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イノッチがママ友と井戸端会議で情報集めしていた!『あさイチ』成功の秘密を明かす
NHK『あさイチ』番組サイト「キャスター・リポーター紹介」より
〈その男、勝ち組につき〉〈今一番の“勝ち組の男”〉
5月末に発売されたサブカルテレビ情報誌「TV Bros.」(東京ニュース通信社)に躍った、この気になる惹句。今期ドラマ視聴率でキムタクに肉薄する佐藤健のことか。それともサブカル誌らしく芥川賞にいまいちばん近いとされるピース・又吉直樹の特集か……。だがその答えは、NHKの朝の顔、V6のイノッチこと井ノ原快彦だ。
たしかに井ノ原といえば、朝の情報番組のなかで視聴率トップを誇り独走する『あさイチ』(NHK)のMCに加え、長寿番組『出没!アド街ック天国』(テレビ東京)の2代目司会に抜擢されたばかり。ジャニーズ事務所の司会者といえばSMAPの中居正広の名がかならずトップに挙がるが、一方でイノッチは、老若男女に愛される“お茶の間司会者”という地位を確実に築きつつある。
もちろん、イノッチ人気を不動のものにしたのは『あさイチ』あってのものだが、同誌の井ノ原インタビューによれば、番組当初はちょっと悲しいポジションだったようだ。
「『あさイチ』は、スタッフの方々と、有働(由美子)さんや柳澤(秀夫)さんがすでに考えてくれていて、僕は最初はあまり期待されてなかったんですよ(笑)」(同誌インタビューより)
周囲から期待されていないという、完全アウェーの空気。しかも、番組開始前は視聴者のあいだにも「朝からNHKにジャニーズ? 迷走してるなあ」という違和感が広がっていたのも事実だ。でも、井ノ原は前向きだった。
「実は、僕にとっては『やっと来た!』って感じで。奥様方が見る番組を見て育ってきたし、『僕が伸び伸びできる仕事が来た!』って、楽しくてしょうがないんです」
「朝からなんでそんな(ディープな)話題をって言われることも多いけど、実は同じことをゴールデンでやったら家族がいるから主婦は落ち着いて見られないんですよね。だから朝の、主婦が一人でテレビを見られる時間帯にそういう話題を扱いたいんだって言われて、だったら僕はピッタリかもしれない、って思ったんです」(同前)
井ノ原がこのとき思い出したというのは、幼少期のこと。母親や姉の友だちとデパートのセールに並び、退屈するイノッチ少年を尻目に彼女たちが交わすおしゃべり……。「あの時の女の人の中にいる自分。それは特別な体験だったのかもしれない。自分が得意だったことを披露できる場所をいただけたのかもしれないって思ったんです」と井ノ原は振り返るが、かしましい女性たちに揉まれた経験があったから、女性向け情報番組(しかもディープ)を楽しめたのだろう。
そういうイノッチの“こなれ感”は、番組内でも随所に出てくる。たとえば、涙を流す有働アナにハンカチを差し出す“ハンカチ芸”はいまや定番だが、『マッサン』の最終回前に玉山鉄二とシャーロット・ケイト・フォックスが出演した際には、シャーロットの通訳の女性まで泣き始めてしまった。そこで井ノ原は有働アナだけでなく、通訳の女性にもそっとハンカチを取り出したのだ。これには視聴者も「イノッチ、ハンカチ何枚持ってるの?」と大騒ぎ。
こうした井ノ原の細やかな芸もさることながら、『あさイチ』で好感度を上げたのは、きっと彼がいつも“上からでも下からでもない”視点、ひとりの生活者として発言する点にもあるだろう。実際、インタビューでも、「最近は子どものお迎えとかで、お友達のママさんから「今朝のあれ、チラッとしか見てないんだけど、どういうこと?」とかって聞かれるから、「じゃあ、ちょっと時間いい?」なんて話していると他のママさんたちも集まってきて」と、子育てを通して“生きた情報”を得ていると話している。
が、だからといって井ノ原は、他局のキャスターやコメンテーターのように知ったかぶりのコメントもしない。井ノ原は「“知らないことが罪”っていう状況に自分を置きたくなくて」と言う。いわく、「知らないことは教えてもらえばいいんだ」。
