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室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第12回ゲスト 原田眞人(前編)
『検察側の罪人』原田眞人監督が室井佑月に作品に政権批判を盛り込んだ理由を激白「あのくだり、脚本には書いてなかった」
原田眞人監督と室井佑月の刺激対談!
木村拓哉と二宮和也の共演でも大きな話題となっている、原田眞人監督の映画『検察側の罪人』。本サイトでも報じたが、この作品には安倍政権に対する風刺が随所に散りばめられていた。たとえば、戦争のできる国づくりを狙った政策、太平洋戦争を正当化しようとする歴史修正主義、政権中枢と極右団体との親密さ、政権中枢による言論圧力、政権中枢ブレーンによる性暴力事件……。すべて原作小説にはない、映画オリジナルのものだ。
これらの場面は、原田監督のいまの日本社会、安倍政権に対する強い危機感から作品に織り込まれたものではないか? 映画を観た室井佑月は原田眞人監督の勇気に感銘。政権批判がタブー化する現在の言論状況にあって、あえて政権批判に踏み込ませるものは何か、原田監督に訊いた。
(編集部)
***************
室井 監督、はじめまして! 『検察側の罪人』を観てびっくりしちゃいました。すごく闘っていたから。大丈夫なのかと心配になったくらい。
原田 いろいろ様子を見ながら調整して。たとえば、インパール作戦などで実在の人物について、肩書きを微妙に変えたり。でもディテールの部分は実在の人物や、実際にあった事件などを意識しイメージしていました。脚本には“イメージ”は書かれていないですから(笑)。
室井 雫井脩介さんの原作本にはない、現代社会のいろいろな事件、批判の要素入っていて、それが細部にまで渡っていて。“アベ友”ジャーナリスト山口敬之氏による伊藤詩織さんの事件まで出てきてびっくりしたんです。
原田 あれは脚本には書いてなかったものです。
室井 そうなんですか。検察庁舎内で、木村拓哉さん演じる最上検事が捜査について上司と打ち合わせをしているすぐわきで、若手女性検事が「襲われたのに10日も経って警察に行くのはおかしい」「高島グループのブレーンだから、警察もひるんでいるんです!」なんて女性上司に詰め寄っていて。それもさりげなく挿入されていました。うまい! と思いました。攻めているなと。どうしても安倍首相や現実社会を意識せざるを得ない。だからこそ、今回、ぜひ監督にお会いたいと思ったんです。
原田 実は彼女と一緒に闘っていた女性が知り合いで、詳細な情報がいっぱい入ってきたんです。その上で検察関係者に話を聞いた。たとえば詩織さんのようなケースでは、担当した検事が起訴するかどうかを副部長に相談、持っていくわけです。そこでこんな話を聞いた。「性犯罪に関しては、女性上司ほど厳しい」と。それは面白いエピソードだなと思って。それで女性副部長をひとり入れて、女同士のやりとりをサイドに入れた。これも脚本には書かずにあとで差し込んでね。
室井 日本会議を彷彿とさせる団体や、アパホテルがモデルとしか思えないものあって。そんな怖いことをやろうとする人って少ないと思うんです。どんな人なのかすっごく興味があって。
原田 でも、そんなに怖いことでしょうか。本来の映画表現としては当然のはずなのですがね。まあいろいろ邪魔は入ります。ネットで『検察側の罪人』を検索すると、最初の頃は木村拓哉と二宮和也のファンが観てくれて「すごい」「圧倒的に面白い」と評価され点数もよかった。それがある時からドーンと評価が落ちた。それは映画の中に、さまざまな社会風刺が入っていると気づいたネトウヨが、点数を引き下げるためいろいろなことをやっていた、そう聞いています。
室井 でも映画館はいっぱいでしたよ。
原田 普通の人が来てくれるからいいんですけど、ネットでの評価は何らかの操作があったと思います。僕も腹が立つから読まなくなっちゃいましたが。
室井 読まなくていいですよ! でも最近はネットの変な炎上が多いですよね。
原田監督「今の日本で起こっていることを入れないとリアルな社会派ドラマにはならない。そして今の日本社会は絶対におかしい」
