不祥事・トラブルに関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
体罰を認めた馳浩文科相が会見でついた大ウソ…義家副大臣との対談に「自戒、反省」は一切なく逆に体罰を擁護!
13日に開かれた馳浩文部科学大臣による記者会見の様子(YouTube文部科学省公式チャンネル「mextchannel」より)
新たに文部科学相に就任した馳浩氏が、本日10月13日の記者会見で、教師時代に生徒への体罰をしていたことを認めた。
ことの発端は、リテラが今月9日に「生徒を4時間監禁、竹刀が折れるまで…新文科相の馳浩と副大臣の義家弘介が教師時代の体罰自慢対談」という記事を公開したことだ。
これは、保守系月刊論壇誌「正論」(産経新聞社)2008年6月号に掲載された、馳新文科相と、おなじく第三次安倍改造内閣で文科副大臣に着任した義家弘介氏の対談記事のなかで、ふたりが「一週間に一本くらいは竹刀が折れていましたよ」(馳氏)、「いじめの指導で放課後四時間教室から(生徒を)出さなかった」(義家氏)などと、“体罰自慢”を披露していたことを指摘したもの。
今日の会見で馳文科相は、「部活動においても本当は体罰は絶対してはいけないのだが、私が未熟だったばかりに高校生の諸君に迷惑をかけたことを反省しているとの意味で、発言したと記憶している。改めて、あの時、私に竹刀で殴られた高校生たちに謝罪したい」「授業においては常に気をつけていたつもりだが、部活動でそういうことがあったのは事実であり、改めて申し上げた」などと体罰の事実を認め、釈明した。
だが一方で、馳文科相は「体罰は絶対反対です。記事全体を読めばおわかりいただけると思うが自戒・反省・謝罪を込めて発言した」とあたかも一部を恣意的に取り上げられたかのように言い訳し、体罰容認発言は否定した。しかし、なんど問題の対談を読み返しても、対談記事のどこにも「自戒」「反省」「謝罪」を表す文言はひとつも見当たらず、むしろ全体のトーンは明らかに体罰を容認するものだった。
本サイトとしても改めて、くだんの対談記事を検証する必要があるだろう。
まず、問題発言があったのは、対談の中盤、「体当たりの生徒指導〜身体で教えるということ」という小見出しがつけられている箇所。文脈としては、その前のパートで義家氏が、「『型』を軽視し、個性を尊重すると言ってきたのが戦後教育」とし「結局、没個性な大衆が生まれている」と、現代の学校教育を批判した流れを受けたものだ。保守政治家に分類される義家氏らからすれば、個人の自由を尊重する教育方針は集団や組織、あるいは国家の解体に結びつくと考えるみたいなので、こうした意見自体は別段驚くことではない。
問題はその後である。進行役から「型の話が出ました。ルールを教えるという意味での生徒指導にはどう臨まれましたか」と振られたふたりは、まず義家氏から、「生徒指導で大切なこと。これはいったんひいた線は絶対死守することに尽きる」としたうえで、過去の体罰経験を開陳し始める。
「困るのは高校の場合、生徒が教師を殴るとほぼ一〇〇%退学となることです。だから生徒が殴り掛かってくるときに『受け止めてあげるよ』なんて甘いことは言ってはいけない。それではそのまま殴らせてしまい、結局その生徒は退学です。そうならないためにどうするか。これはこちらから掴みかかってでも倒してしまうのが正しいと僕は思います。とにかく私には毎日体当たりするしかなかった。それは生徒を守らないといけないからですよ。そのために筋トレは一日も欠かせませんでした。指導方法を云々なんて余裕は全然なかったのです」
ようするに、「生徒を退学にさせないため」などと言って「こちらから掴みかかってでも倒してしまうのが正しい」と主張しているのだが、当然ながら、こうした義家教諭のやりかたは学校で問題視された。なかでも「いじめの指導で放課後四時間教室から出なかった時は他の教職員がハラハラしながら私の教室の外で見守っていて後で散々言われました」という“生徒監禁エピソード”を持ち出して、こう持論をぶつ。
「口で『いじめはダメですよ』と説くのは誰でもできる。でもこれはそんな次元で済ましてはダメで態度で示す以外ない。教室の用具はボコボコになり、最後は加害生徒が泣いて詫びながら二度といじめないことを誓ったので終わりにしましたけど、これは仲間内の教職員から散々に言われました」
つまり、義家氏は、いじめをした生徒を放課後の教室で4時間監禁したあげく、「教室の用具はボコボコに」というのである。本当に「ボコボコに」なったのは教室の用具だけか?と聞いてみたいものだが、この義家氏の発言の直後、馳氏はこう返しているのだ。
「私は朝七時前には必ず学校に行き、職員会議が始まるまでの時間を校門に立って口うるさくやりました。爪、スカートの丈、髪型など。私の場合は終始怒鳴らなくても済んだんですね。というのは私が教員になってすぐに五輪の代表に選ばれましたし、私の身体を見れば生徒は『馳は怒らせると怖い』と分かるのです。生徒は逆らったら怖いとビビっているから、むしろ『怒らせると怖いけれども、そうでなければ普通に話せる』と思わせるよう、授業の始まりにいろいろな話をして気をつかっていましたね」
