込み、心理状態が延々描かれる。しかも、それが豊穣な言語表現で描写されるため、ハンバートの倒錯じたいを美しいと感じる読者もいるだろう。
しかし、少なくともナボコフ自身は小児性愛を「恋愛のひとつのあり方」として美化するのでなく、支配関係に基づいた「性的虐待」であるということが十分に読み取れるように描いている。そしてロリータの心情は一切書かれていないが、ロリータがこの関係においていかに無力であるかもきっちり描かれている。
映画も同様だ。小木が観たのが、1962年のスタンリー・キューブリック版なのか、1997年のエイドリアン・ライン版なのかは不明だが、いずれの映画でも、ロリータの年齢を原作の12歳から14歳に変更している一方で、原作に比べ主人公の中年男性ハンバートに多少の同情・理解を誘わせるようなアレンジも見受けられるものの、「ロリータにとって唯一の「保護者」として、支配関係のもとで性行為を強要」するというストーリーはそのまま。ハッピーエンドでもなければ美しい恋愛譚でもない。
そういう意味では『ロリータ』は「14歳の少女と中年男性の美しい恋愛」などという限界事例などではなく、むしろ義父による性的虐待・という性被害のど真ん中の事例なのだ。
それを持ち出して、「14歳の女性っていうのは、時には子どもっぽい、時には妖艶な雰囲気を醸し出すとか、とても複雑な年齢の、とてもいい映画」などと、まるで少女の中にある「性」が原因になっているかのように、解説するのは、性的虐待の肯定、性被害の原因を女性に押しつけるミソジニー的発想と言うほかない。
性的同意年齢を16歳以上に引き上げる法改正が必要な理由
しかし、ワイドショーなどではともかく、ネットでは、小木や矢作と同種の意見も多数見受けられる。また、本多議員の発言あった会合でも「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」との意見もあったと報じられている。
だが、これらの意見は、結局、性的な関係が社会的な力関係や支配関係が大きく影響し、同意しているかのように思わされている被害者が多数いるということに、全く気づいていいない。
もちろん、恋愛から社会的関係を100%排除することは難しいが、少なくとも未成年者との性行為については、児童が被害に遭わないように、法整備するのは当然だろう。
実際、民法における商契約でも労働基準法における労働契約でも、一定の年齢以下の未成年者は保護規定がある。親権者の同意なき未成年の契約は無効になるし、18歳未満や15歳未満の雇用にはそれぞれ制限がある。住む場所だって一人では借りられない。
にもかかわらず、児童との性行為だけは「認めるべき」「多様性」などとわめきたてる。
しかも、そうした発言はネットだけでなく、今回のように、政治家やテレビに出ている芸人の口から堂々と語られてしまう。そして、本多発言を批判するものも「気持ち悪い」「変態」といった排除・差別の文脈でしか語ることができない。
今回の論議はまさに、この国の性に対する意識の後進性を改めて浮き彫りにしたというほかはない。
(酒井まど)
最終更新:2021.06.20 07:11
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