なぜ安倍首相はここまで身勝手になれるのか? あの芥川賞作家が、そのグロテスクなマッチョ性の正体を洞察

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田中慎弥『美しい国への旅』(集英社)

 無責任かつ自分勝手さをここまで極められるものなのか。安倍首相が臨時国会冒頭に解散する方針を固めた件だ。

 本サイトでは、この解散の裏側には、北朝鮮の危機を煽ることで支持率を回復した安倍首相が加計学園問題の国会追及を封じるだけでなく、森友学園の捜査をも潰す目的があると伝えた。つまり、何度も繰り返してきた「丁寧に説明していく」という国民との約束など心にもない「口からでたらめ」に過ぎず、安倍晋三という人は、ただただ自分の保身のためにしか動かない男であるということだ。

 稀代のエゴイストが総理大臣──。だが、安倍首相のパーソナリティについては、あの芥川賞作家がさらに掘り下げ、興味深い分析をおこなっている。

 その作家とは、2015年に安倍首相をモデルにした小説『宰相A』(新潮社)を発表し、話題を呼んだ田中慎弥氏だ。田中氏は、今年1月に発売した長編小説『美しい国への旅』(集英社)で再び安倍首相を自作のモチーフに選んだ。

 実際、『すばる』(集英社)2017年3月号で、同じく芥川賞作家の柴崎友香氏と対談した田中氏は、同作について「明確なイメージとしてあったのが現在の総理大臣」と話し、つづけてこんなことを言っているのだ。

「あの人の顔が、私には勃起しないペニスにしか見えないというのが、取っかかりのイメージです」

 安倍首相の顔が勃起しないペニスにしか見えない、そのイメージが創作の取っかかりになった──。これは一体、どういうことなのか。いざ『美しい国への旅』を読んでみると、なるほど、その通りだった。

 この小説が「美しい国」という言葉をタイトルに冠していることからも安倍首相を意識していることは明白だが、物語は核兵器を使った戦争により、「濁り」に汚染され荒廃した近未来の日本が舞台という、『宰相A』にも通じるディストピア小説。母を亡くした主人公の少年は、司令官を殺すために彼のいる基地を目指し旅に出るのだが、この司令官こそが、安倍首相をモデルにしていると思われる人物だ。

 司令官は〈首相候補と言われている若き男の政治家〉であり、〈代々政治や軍務に関わって来た名門家系の血筋〉。〈男は現代の政治家として、また輝ける一族の跡取りとして、歴史を逆転させようと考えた、あの兵器による負けを、あの兵器を取り戻すのだと。幸い国民は落ち着きをなくしていた。基地建設に関して積極的に動き回り、金を集め、男は司令官に納まってしまった〉とある。

田中慎弥が、安倍首相の顔がアレにしか見えないと

 現実の安倍首相も、核兵器保有に前のめりだ。北朝鮮には核の放棄を迫りながら、核保有国であるアメリカとともに核兵器禁止条約には反対の姿勢を取りつづけ、国際社会の核廃絶の流れに完全に逆行した態度を取っている。

 しかし、小説でもっとも気になる部分は、主人公の少年が旅の果てで目にした指令官の正体である。指令官は〈人間の形をしたもの〉にしか見えない状態で、鉄の服に覆われて吊されている。しかも異様なのは、両脚の付け根から指令官の3倍はある大きな何かが伸びている。その描写は、男性のペニスを思わせるものである。

 なぜ、田中氏は安倍首相と男性のペニス──しかも勃起しないそれと重ね合わせたのか。前述した『すばる』で、田中氏はこう話している。

「それは彼の顔だけではなくて、日本とアメリカの関係性においても言えることです。アメリカがすごいマッチョな男で、日本がそれにくっついている娼婦だという人がいますが、私はそれは逆だと思っている。アメリカが高級娼婦、日本はちゃちな男で、高級娼婦が頑張っていろいろ刺激してくれても、ちっとも勃たない。なぜ勃たないかといえば、高級娼婦にもともとの力を抜かれているから。
 そうしたイメージが今の国の指導者とどうしても結びついてしまう。勃とうとして、しゃかりきになればなるほど、限界が見えれば見えるほど、限界ぎりぎりまで向かっていかざるを得ないという……」