おそらくこの部分が、馳文科相が会見で「教員時代、朝の登校時に生徒のカバンを見て、中に何も入っていない生徒のカバンを取り上げ『なんだこれは』と、こういったことがなかったとは言わない。やられた高校生がよく覚えていると思う。しかし、それはダメだ。特に体の大きい声のデカいこのような私がしたことの謝罪と反省を踏まえて申し上げたと記憶している」と釈明した部分なのだろう。問題はこれに続く“竹刀が折れるほどの体罰”だ。
「では殴ったことがなかったかと言えば、必ずしもそういうわけでもない。私は高校のレスリング部の監督を務め、石川県で強化委員会をやってましたけど、私の高校はそう強いチームではなかったのです。ですから一週間に一本ぐらいは竹刀が折れていましたよ。これは理由はハッキリしている。短期間でチームをまとめ、強くするには基礎体力をつける以外にない。私は、できるのに、できないふりをする生徒には一貫して厳しく臨んだのです」
ようするに、弱小レスリング部を強くするために、「一週間に一本ぐらいは竹刀が折れ」るほどの強烈なしごき・体罰指導を行ったというのである。では当時、この馳氏の“教育”が評価されたのかといえば、どうやらそうではないらしい。馳氏はこう続ける。
「周囲からはまずいんじゃないかという声も聞こえてきましたが、生徒の親にも積極的に自分の考えを分かってもらうよう努めましたね」
つまるところ、こういうことではないのか。保護者や学校から馳氏の体罰指導に対し批判の声があったが、しかし、当の馳氏は「短期間でチームをまとめ、強くするには基礎体力をつける以外にない」などと保護者に言って、その後もその“教育方針”を曲げなかった──。
真相はその生徒らが名乗り出ないかぎり闇の中だが、少なくとも、馳文科相が会見で言うように「迷惑をかけたことを反省をしているとの意味で、発言した」という調子はつゆほども確認できない。これをどうやったら「自戒・反省・謝罪を込めて発言した」というふうに言えるのか、大いに疑問である。
いや、そもそも、この対談のトーンは一貫して“体罰は教育として肯定される”という流れなのだ。実際、前述の馳氏の発言の後に、義家氏がこんなことを言い出している。
「この機会に申し上げますが、私は正直、体罰という言葉の定義にいつも違和感を抱いてしまうのです。罰を加えるうえで、生徒への悪意、見下した思いに基づくものだったり、生徒を自分の感情のはけ口にするような力の行使は、それは教育ではない。調教か、それですらないと思うのです。許されないことはいうまでもありません。ただ、では教師が力を使えば、全て教育にはなりえないか、教育として否定されてしまうのかといえば、それも違う。敢えて言えば身体を通して教える場面というのはあり得ると思うのです」
もはや、コメントするまでもない。義家氏は明らかに、“体罰は教育として認められる”という自身の考えを明言しているのだ。体罰が“教育になりえる”かどうかは、教師側が決めることではない。義家氏がどういうつもりで体罰を加えたとて、暴力は暴力である。前述の生徒監禁事件によって「最後は加害生徒が泣いて詫びながら二度といじめないことを誓った」のは、本当に教育の成果だと思っているのか。ただ、犯罪的監禁に生徒が屈しただけではないのか。だとしたら、それは教育ではない。
では、対する馳氏はどうだったのか。もし「自戒・反省・謝罪を込めて」というのならば、どのような理由があっても体罰を認めてはならないはず。しかし、この義家氏の体罰容認発言にたいする馳氏の答えはこうだった。
「さきほど私の指導について周囲からまずいんじゃないかという声が聞こえてきたといいましたね。先生同士の間で齟齬があったり、疑義や互いに批判すること、『こんなやり方は間違っているのではないか』という思いを抱くことは私も含めて珍しいことではないのです。ただ一点、生徒の前で他の先生の悪口を言わないこと。これは気をつけましたよ」
これ以上引用する必要はないだろう。ようするに、義家氏のあけっぴろげな“体罰には教育的効果があるのでOK”という暴論を見事に“スルー”しているのである。その後、対談は「正常な教育現場をおかしくする勢力」(馳氏)つまり、おきまりの戦後民主主義教育批判へとシフトし、体罰の話題は消えるのだが、やはり、こうして詳細に読んでいっても、当時の馳氏が生徒への強烈な暴力を反省していると感じさせる文言は一切ない。義家氏にいたっては、「身体を通して教える場面というのはあり得る」とハッキリと体罰を肯定しているのだ。
読者もお分かりいただけただろう。こんなふたりが、文科省のトップに居座っているのだから、本当に恐ろしい限りである。しかし、気になるのは、マスコミは会見での馳氏の言い分を垂れ流すだけで、一切厳しい追及を見せようとしないことだ。しかも、義家副大臣はもっとひどい体罰容認発言をしているのに、今のところ追及の姿勢を見せていない。
この問題を放置し続けることは、体罰を消極的に容認するだけでなく、この国の教育全体を暴力支配に委ねることを意味する。馳氏、義家氏のふたりを、そして彼らを任命した安倍首相の責任を、厳しく追及していかねばならないだろう。
(宮島みつや)
最終更新:2015.10.13 10:31
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