原田 昨年の映画『関ヶ原』のときも反発はあったんです。朝鮮人兵士が登場するということで。しかし調べてみると現実にあったかもしれないことなんです。石田三成方にあった大砲、青銅砲の仏郎機は元々、豊臣秀吉の朝鮮侵攻にともなって、半島から持ってきたもの。同時に捕虜も一緒に来たし、大砲と一緒に砲兵が関わっていたとしても不思議ではない。それで『関ヶ原』は単純に日本人だけの話じゃない、というところを最後に入れた。すると、それに対する大きな反発が起きたんです。僕は韓国の映画人と一緒に映画を作りたいと思っているし、韓国の映画監督に好きな人も大勢いる。映画人として韓国人と繋がっていきたい思いもある。しかも歴史的に見て大きな可能性のあること。さらにいえば映画というものは、一国だけのものではない。
室井 国と国との関係や平和、そして表現ってそういうことですよね。絵画や映画、文学って国籍や人種なんて関係ない。いいものは誰が見てもいいですもんね。
原田 そうですね。僕はいろんな国に行って映画を撮っていますが、映画人が喋る言葉は共通しているなと思います。特に、不偏不党の精神を持っている人が多い。右寄りでも左寄りでも、映画の現場に入ったらリベラルになる。僕もその意識でずっとやってきました。そして『検察側の罪人』は「何が正義か」ということがテーマです。今の日本で起こっていることを入れないとリアルな社会派ドラマにはならない。そして今の日本社会は絶対におかしい。ですから政治メッセージというより、これは現実なんです。
室井 すごいすっきりしました。わたしは物書きですけど、物書きの根底は社会や権力に対し懐疑的じゃなきゃいけないと思ってきたんです。そして監督と同じで、今の世の中は変だなと思っています。たとえば原発団体の寄稿文を書いている人から、震災後「原発の悪口を言わないでくれ」と言われたり。重しがたくさんあって、好きなことを書いたり発言できなくなってきている。すごく歪んでいると思っていました。だから映画を見てすごくすっきりしました。
原田 映画のほうがある意味やりやすいかもしれません。物書きと違って、ひとりが突出するわけじゃないじゃないから。大勢の人が関わっている。ただ、日本は怖くなっていると感じています。『日本のいちばん長い日』を撮ったときもそうだけど、昭和天皇を人間として考えたらいちばん悪いやつが見えてくるんじゃないのかなと思ったんです。メディアに煽られた面もあり、国民があれだけ右のほうに、危険なほうに走っていってしまった。そこに昭和天皇はついて行かざるを得なかったという部分を描きたかった。でも理解してくれない人がずいぶん多かった気がします。
室井 わかります。作品の真意、本質を見ないで、表面的なところで攻撃される。
原田 そういうことが表現の自由を圧迫してくる恐れがある。時代劇ですと歴史的な問題などで微妙な駆け引きはありますが、しかし現代劇の場合は、現在、自分たちが関わっている時代でもあるので、闘いの姿勢を全面に出していいかなと思っています。
原田監督「全体的にメディアの大多数が体制寄りになっていくことの怖さは、戦前を思わせる」
室井 映画や文章の良さって、何十年後の人が見て、そのときの社会や文化や流行りものや、そのときにあったことがリアルに浮かんでくることだと思います。でも最近は闘っていないとまでは言わないけど、ちょっと嘘を作っている感じもします。
原田 そうなんですよね。確かにリスクを冒す企画が通りにくい傾向はあるかもしれません。ただ時代によって入れる要素は変わる。たとえば『検察側の罪人』の原作が刊行されたのが2013年。そして取調室で録画や録音をする“可視化”が始まったのは2016年。ですから「可視化」という時代に合わせた話に持っていかなきゃいけない。僕が日本映画界の中で敬愛するのが黒澤明監督と小津安二郎監督ですが、黒澤監督はどんなものを作ってもその時代の社会とのかかわりのなかで作っているんです。それがもっとも如実に出ているのが『生きものの記録』(1955年)で、そのあとの汚職が日本社会を揺るがしていた頃の『悪い奴ほどよく眠る』(1960年)もそうです。『用心棒』(1961年)や『椿三十郎』(1962年)などの時代劇でも日本社会に対するメッセージがあって。僕もそういう比喩・隠喩を使いながら、今の社会に対して、たとえば自分が映画を作るときにどうなったら困るのかという恐さを、たえず映画のなかに込めていきたいと思っています。『検察側の罪人』でも、まさに我々が今考えている“日本が変な方向に行っている”ことを、主人公の口を通せば自然に表現できる。
