横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」⑨

石原慎太郎のどこが「侍」なのか? 言い逃れと責任転嫁に終始した会見はなんと言おうと「恥さらし」だ!

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3月3日に日本記者クラブで行われた会見の様子


 築地市場の豊洲移転を決めた石原慎太郎元知事は3月3日、日本記者クラブで会見した。石原氏は当日、「果たし合いに行く侍の気持ち」などと語っていたが、その内容は侍どころか、責任逃れを繰り返す恥さらしなものだった。

 豊洲移転問題の最大の謎は、「なぜ莫大な土壌汚染対策費がかかる東京ガスの工場跡地を高値で購入移転、移転先にしたのか」ということだが、これに対し石原氏は、冒頭の経過説明(途中から代読)で「豊洲移転は知事就任時に既定路線で、東京ガスとの用地買収交渉も副知事や専門家らに一任していた」と強調。「私一人ではなく、行政全体に責任がある」という言い訳をしたのだ。

 約75分に及ぶ会見では、2011年3月に都と東京ガスが結んだ「土地売買契約書」と「土壌汚染対策の費用負担に関する協定書」に関する質問が集中。この時、土壌汚染対策費586億円のうち東京ガスの追加負担は78億円のみで、それ以上の責任は負わない「瑕疵担保責任の放棄(免責)」が盛込まれたためだ。

 その結果、土壌汚染対策費は約860億円にまで膨れ上がったのに、東京ガスにさらなる追加負担を求められなくなった。なぜ莫大な土壌汚染対策費が必要な“欠陥物件”であったのに、売主の瑕疵担保責任を放棄したのか。この疑問が何人もの記者から噴出、私はこう問い質した。

横田「(石原氏の)今の回答を聞くと、責任逃れの恥さらしの説明だと思った。いわゆる民間企業の社長にあたる最高責任者の都知事が(東京ガスとの売買契約書に)判子を押したのに、「部下の責任」と言い逃れしている。瑕疵担保責任を放棄して、森友学園と同じようにもっと値引きしないといけない土地を値引きせずに買って、結果的に都民に莫大な損害を与えている。この責任を取る考えはあるのか。それとも今のような責任逃れをして、逃げ回るつもりなのか。日本男児の愛国者を標榜される石原元知事のご見解、どちらの道を選ぶのかお聞きしたい」

石原元知事「あの土地をあのコストで購入したことは、私が決めたわけではありません。そのための審議会が、専門家を含めて審議をして決めたことですから。私はそれを是としたわけで、私は売買の専門家ではありませんし」

横田「売買契約書に判子を押したでしょう。判子を押したということは、(地方自治体の)最高責任者として判断をしたということでしょう。地方自治法を読んでいるのか。会社の社長が責任を取らないのに等しいのではないか。そんな恥さらしの回答をするのか。瑕疵担保責任をどう考えているのか」

石原元知事「私は恥と思っていません。行政の手続きを踏んで上がってきたものを、最高責任者として念を押した上で裁可したのですから」

「森友学園」(豊中市)の国有地払下げと豊洲の土地売買と並べると、石原氏の責任の重さが浮き彫りになる。両方ともゴミ撤去や土壌汚染対策が必要な“欠陥(瑕疵)物件”だったが、豊中市の国有地はゴミ撤去費が過大なまでに値引きされたのに対し、豊洲の場合は土壌対策費の相当分が値引かれることはなかった。その結果、本来なら東京ガスが支払うべき費用を都が負担する羽目になったのだ。

 しかも「部下に一任」「行政全体の責任」といった石原氏の言い訳が通用しないのは明らかだ。地方自治法第147条には、「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する」と定められている。首長(知事や市町村長)は民間企業の社長のような存在で、株主代表訴訟で社長の個人的財産が召し上げられる恐れがあるのと同様、首長も住民訴訟で身ぐるみはがされるケースが存在する場合があるのだ。

 実際、上原公子・元国立市長に対して約3100万円(利子を含めて現在は4500万円)の支払い命令が下ったのは、「マンションの高さを制限した景観保護条例制定は営業妨害だ」と不動産業者が市に損害賠償請求訴訟を起こして勝訴、市が約3100万円を業者に支払った後、一部の市民が市長の責任を問う住民訴訟を起こし、上原元市長に対して4500万円の支払いを命じる判決が下っているためだった。これを不当判決とする支援者が「元市長ひとりに払わせない!」を合言葉に「くにたち上原景観基金1万人の会」を立ち上げたが、判決が首長の役割を萎縮させると問題視されていることはさておき、地方自治体の首長は常に住民訴訟で賠償責任を負うリスクを抱えているのだ。

