阪神・淡路大震災から20年も復興費流用が招いた“復興災害”で未だ被害拡大

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『復興〈災害〉――阪神・淡路大震災と東日本大震災』(塩崎賢明/岩波書店)

 あの阪神・淡路大震災から明日1月17日で20年を迎える。マグニチュード7.3、最大震度7。神戸という大都市を含む場所で起こった未曾有の地震は、多くの家屋を倒壊させ、大規模火災も発生。6434人もの犠牲者を出した。

 それから20年。しかしこれだけの年月が経っても、神戸は本当の意味で復興していないと指摘する声は多い。今月14日に放映された『阪神大震災20年生死を分けたドキュメントが語る! 池上彰の生きるための選択』(TBS系)の中で、番組MCを務めた池上も「“復旧”はしたが“復興”したかというと難しい。課題はまだある」と語っているほどだ。

 一体、どのように復興していないのか。そのひとつのキーワードが「復興災害」ではないか。

 地震などの災害は、発生直後数日の緊急対応が大切だが、その後10年以上にわたる復興の間、一命を取り留めたにもかかわらず仮説住宅で孤独死をしたり、家庭が崩壊したり、町や村が衰退していくことがある。そんな災害後のさまざまな被害を「復興災害」という。これをテーマにした『復興〈災害〉――阪神・淡路大震災と東日本大震災』(塩崎賢明/岩波書店)では、現在も続く阪神地区の数々の問題が指摘されている。著者は都市計画の専門家として復興まちづくりに関わってきた人物だが、その復興の問題をこう記している。

〈いつまでも孤独死がなくならず、まちづくりで苦悩している人たちを見て、これは災害の後の復興政策や事業が間違えているからではないかと思うようになった〉
〈東日本大震災の被災者らが、阪神・淡路大震災の復興に学ぼうと神戸を訪れ、予想に反して衝撃を受けるのが新長田の再開発事業である。そこでは震災から二〇年を迎えても事業は完了せず(現時点での目処は二〇一七年とされている)、それどころかでき上がった再開発ビルの中はシャッターだらけで、多くの商店主が日々苦しんでいる〉

 そんな「復興災害」の典型が、現在行われている「復興公団住宅に住む被災者が追い立てられようとしている」問題だ。

〈阪神・淡路大震災では復興公団住宅が約四万二〇〇〇戸供給されたが、そのうち約七五〇〇戸がこの借り上げ公団住宅(民間アパートを借り上げて公営住宅として貸す)だった〉

 だが現在、この借り上げ公団住宅の「借り上げ期間」が震災後20年を迎えるなか、満期を迎えようとしている。そして神戸市は入居者に「住み替えてもらう」という方針で退居を求めているというのだ。

〈入居者が何も困らなければ問題はない。しかし、大多数の入居者は現在のまま住み続けたいと希望している。それは当然のことで、入居当時六〇歳だった人は、八〇歳になる。高齢で体力は衰え、病弱な人も多い。二〇年の間に培ってきた隣近所の人間関係も捨てて、今から転居することがどれほどダメージになるか、想像に難くない〉

 なぜ、神戸市は入居者への退居を進めようとしているのか。理由は神戸市の財政などにあると指摘されるが、著者はこれに対し、〈住宅というものの特性、そこでの暮らしということを全く理解しない、金目の計算であって、市民・被災者の住まいの確保・安定という住生活基本法や公団住宅法の理念に反する〉と強く非難する。

 さらに、もうひとつの大きな問題も指摘されている。それが復興費流用だ。これは東日本大震災でも指摘され大きな非難を浴びている問題だが、じつは阪神・淡路大震災でも流用が存在した。

  阪神・淡路大震災に投じられた復興費は16兆3000億円。しかしそのなかで、震災と直接関係しない通常事業に復興費の23%、約3兆8000億円が使われていた。

〈被災地の復興に直接関係しない通常事業の大半は『総合交通体系・情報通信網づくり』の事業(三兆三九一億円)で、そこには本州四国連絡道路等二四九四億円、地下鉄海岸線建設二三五〇億円。関西空港二期埋立八三二六億円といった巨大プロジェクトが目白押しである。いずれもインフラ整備で、それぞれに意味があるとしても、これらが被災者の生活再建や被災地の復興に直接関係ないことは明らかである〉

 しかもこうした流用で次々と巨大なハコモノがつくられていくが、それらの多くは失敗や赤字だった。著者が〈とりわけ、被災者が日々の暮らしに不安を抱いていた震災直後に、市長が復興の『希望の星だ』とぶち上げた神戸空港は、多くの市民の反対を押し切って建設したものの、結局は『赤字の星』となって、いまや市のお荷物と化している〉と綴るように、被災者そっちのけで行われた復興とは直接結びつかない公共事業、インフラ整備に、巨額の復興費が使われていたのだ。

〈結局、復興には多く見ても約一一兆円しか投じなかったのに、一六兆三〇〇〇億円を復興に使ったかのように装い、多くの資金がインフラ整備やハコモノ事業に投じられ、生活再建が後回しにされ、その結果、さまざまな「復興災害」をもたらしたのである〉

 しかも驚きを禁じ得ないのは、この問題が指摘されたのは震災から14年経ってからだった、という事実だろう。

 復興費の流用によって、被災実態に合わない再開発、都市計画が行われ、コミュニティが崩壊し、孤独死も頻発、人口も減少、商店街の風景や人々の生活は激変させられた。こうした国や行政主導の実態に合わない計画や思惑により、一見、外からは復興したように見えても、人々の内実は現在でも“復興”とは言えない状態が存在するのである。

 そして、前述のように復興費流用は東日本大震災でも発生した。しかも、阪神・淡路大震災では行われなかった“増税”により19兆円もの財源を確保し、流用規模も沖縄から北海道、果ては海外までと、類をみないほどの広がりを見せている。その裏には安倍晋三首相による「国土強靭化」政策があるのだが、この問題については、稿をあらためて紹介したい。
(伊勢崎馨)

最終更新:2018.10.18 01:43

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