室井 現在の日本のジャーナリズムがなかなか切り込まないところに、作品が切り込んでいました。
原田 突き詰めて考えていくと、メディアスクラムもそうだし、メディアの危険性はいっぱいある。日本のメディアの自由は北朝鮮よりちょっとマシなだけという調査もありましたね。今回も少し危惧していたんです。さまざまな社会風刺を入れたことでメディア全体がこの作品に反対するかもしれない、と。しかしそんなことはなかった。反発したのは一部なんです。メディアの中で闘っている人も結構たくさんいる。NHKは会長が変わってよくなったじゃないですか。テレビ朝日はどんどん悪くなっているけど、あれはトップが安倍さんとべったりだから。そういう中で、個人で努力してなんとかしようとしている人たちもいる。そういう人たちからの応援は感じています。ただ全体的にメディアの大多数が体制寄りになっていくことの怖さは、戦前を思わせますよね。
室井 わかります。組織の中でもわかっている人と、そうじゃない人がいますから。わたしが驚いたのはやはり原発事故が起こったとき。「まだ今じゃない」と言っていた大手マスコミの人がいた。末端のわたしでも「この事故はやばい」という情報は入ってきていました。だから、メディア中枢の人はもっと詳しく危機的な状況を知っていたはずなんです。でも、「まだ今じゃない。動くべきときはこの先もっとくるはずだから、今自分が動いても辞めさせられるだけだから」という意識で。すごいびっくりしました。
原田監督「歴代総理たちの誰一人として、今の安倍さんがやっているようなことはやっていない」
原田 リスクを冒す企画がなくなった話もそうだけど、組織の中でリスクを冒す人たちのパーセンテージがどんどん減っているなという感じはします。特に政権に対してね。どう考えても、安倍政権がまともとは思えないのに。
室井 メディアの問題は大きいと思います。強行採決を連発したり、お友だちを優遇したり、嘘をついたり、逆ギレしたりする安倍さんに忖度してばかりだし、だから簡単に言論圧力に屈しちゃう。
原田 あれだけ恥ずかしいことをやっているのにね。そして不思議なことに国民の支持がある程度あり、それを背景に憲法改正をしようとしていることも大きな問題です。憲法に関して安倍さんは「アメリカのお仕着せだから」というロジックを使っていますが、でも調べると全然そうではない。当時、明治憲法をそのままなぞっただけの憲法を作ってGHQに持っていったら激怒されたというのは当たり前。そのときに憲法研究会があって、高野岩三郎さんが鈴木安蔵という当時のリベラリストの憲法学者を入れたりして。現在の憲法のベースとして日本の憲法研究会の草案があったんです。
室井 監督、映画だけじゃなく、いろんなことに詳しいんですね。すごい物知り! そういえば映画のパンフレットで木村さんも「監督に膨大な量の知識があって」と褒めてたのを思い出しました。本当にそうですね。しかもこの対談の趣旨をすごく理解してくれていて。「アベを倒したい!」ですからね(と、念を押す)。
原田 今後の構想として「憲法を作るプロセス」の作品を考えていて、いろいろな方面のリサーチをしている。それで室井さんとの対談だから、憲法などの話も出るかと思ってもう一回頭の中に入れてきた(笑)。
室井 ありがとうございます! で、安倍さんは薄っぺらなんだと思います。昔の政治家はもっとワルもいたかもしれないけど、もっと厚みや情があったと思うんです。しかも多様な意見や考え方があって、それが力にもなっていた。
原田 自民党が歴代輩出してきた総理たちの誰一人として、今の安倍さんがやっているようなことはやっていないですよね。もちろん個人的に許せない首相経験者は何人かいるけど、しかし劣化の度合いが激しい。僕ら映画監督も劣化しているとは思うけど、政治家の劣化の度合いはその比じゃないですよ。僕は野中広務さんみたいな政治家が好きだったけど、野中さんのようなご意見番、筋を通す人が、今、保守系の中にいないじゃないですか。そういうのは怖いなと思う。僕らが一番恐れているのは、表現の自由を圧迫されることで、メディアコントロールがまず最初に始まるわけです。
室井 確かに、もう始まってますし、どんどん進んでます。
(後編はこちら)
最終更新:2018.10.04 10:14
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