 部下や議会や前任者(前知事)の連帯責任にしようとする石原氏は、基礎的な法律知識すら理解していないことを告白したといえるのだ。

 実は、石原氏に約578億円の請求をするように都に求める住民訴訟が2012年5月に起こされている。「汚染対策費を考慮せずに土地を購入したのは違法な公金支出」というのが訴えの理由だが、住民訴訟について質問をしたのが、ビデオジャーナリストの神保哲生氏だ。

神保氏「(土地購入について)つかさつかさに任せていたが、最高権者として裁可を下したことの責任はおありになる」というふうに認めたのかどうかを確認させていただいた上で、もし責任があるとすれば、現在、都民が原告となって東京都が石原知事に対して、汚染を前提としない金額で土地を買ったことの過失、損害を返金する訴訟がいま起こされています。現在は市民が東京都に請求を出している段階ですが、石原さんご自身に最高責任者の権者として裁可を下したことに対して、損害を返金、もしくは弁済する責任があるとお考えになるのか」

石原元知事「これは裁判の問題だし、私は日本は健全な法治国家だと思いますよ。こういうもの(訴訟)がまかり通るのであれば、私は不当提訴します。だっておかしいじゃないですか。みんなで決めたことでしょう。しかも私は、それをまとめた上で、こういうことで合意を決めましたし、議会にも相談しましたから、『裁可願いますよ』と(言って議会が)イエスと言った。これは衆知を集めて決めたことで、これに対して私個人の損害なんてことは、住民訴訟で責任を問われる筋合いは法的におかしいと思います」「むしろ今、豊洲は科学者が安全だと保証しているのに、これを使わずに野放しにして、無駄なお金をどんどん、税金を払っている。これは不作為の責任だと思いますよ。これは問われるべきだと思います」

 結局、石原氏は地方自治体のトップとしての責任を最後まで認めることはなかった。東京・田園調布の自宅をはじめ石原家の財産を守りたいという気持ちは分からないではないが、産経新聞に「日本よ」と銘打ったエッセイを月一回出している愛国者標榜のイメージとは大きなギャップがある。「果たし合いに出かける昔の侍の気持ち」と今回の会見に臨む心境を語った石原氏だが、私の目には、自らの不始末の責任を潔く取らない“守銭奴”にしか見えないのだ。

 なお「豊洲は科学者が安全だと保証している」という主張も、「安心」の重要性を理解していない子供騙しの暴論にすぎない。豊洲に移転しても市場機能が維持されるには、科学的根拠による「安全」だけでは不十分で、消費者や関連業者が「安心」と思うことが不可欠であるからだ。

 科学者が安全性を保証しても、「豊洲新市場は安心できない」という拒絶反応を受けることは十分に考えられる。実際に「豊洲移転をしたら取引しない」という業者もいる。しかも豊洲移転をした業者が取引量激減で倒産しても、安全の“お墨付き”を与えた科学者が損害賠償責任を問われるわけではない。市場機能が維持できるのかを左右するのは「安心」の方といえるのだ。

 石原氏は「安全よりもハードルが高い安心の確保が不可欠」という基礎的知識不足をここでも露呈、勝手にハードルを下げて豊洲移転を正当化するという恥の上塗りをしたのだ。

 今後は都議会百条委員会に追及の場が移るが、石原氏はこのまま責任逃れを続けるのだろうか。財産を全て処分することになっても自らの名誉を守るのが、本物の「侍」であり、このままでは「無責任な守銭奴」のレッテルを貼られて晩節を汚すだけだと思うのだが。
(横田 一)


(追記1)
 今回の会見出席については、石原元知事が「記者クラブ以外の記者が参加してもいい」と言っているのに、日本記者クラブから「記者クラブ以外の参加は出来ない」と電話で言われた。そのため3月3日に日本記者クラブを訪れて担当者に口頭で抗議し、直談判もした。その時に会見者のゲスト枠での会見参加の可能性を教えてもらったので、石原慎太郎事務所にゲスト枠での会見参加申込をすると同時に、日本記者クラブの伊藤芳明理事長に取材を申し込んだ上で会見に参加した。なお伊藤理事長からは期限までに回答はなかった。

(追記2)
「日本よ」と銘打った石原氏のコラムを掲載する産経新聞は、3日の会見での私の質疑応答部分を含む会見録をネット上で紹介したが、私の二番目の質問である「売買契約書に判子を押したでしょう。判子を押したということは、(地方自治体の)最高責任者として判断をしたということでしょう。地方自治法を読んでいるのか。会社の社長が責任を取らないのに等しいのではないか。そんな恥さらしの回答をするのか。瑕疵担保責任をどう考えているのか」の部分がそっくり抜け落ちていた。

最終更新:2017.11.21 12:32

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