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【2019年読まれた記事】「佐藤浩市が安倍首相を揶揄した」は言いがかりだ! 俳優の役作りまで検閲する阿比留瑠比、百田尚樹ら安倍応援団
「ビッグコミック」で映画『空母いぶき』について語った佐藤
2019年も、残すところあとわずか。本サイトで今年報じた記事のなかで、反響の多かった記事をあらためてお届けしたい。
(編集部)
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【2019.05.13.初出】
佐藤浩市が「安倍首相を揶揄した」などという言いがかりをうけ、大炎上している。
佐藤は今月公開予定の『空母いぶき』という映画で首相役を演じており、原作マンガが連載中の「ビッグコミック」(小学館)で特集インタビューに登場。『空母いぶき』での役作りなど映画について語っているのだが、その佐藤の発言に安倍応援団たちが怒り狂っているのだ。
きっかけは産経新聞の御用記者・阿比留瑠比がFacebookで5月10日夜にこんな書き込みをしたことだ。
〈観に行こうかと考えていた映画『空母いぶき』に関心を失った件について。『ビッグコミック』誌のインタビューに、首相役の俳優、佐藤浩市氏がこう述べているのが掲載されていたのを読んでしらけたからです。
「最初は絶対やりたくないと思いました(笑)。いわゆる体制側の立場を演じることに対する抵抗感が、まだ僕らの世代の役者には残ってるんですね」
「彼(首相)はストレスに弱くて、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらったんです。だからトイレのシーンでは個室から出てきます」
……はあ。あえてアレコレ言う気もおきません。次は三田村某さんに続いて菅直人元首相の役でもやるといいですね。どうでもいいや。〉
これがネトウヨを中心にツイッター上で拡散。安倍応援団らが次々と佐藤浩市攻撃を始めた。
たとえば百田尚樹は昨日5月12日からツイッターで、佐藤や映画『空母いぶき』への攻撃を次々投稿した。
〈原作は好きやけど、映画は絶対観ない!〉
〈三流役者が、えらそうに!!何が僕らの世代では、だ。人殺しの役も、変態の役も、見事に演じるのが役者だろうが!〉
〈思想的にかぶれた役者のたわごとを聞いて、下痢する首相に脚本を変更するような監督の映画なんか観る気がしないというだけ。
文句ありますか!〉
〈「空母いぶき」の原作は素晴らしい!
しかし映画化では、中国軍が謎の国に変えられているらしい。それだけでも不快だったのに。「下痢する弱い首相にしてくれ」という一役者の要求に、脚本をそう変えたと聞いて、もう絶対に観ないときめた〉
見城徹・幻冬舎社長も百田らに追従するように、ツイートした。
〈佐藤浩市さんは何でこんなこと言ったんだろう?三流役者だとは思わないが、百田尚樹さんの言う通りだ。大体、そんなに嫌なら出なければいいだけだ。しかも、人の難病をこんな風に言うなんて。観たいと思っていた映画だけど、僕も観るのはやめました。〉
〈じゃあ、織田信長も徳川家康も演じないわけ?伊藤博文も吉田茂も?表現より政治信条を上位に置くんだ?北朝鮮の俳優みたいなことを言っていることに何故、気が付かないんだろう?〉
〈佐藤浩市さんは大好きな俳優だった。しかし、これは酷い。見過ごせない。こんなことを言うんなら、断るべきだった。佐藤浩市さんの要求を飲んだ製作側も情けない。〉
〈佐藤浩市さんの真意は[安倍首相を演じるのに抵抗感があった]ということだと思う。それを[体制側]などと婉曲に言うからおかしなことになる。だったら出演を断れば良かった。脚本変更を要求して、病気を笑い者にするように演じたなら、黙して語らないことだ。そんな悪意のある演技を観たくもないよ。〉
“佐藤浩市が安倍首相をバカにした、安倍首相の病気を笑い者にした”として、口々に『空母いぶき』を観に行くのを止めたと大騒ぎしているのである。
百田や見城だけではない。高須克弥や有本香、一般のネトウヨたちも一斉に佐藤浩市を攻撃し、さらに攻撃ツイートを互いにリツイートし合い拡散。きのうの夕方頃から夜通し現在にいたるまで、ネット上では「佐藤浩市」がホットワード化し炎上し続けている。さらに今朝になって、スポニチが「佐藤浩市が“首相を揶揄”」、あるいは東スポが「百田尚樹氏 佐藤浩市に絶縁宣言」などと、メディアまでがネット上の批判を真に受けて、佐藤浩市攻撃を煽るような記事を配信している。
