現役続行か引退か? 浅田真央、迷いの原因は“キム・ヨナルール”導入!?

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浅田真央オフィシャルウェブサイトより

「やっぱり真央ちゃんも見たいな」「真央ちゃんいないと盛り上がらない〜」

 昨年末、全日本選手権で3連覇を達成した羽生結弦選手の活躍に湧いたフィギュアスケート界。しかし、一方で相変わらず根強いのが浅田真央待望論だ。

 だが、当の浅田真央は相変わらず態度をはっきりさせていない。先日のアイスショーの後の囲み取材でも「スケートをすべりたいという気持ちが強くなった」とは言ったものの、明確な復帰への意思は見せなかった。

 一部では、浅田自身は引退したいのだが、“ドル箱”の引退を日本スケート連盟が認めず、引退したくてもできない状態だと報道された。しかし、浅田はスケ連に服従を強いられ搾取されるだけの弱い存在かといえばそうでもない。以前、浅田はシンボルアスリートに打診された際も一度は条件が悪いことを理由に断ったこともある。

 では、浅田は何を迷っているのか──。それは「ルール改定」の問題ではないだろうか。というのも、昨年4月29日に国際スケート連盟(ISU)からルール変更の内容を公表されたが、浅田が休養を発表したのはそれから1か月も経たない5月19日のこと。引退をほのめかしたかたちの休養宣言の裏側にルールの改定があるのではないかと見られるのは、このためだ。

 昨年決定した新たなルール変更は、すでにご存じの通り、ボーカル入りの曲の使用解禁や、名前をコールされてから演技開始までの持ち時間短縮などいくつかあるが、選手にとってもっとも影響が大きかったのは、「ジャンプの踏み切り違反の厳格化」だった。

 ジャンプのなかでも「ルッツ」と「フリップ」は、いずれも左足のエッジで踏み切り右足のつま先をついて跳ぶのだが、ルッツはアウトサイドのエッジ、フリップはインサイドのエッジで踏み切らなければならない。これがルッツなのにインサイドで、フリップなのにアウトサイドで踏み切っていると、エッジエラーとして「e判定」がつく。例を挙げれば、3回転ルッツの基礎点「6.0」が踏み切り違反の場合は「4.2」に減らされるのだ。

 とくにルッツはアクセルの次に難易度が高く、また得点も高いジャンプ。減点は大きな痛手となるが、浅田にはルッツジャンプの踏み切りに癖があり、試合でルッツを跳ぶ場合はほぼ毎回のように踏み切り違反(エラー)がついてきた。たとえば、ソチ五輪のフリーもそうだった。

 報道では「6種8トリプルの偉業を見事成功!」という見出しが踊り、 “伝説”の演技と大々的に讃えられたが、しかし、実際のソチでのフリーでは、トリプルルッツにエラー、トリプルフリップ+トリプルループの連続ジャンプの2つ目のループが回転不足、ダブルアクセル+トリプルトゥループの連続ジャンプの2つ目のトゥループも回転不足と判定されている。つまり、「6種8トリプル」でなく、「4種5トリプル」に成功したにすぎない。

 しかも、前述したように、ソチでたまたまエラーがついたわけではない。2007年にジャンプの踏み切りの厳格化の方向でルール改定されて以降、浅田はルッツを飛んでもエラーとなるか、あるいは踏み切りを意識しすぎるあまり2回転や1回転になってしまう事態が頻発。08年にはタラソワコーチのもとで矯正に取り組むが改善できず、ついにバンクーバー五輪に出場した09年シーズンでは、演技にルッツジャンプを入れるのをやめてしまった。さらにバンクーバー後はすべてのジャンプを見直すと宣言したが、佐藤信夫コーチはある程度の年齢になってからの矯正は全体のバランスを崩すため、矯正には否定的だったともいわれている。そうして結局、エラーを修正できないままソチ五輪に挑んだのだ。

 浅田につきまとう厳格化という足枷──。このためネット上では、昨年のルール改定を「真央つぶしのための新ルール」と見る向きがあり、他方で正式に引退を表明したにもかかわらず「キム・ヨナのためのルール」などと揶揄する声もあがった。

 しかし、新ルールは一概に「真央つぶし」とは言えない。そもそもルッツかフリップのどちらかがエラーになってしまう選手は少なくないし、07年にルールが厳格化された際も多くの選手が苦しんだ。キム・ヨナの場合もそれは例外でなく、現在、羽生のコーチを務めるブライアン・オーサーも、先日発売した著書『チーム・ブライアン』(講談社)でキム・ヨナのコーチ時代を振り返り、「(フリップで)たまにエッジで違反を取られていた」「気をつけて跳べば大丈夫ですが、実際に試合となると曖昧と判定されるケースがあった」「ヨナのトリプルフリップのエッジが正しいかどうかをメディアが噂し、それを映像にとって確かめ、全世界に報道することがわかっていました」などと記述。キム・ヨナもエッジの判定についてかなりナーバスになっていたことがわかる。