 現在の状況は、このときの田中氏のイメージと似た状況になっていると言えるだろう。いま、日本はトランプ率いるアメリカからは軍事力の強化を急き立てられ、安倍首相はその通りに動いている。それはアメリカに隷属しているようにみえる。だが、安倍首相の北朝鮮に対する言動は、挑発を受けている当事国のアメリカ以上に強硬だ。本来ならば各国同様、平和的解決に向けてトランプを諫めなければならない立場であるにもかかわらず、安倍首相は「異次元の圧力をかける」などとひたすら焚きつけている。“勃起できないけどマッチョになりたいちゃちな男”たる日本、いや安倍首相が、いまどんどん限界に向かっている──田中氏の指摘は現況とたしかに当てはまる。

 じつは田中氏は、以前にも「週刊新潮」(新潮社)に寄せた寄稿文のなかで、安倍首相を〈弱いのに強くなる必要に迫られているタカ、ひなどりの姿のまま大きくなったタカ〉と表現していた(詳しくは既報参照)。血筋というプレッシャーのなかで、本来の弱い自分を、自分自身が認められない。その安倍首相へのイメージは、今回の「勃起しないペニス」というものと相通じる。

 そして、田中氏のイメージの鋭さに唸らされるのは、安倍首相をモデルにした指令官の台詞にある。『美しい国への旅』のなかで、その勃起しないペニスそのものである指令官は、機械の声で、こう語る。

「美しい国を取り戻す」のかけ声も、自己正当化の道具

「美シイ国ヲ復活サセナケレバナラナイ。甦ラセナケレバ、取リ戻サナケレバナラナイ。イマコソ、美シイ国ヲ復活サセナケレバナラナイ。性器トナリ、兵器トナリ、爆発シ、濁リモロトモ、敵対スル国モロトモ、我ガ国ヲ吹ッ飛バシテ一度ゼロノ状態ニ戻シ、ソノ中デ生キ残ッタ純粋ニッポン人ダケガ新タナ時代ヲ作リ、美シイ明日ヲ掴ムノダ。ソノ時コソ、美シイ国ヲ取リ戻スコトガデキルノダ」

 男性は強靱さの象徴として勃起せねばならないと強迫される。強さを求められ、そのなかで勃起しない、すなわち強くなれない彼は、ファンタジーの「本来の美しい国」を取り戻すために、国を、そこに生きる人を、すべてを吹き飛ばそうとするのだ。

 これはまさに、安倍首相のパーソナリティを的確に写し出したものではないだろうか。「美しい国を取り戻す」という掛け声は正当化の道具でしかなく、ほんとうの目的は、強い自分を誇示すること。それは対北朝鮮の姿勢を見ていると痛いほどよくわかる。

 そして、強い自分に執着するあまり、自己保身に走る。今回の臨時国会での冒頭解散だってそうだ。どれだけ説明不足だと言われても、国民との約束も果たさず不誠実で無責任な態度だと受け取られるリスクがあると側近が忠告しても、責任追及から逃れたい、捜査を潰したいという自己保身が優先される。ここでもやはり「本来の自分の弱さを認めたくない」という安倍晋三という人の素顔が見え隠れしている。

 人は多かれ少なかれそうした弱さをもっているものだろう。しかし、安倍首相が生まれ育った環境はあまりに特殊だ。田中氏は前述の「週刊新潮」の寄稿文でこう綴っている。

〈祖父と大叔父と実父が偉大な政治家であり、自分自身も同じ道に入った以上、自分は弱い人間なので先祖ほどの大きいことは出来ません、とは口が裂けても言えない。誰に対して言えないのか。先祖に対してか。国民に対して、あるいは中国や韓国に対してか。違う。自分自身に対してだ〉

 わたしたちは虚勢を張るこの男をいつも見てきた。選挙では聞こえのいい言葉を吐き、悪法を次々と勝手につくり、弱者の暮らしには目も向けず軍備増強に邁進し、政治の私物化が発覚すると勇気ある内部告発者の醜聞をリークしてまで徹底的に握り潰そうとし、まともな説明ひとつなく逃奔。その上、大義もなく解散しようというのだ。

 田中氏は、〈安倍氏が舵取りの果てに姿を現すだろうタカが、私は怖い〉という。臨時国会での冒頭解散の先に待っているのは、そのタカの姿なのだということを、わたしたちはよく覚えておかなければならない。

最終更新:2017.09.21 12:43

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