「あまりにも知らないことが多いと、それはそれで叩かれるみたいだけど。でもこんなに情報が溢れてるんだから、逆に知らないことがあってもいいと思うんです。それよりも、人の気持ちを考えないことのほうが罪だから」(同前)
この“人の気持ちを考える”というスタンスは、2014年10月15日に放送されたセクハラ特集の回に顕著だ。この日、番組では40代女性のセクハラ実態を紹介したのだが、そこで井ノ原は突然、番組批判をはじめたのだ。
「返しが上手くておもしろくしてくれるからって、縁結びとかそういうネタのときに有働さんに全部振るのも、俺はどうかと思う」
「それをありがとう!って返しちゃう有働さんだからって、笑いがとれればいいと思っちゃいけないんだよ」
「(有働が)強いから言っていいとかじゃなくて、相手がどう思うかをつねに考えないと。そのつもりがなくても、加害者になっちゃう」
結婚ネタを有働にオチとして振る雰囲気、それ自体がセクハラではないのか。毅然としたイノッチの指摘は、隣で聞いていた有働アナだけでなく視聴者たちの胸に響いた。そして、そのとき多くの女性が思っただろう。「イノッチ、惚れてまうやろ!」と。
このように書くと、まるで井ノ原は女性の太鼓持ちをしているだけのようにも思えるかもしれないが、さにあらず。ときには反発を買うような発言だって、井ノ原は厭わず行う。
12年8月、「戦争ってなに?」と題し、子どもに戦争をどのように伝えるべきかを特集したとき、ちょうど世の中では「子どもに戦争の悲惨さを教えるために残酷な映像や写真を見せるのはいかがなものか」「トラウマにはならないか」という声があがっていた。番組でもそうした流れから、長崎市原爆資料館を訪れた子どもの反応を紹介。ある少年はショックを隠しきれない様子だった。
しかし、井ノ原はそのショックを受けた少年について「これはとっても大事なこと」と述べ、こうつづけた。
「人を殺すということは、たいへんなことで、バーチャルじゃないんだというショックは、多少のトラウマになってもいいぐらいじゃないですかね」
場の空気に抗おうとすると、ときとして人は一匹狼のように孤立しがちだ。でも、井ノ原の静かな“抵抗”には、刺々しさやざらつきが感じられない。『あさイチ』は「女性の貧困」や「母が重たい」、先月5月に放送した「沖縄」特集といった社会的なテーマも積極的に扱うが、こうした重い特集を視聴者が朝から受け止めることができる一因には、井ノ原の“雰囲気はゆるいけど、真摯”というキャラクターの魅力によるところも大きいのではないだろうか。
いまではいつも笑顔で“気さくなお兄ちゃん”ふうの井ノ原ではあるものの、事務所に入所したばかりのころはジャニー喜多川にも「そんな暗かったら誰も話したくないよ」と怒られてばかりだったと言う。「小学校では認められたんだ」とジャニーさんに見せつけたくて、自分のスローガンが載った学級新聞を持っていったこともある。しかし、ジャニーさんの反応は「ちょっと待って、僕、世界のジャニーだよ!」「わら半紙なんか持ってこないでよ」と「マジで怒られた」。でも、そのころのことを、井ノ原はこのように語る。
「もちろん社長をはじめ、子ども相手に理不尽なことを言う大人にもたくさん出会ったけど、それで逆に鍛えられる部分もあったし」
芸能界という“理不尽”の世界を歩み、さらには結婚生活もオープンに語るというジャニーズ事務所では特異なポジションを得て、身につけた柔軟さと強さ。──先日、本サイトでは同事務所の先輩・中居正広が戦略的に「こじらせ中年」を演じることで芸能界を生き延びようとしていると指摘したが、まさに“生活者”として歳をとることが仕事に結び付いている井ノ原は中居とは対照的。意外と60歳を過ぎても番組MCを張っているのは、イノッチのほうかもしれない。
(大方 草)
最終更新:2015.06.09 07:17
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