安倍応援団が佐藤浩市の発言を切り貼りして印象操作
まったく狂っているとしか思えない。そもそも、俳優が総理大臣を揶揄したとしても問題なんてまったくないし、「体制側の立場を演じることに、抵抗感がある」のもすごくまっとうな感覚だ。むしろ、異常なのは、時の権力者にお追従をして、恥ずかしいと思わない安倍応援団の面々の方だろう。
しかも、今回の佐藤浩市に対する炎上攻撃には、それ以前の問題がある。というのも、そもそも内容が完全に安倍応援団の被害妄想に基づく、フェイク、言いがかりにすぎないからだ。
その理由を指摘する前にまず、概要を説明しておこう。映画『空母いぶき』の原作はかわぐちかいじによる同名のマンガ。「20XX年」の日本を舞台に、尖閣諸島や先島諸島をめぐる中国との戦いを、自衛官たちや首相官邸の動きを通してシミュレーション的に描いた、いわゆるミリタリーものである。まさに安倍政権が中国の脅威を煽り、集団的自衛権容認や安保法制の制定に動いていた2014年に「ビッグコミック」で連載がスタート、亡くなった軍事ジャーナリストの恵谷治が原案協力を務めており、「20XX年」となっているがほぼ現代の設定だ。
映画では、中国軍が国籍不明の武装集団に、尖閣諸島が架空の島に置き換えられているが、原作同様、自衛隊の「防衛出動」「武力行使」「専守防衛」などがテーマになっている。主役は西島秀俊と佐々木蔵之介演じる自衛官で、佐藤浩市は上述の通り、自衛隊の「出動」の判断を迫られる総理大臣の役を演じている。
ところが、安倍応援団は、その佐藤が映画公開に合わせた「ビッグコミック」インタビューで「体制側の立場を演じることに対する抵抗感があるから、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらった」と発言したとして、「安倍首相をバカにし難病を笑いものにしている」と、攻撃をしているというわけだ。
しかし、問題の「ビッグコミック」インタビューを読んでみたところ、全くそういう話ではなかった。
たしかに、佐藤は「体制側の立場を演じることに対する抵抗感が、まだ僕らの世代の役者には残ってるんですね」という発言も、「彼(首相)はストレスに弱くて、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらったんです」という発言もしている。しかし、これらはまったく別の質問に対する回答で、文脈もまったく違うものだった。安倍応援団はそれを切り貼りして、あたかも佐藤が「安倍首相が気に入らないから、お腹を下す設定にした」かのように印象操作していたのだ。
佐藤浩市の「お腹を下す設定」は責任の大きさや苦悩を表現する役作り
まず、前者の「体制側に対する抵抗感」という回答は「総理大臣役は初めてですね」という質問に対して理由を話したにすぎない。そして、「彼はストレスに弱くて、すぐにお腹を下す設定にしてもらった」という後者の発言は、「漢方ドリンクの入った水筒を持ち歩いてますね」という質問への回答だ。
しかも、この発言の前に、佐藤はこう語っている。
「少し優柔不断な、どこかクジ運の悪さみたいなものを感じながらも最終的にはこの国の形を考える総理、自分にとっても国にとっても民にとっても、何が正解かなのかを彼の中で導き出せるような総理にしたいと思ったんです」
つまり、他国の武装集団に上陸され、自衛隊を武力出動させるかどうかという、戦後初の重大な選択を迫られる総理大臣の責任の大きさや逡巡を表現しようとして考え出された設定であり役作りなのだ。
佐藤は、戦争を始めるかどうかという重大な局面で、総理大臣という立場にいてしまった人間の苦悩を演じることで、国が「武力を行使すること」「戦争」がどういうものなのかを、よりリアルにより重層的に表現しようとしたのだろう。
戦争を是とするか非とするか、どういう判断をするにせよ、その決断に到るまでに為政者が一人の人間として逡巡し苦悩するのは当然のことであり、それを描こうとするのは、反戦でもイデオロギーでもない。
佐藤演じる首相は「国民に血を流せ」と迫る安倍よりはるかに誠実だった
いったい、これのどこが「安倍首相を揶揄すること」なのだろうか。たしかに安倍首相は第一次政権の放り出しを後になって潰瘍性大腸炎という持病のせいにしたことがあるし、第二次政権では昭恵夫人の用意した水筒にぬるま湯を入れて国会などにも持ち込んでいることも有名で、こうしたディテールは安倍首相を彷彿とさせるかもしれない。