 また、これまでのルール変更では、浅田に有利な改定もあった。というのも、トリプルアクセルの基礎点は上がっているのだ。07年には7.5点だったのが、08年には8.2点、10年には8.5点と上がりつづけている。トリプルルッツは6.0点のままだったり、トリプルループが5.0から5.1に、トリプルトゥループが4.0から4.1という微増であることを考えると、トリプルアクセルの点数の上がり方は突出しているといえるだろう。

 女子でトリプルアクセルを試合に恒常的に入れているのは浅田だけなので、この恩恵を受けられるのは実質的に彼女だけ。10年の改定時にはISUの平松純子理事がトリプルアクセルの点数を上げることをずっと働きかけていたと語っているが、これは浅田を意識した行動だったはずだ。

 それでも、ルール改定のほかにも判定や採点システムを非難する声は大きい。それもこれも浅田がキム・ヨナに勝てなかったことからヒステリックな反応を引き起こしていると思われるが、前述のオーサーコーチは「新採点法になったことでスケートの採点法は改善したと私は思っています」と評価し、その理由を「旧ルールのように「技術点」「芸術点」だけではなく、ジャンプやスピン、滑りなど何十項目ものチェックがあり、それによって点数が決まるからです。国籍や出自と関係ない、とてもオープンな採点です」と述べる。また、荒川静香も著書『誰も語らなかった 知って感じるフィギュアスケート観戦術』(朝日新書)で、「(よく「公平か」と質問されるが)ほとんどの場合、納得できるもの」と同じように新採点システムを評価している。

 ところが、日本のメディアやファンは、浅田が負けると「八百長だ」「不正だ」と騒ぎ立てる。ことキム・ヨナに対しては、嫌韓感情も相まって攻撃が激しかった。その無邪気なアイドル性で国民的人気を得た浅田は“日本の希望の星”となったが、そこに登場したライバルは韓国のキム・ヨナ。──中国や韓国が経済力をつける一方、不況の閉塞感に包まれていた日本では、浅田に対する期待とキム・ヨナに対する非難が過熱することになった。だが、そのようなキム・ヨナとの比較を抜きにしても、浅田の技術を冷静に批評してこなかったメディアの責任は大きい。それは、異常な「トリプリアクセル」信仰だ。

 これまでずっと、あたかもトリプルアクセルが成功しさえすれば勝てるかのように報道されてきたが、「ジャンプやスピン、滑りなど何十項目ものチェック」という採点方法を考えれば間違いであることがわかる。さらに、浅田の実情はトリプルアクセルの次に得点の高いトリプルルッツを跳べず、トリプルサルコウも苦手、3回転3回転の連続ジャンプは回転不足になってしまう……という状態。既報のとおり荒川静香も「一般的には浅田選手はジャンプ技術が持ち味で、ヨナは表現力で勝負していると思われがちですが、私から見るとむしろ逆なのです」と指摘している。にもかかわらず「難易度の高いプログラムにチャレンジする浅田」とメディアは称賛したが、実際は一か八かのトリプルアクセルに頼る以外に戦う術がなかっただけ。このような現状に目をつぶり、メディアはただ贔屓の引き倒しで過剰なプレッシャーを与えてきたのだ。

 おそらく、2015年も現状のルールのままだと、浅田復帰の可能性はかなり低いだろう。実際、14年のシーズンでは、昨季まではエラーをとられていなかった選手がe判定とされるなど、エラーはかなり厳密にとられていた。回転不足にも厳しい。このルールでは、浅田が勝つのは相当に難しいと言わざるを得ない。一部では、昨年のルール改定前に「ルールを見て引退か現役続行かを判断するのでは」という報道が流れた意味を、“こういうルールなら復帰してもいい”とスケ連にプレッシャーをかけていたのでは?と見られているが、これもあながち外れていないのかもしれない。

 昨日、TBS『S☆1』のインタビューでも、「『ハーフハーフ』が『復帰80%、引退20%』になるときもある」としつつも、「復帰するからには勝ちたい。辛いこともある」と決断にいたれない心境を語っていた。4月ごろには復帰か否かが発表されることになるかと思われるが、果たしてその決断はどんなものになるのだろうか。
(本田コッペ)

最終更新:2017.12.09 04:48

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