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長渕剛がSEALDsに「希望を見た」! 一方、口をつぐむ若手ミュージシャンには「銭が欲しいなら医者か弁護士になれ」
『KAWADE夢ムック 長渕剛 民衆の怒りと祈りの歌』(河出書房新社)
〈我々の歌を富士から安倍首相のもとまで届けよう。どす黒いはらわたの国会の連中まで響かせようぜ〉
2015年8月22日、富士山麓の朝霧高原にあるキャンプ場「ふもとっぱら」で行われた「長渕剛10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」。ヘリに乗って長渕が登場する際に救護用テントが倒れて看護師がケガをしたり、終演後6時間以上もその場で待たされ帰宅できなかった客がいたなど、肝心のライヴ本編以外のところばかり注目されてしまった「10万人オールナイト・ライヴ」だが、そのライヴ冒頭は上記のような安倍批判のMCから始まっていたということは意外と知られていない。
筋肉隆々な身に日の丸を纏い拳を振り上げる、マッチョ思想に毒されきったタカ派右翼。もちろん、戦争にも原発再稼働にも大賛成。世間が思う「長渕剛」という男のイメージはこんなところだろうか。だが、当サイトでも何度も指摘しているように、実際の長渕はその真逆の思想を貫いている男だ。キャリアを通じて「反戦争・反原発」を掲げ続け、湾岸戦争に追随する日本を憂いた「親知らず」、9.11後の世界に祈りを捧げた「静かなるアフガン」、福島が直面する悲しみに向き合った反原発ソング「カモメ」など、メッセージ色の強い楽曲も多く発表している。
そんな長渕剛が、安保法制をめぐる危機感や、それに対し声をあげたSEALDsなどの若者たちについて『KAWADE夢ムック 長渕剛 民衆の怒りと祈りの歌』(河出書房新社)で語っている。これまでも本稿冒頭に引いたライヴでのMCや、7月19日に放送された『ワイドナショー』(フジテレビ系)での、
〈いまのこの流れでいくと、理屈はわからないんですけどね、感覚論としてね、戦争が近づいている気がするの。もう紛れもなくそこに近づいている気がしますよ。それをね、僕たちはどうやって阻止すべきかってことを非常に真剣に考える局面がありますよ〉
といった発言はあったものの、そこまで深く切り込んだ言葉は発してこなかった長渕。彼はどんなことを我々に伝えようとしているのか?
長渕は、インタビュアーの武田砂鉄氏による「特にこの八月は、安全保障法制が可決し、この国が戦後ずっと守り抜いてきた平和を考える上で、大きな転換点となりました」という言葉にこう答える。
「本当にきつい状況です。ちょっとどいてくれよ、って思う。今回、学生たちが有志で声を上げましたね。素晴らしいことです。SEALDsの奥田君の国会での答弁、あれは静かな殴り込みでした。冒頭でいきなり、「先ほどから寝ている方が沢山おられるので、もしよろしければお話を聞いていただければ」と言う。実に愉快でした」
これら奥田氏の活躍に長渕は「よし、っと、久しぶりに拳が上がりました。希望を見ました」と絶賛の言葉を寄せる。
それに引き換え、彼が気になったのは若いミュージシャンの日和見な態度だった。何者でもない、普通の大学生があれだけ自分たちの意見を主張しているというのに、率先して言葉を紡ぐべきミュージシャン、表現を生業としている者たちが意見を主張するそぶりすら見せない。
「おかしいです。誰に口止めされているのか? 誰かに操られて音楽を作って、それで楽しいんだろうか。自分の言葉を持ち、そして発言する。音楽家がやるべきことなんてそれしかない。ロックでもパンクでもヒップホップでも、ジャンルはなんだって良い。日頃、社会に対してああだこうだ難癖つけてるくせに、いざとなったら、何にも言えない」
「若いミュージシャンを見ていてもね、「おい、お前は何に寄り添っているんだ? 銭か? ったく、若いのによぉ」、しょっちゅうそう思う。パフォーマンスを見ても、歌を聞いても、「そんなに銭が欲しいなら、もっと勉強して、医者か弁護士になれば?」と思う。表現で飯を食う、なんてね。笑わせるなよ。その前に荒くれろ!」
長渕が若いミュージシャンたちに対してここまで強い言葉を投げかける理由、それは彼の音楽的ルーツにある。長渕は同書に収録されている、写真家・作家の藤原新也との対談でこんな言葉を語っている。
「ギターは攻撃するための武器でした。どちらかと言うと関西フォークの源流やその周辺に傾倒していたんです」
「関西フォーク」とは、ザ・フォーク・クルセダーズ、高石ともや、中川五郎、高田渡、岡林信康といったシンガーを中心に60年代後半から70年代始めに最盛期を迎えたムーブメント。彼らは色恋の歌に終始する売れ線のカレッジフォークとは違い、政治的なメッセージ色の強い楽曲を数多く発表。学生運動華やかりし時代、若者たちのテーマソングとなっていった。
南北に分断された朝鮮半島の悲しみを歌うザ・フォーク・クルセダーズ「イムジン河」、学歴偏重社会をコミカルに皮肉った高石ともや「受験生ブルース」、安保条約や自衛隊を揶揄した高田渡「自衛隊に入ろう」、山谷に住む日雇い労働者の哀愁がテーマの岡林信康「山谷ブルース」……etc、彼らの楽曲は歌詞の過激さから放送禁止楽曲に指定されるものも多かったが、それにも屈しない気骨溢れるアティテュードは多くの人々を魅了する。長渕もまさしく魅了された一人であり、それが前述の「親知らず」「静かなるアフガン」といった楽曲につながっていく。
当サイトでも折に触れて取り上げてきたように、岸田繁(くるり)、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)といったミュージシャンも安保法制に対し声をあげてはいたが(アジカンはデビューしてから10年以上、くるりにいたっては20年近いキャリアがあるので若手とは言えないかもしれないが……)、長渕が指摘するように口をつぐんでいた者が多かったのは事実だ。
この長渕の挑発に、一人でも多くのミュージシャン・表現者が反応してくれることを願わずにはいられないが、しかし、すっかり牙を抜かれた今の音楽業界の状況を見ると、それはなかなか難しいかもしれない。
長渕は安保法制や政治状況に対する沈黙とは別に、もう一つ、若手ミュージシャンにこんな批判をぶつけている。
「とにかくリアリティがない。「お前、それ本気で歌ってる?」って問いたくなる歌ばっかり。「さびしい」とか「君を笑顔にしてあげる」とか、そんな言葉をとりあえず並べただけ。「おい、お前のもっとも大事なものってなんだよ?」と問いたい。僕は、歌の本質とはリアリティだと思っています。アメリカのことを歌おうが、恋愛のことを歌おうが、必ず純粋であるべきです。今は取り急ぎ作った不純な歌ばかりだ」
そう。だからこそ、私たちは長渕の“純粋”の言葉に改めて耳を傾ける必要があるもかもしれない。
(新田 樹)
最終更新:2015.12.08 08:11
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