しかし、佐藤の演じる首相は安倍首相とはかけ離れているものだ。佐藤の演じる総理大臣は前述したように、国民に対する責任を感じ、逡巡、苦悩を抱えているが、安倍首相はそんなものとは無縁で、国民や自衛隊員が犠牲になることを躊躇うどころか、むしろ積極的に「血を流せ」と煽るような好戦的な人間だ。実際、「わが国の領土と領海は私たち自身が血を流してでも護り抜くという決意を示さなければなりません。そのためには尖閣諸島に日本人の誰かが住まなければならない。誰が住むか。海上保安庁にしろ自衛隊にしろ誰かが住む」「まず日本人が命をかけなければ、若い米軍の兵士の命もかけてくれません」(「ジャパニズム」青林堂、2012年5月号での田久保忠衛・日本会議会長との対談)などという言葉を口にしたこともある。
ようするに、両者は「胃腸が弱い」「水筒を持ち歩いている」という表層のディテールが似ているだけで、その背景は似ても似つかない。佐藤が演じる総理大臣が安倍首相をモデルにしているなどというなら、逆に「安倍首相を美化している」と文句をつけたいくらいだ。
それを表層のディテールだけを取り出して、「安倍首相をバカにしている」などとイチャモンをつけるのは、『空母いぶき』がどうというより、そもそも映画や芸術表現をまったく理解していない。
戦争をするかどうかというレベルの重大な決断にいたるまでに為政者が逡巡し苦悩するプロセスを描くことは、イデオロギー関係なくごく自然なことだろう。むしろそんな描写をすっ飛ばしたような作品は、反戦ものだろうが、戦争ものだろうが、作品としてリアリティも説得力もない低レベルなものにしかならない。
見城や百田は「思想的にかぶれた役者」「表現より政治信条を上位に置くんだ?」「安っぽい主義主張」などと佐藤の発言を批判しているが、思想にかぶれているのも、表現より政治心情を上位に置いているのも、安っぽい主義主張をがなり立てているのも、安倍応援団のほうだ。
安倍さまの意向にかなっているかどうか。すべての物事をそれでしか判断できない。1ミリでも安倍首相のマイナスに感じさせるようなことは片っ端から叩かないと気が済まない。この安倍さま至上主義のほうこそ、北朝鮮そっくりではないか。
佐藤浩市の「日本は戦後でなければならない」に安倍応援団は沈黙
言っておくが、佐藤は、「安倍か反安倍か」などという狭い視点で「戦争」を語っているわけではない。「ビッグコミック」のインタビューで、こうも発言している。
「僕はいつも言うんだけど、日本は常に「戦後」でなければいけないんです。戦争を起こしたという間違いは取り返しがつかない、だけど戦後であることは絶対に守っていかなきゃいけない。それに近いニュアンスのことを劇中でも言わせてもらっていますが、そういうことだと僕は思うんです。専守防衛とは一体どういうものなのか、日本という島国が、これから先も明確な意思を提示しながらどうやって生きていかなきゃいけないのかを、ひとりひとりに考えていただきたいなと思います」
佐藤が、過去の歴史や国際社会における日本の位置も踏まえ、「戦争」について様々な視点から考えていることがよくわかる。もし戦争や武力解決という手段についてまともに議論する気があるなら、注目すべきはこうした発言のほうだろう。
しかし、安倍応援団はぐうの音も出なかったのか、こういう本質的な発言にまったく触れずに、「胃腸が弱い」云々の部分だけを取り出したのだ。これは、佐藤に対してネトウヨたちの攻撃を扇動しようという意図があったとしか思えない。
今回の佐藤に対するイチャモン攻撃であらためてわかったことがある。安倍応援団や右派が「平和を守るために戦う」などという方便を大人の論理としてよく持ち出すが、そんなの単なる詭弁で、連中はただただ戦争したいだけということだ。そして、戦争に駆り出される者をヒーロー視したり、手放しで戦争礼賛するような頭の悪い作品以外は、反戦どころか、多角的に論争的に「戦争」を考える視座すら許さない。そういうことだろう。
前述したように、佐藤浩市は「ビッグコミック」のインタビューの最後に「日本は常に「戦後」でなければいけないんです」と語っていた。しかし、安倍応援団の「安倍サマのマイナスになるような発言は1ミリも許さん」というファナティックな攻撃に、マスコミまでが追従している様を見ていると、残念ながら、日本は「戦後」ではなくすでに「戦前」に突入している、というべきだろう。
【2019.05.13.初出】
(編集部)
最終更新:2019.12.30 03:14
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