錦織選手に1億円!でも労働者には厳しい「ユニクロ」のブラック体質

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錦織圭の胸には“UNIQLO”のロゴ(「UNIQLO ユニクロ」ウェブサイトより)


 全米オープンで準優勝を果たした錦織圭に、スポンサー契約を結んでいる大手衣料品チェーン・UNIQLO(以下ユニクロ)が、1億円の“特別ボーナス”を出すことを決定したことが話題になっている。NHKなどによれば、1億円のうち半分の5000万円は経営会社のファーストリテイリングが払い、もう半分は柳井正会長兼社長が個人で出すという。

 いくら錦織選手タイアップのテニスウェアが飛ぶように売れたからといっても、ポケットマネーでこんな大金をプレゼントとは……。同社の人気商品「ヒートテックVネックTシャツ」(980円)に換算すると、実に51,020枚分である。1日1枚着て使い捨ても約140年かかる。いやはや、なんとも太っ腹でないか。

 一方、ユニクロ(ファストリ)といえば、新卒社員の約5割が3年以内に退職しており、“サービス残業”を含むと月の勤務時間が300時間を超えることもあるなど、その体制が「ブラック企業」的と批判されている。「週刊東洋経済」(13年3月9日号)によれば、店舗正社員の休業者のうち約40%がうつ病等の精神疾患が原因であるという。また、23カ条からなる経営理念を「句読点の位置まで正確に覚えて」いなければ“連帯責任”とされることから「旧陸軍さながら」とまで言われている。その社風の内実は、爽やかな錦織選手のイメージとはおおよそかけ離れているのだ。

 この企業体制の背景には、経済のグローバリズムが密接に関わっている。ファストリは現在、ユニクロだけでも国内に約860店、海外各国に600店以上を展開しており、今後も拡大を続ける方針を打ち出している“超国家企業”だ。しかも、海外に生産の拠点を持つのはファストリだけではない。世界のアパレル業界全体が、過酷かつ低賃金な労働を人々に強いている状況にある。

 “ファストファッション”――手軽にファッションが楽しめる。しかも安い。ボロになったり、飽きたりしても、棄てることに躊躇がいらない。また次の服を、安く買えばいい――こうした回転の早さが生み出す大量消費を前提とした衣料品を、マクドナルドハンバーガーなどのファストフードになぞらえるようになって久しい。

 ユニクロは主にデイリーユース路線だが、近年では、H&Mやフォーエバー21など、トレンドをふんだんに取り入れた外資系衣料品チェーンも日本に進出し、大衆の生活に根付いた。海外のルポルタージュ『ファストファッション クローゼットの中の憂鬱』(エリザベス・L・クライン/鈴木素子 訳/春秋社)には、このアパレル消費文化の裏側が描かれている。

 アメリカ・ニューヨークに住む著者は、この10年間ほどファストファッションの虜だった。セレブ妻が高級メゾンのブランド品を買いあさって破滅するという話はよく聞くが、ハナから手が出ない庶民でも、その「模造品」のジャンキーになってしまうというのはリアリティがある。著者が本書の執筆前にクローゼットにある衣料品類を数えてみたところ、なんと全部で354点。その平均額は一枚30ドルに満たなかったという。ファストファッションは“洒落た服を購入する高揚感”を得たいという欲望を簡単に刺激するのだ。

 そもそも衣料品の原価は、生地の値段よりも、むしろ人件費や工場運営費、広告費などに依存する。実は、布地の価格自体はどこの国でも大差ないという。問題は労働力だ。ファストファッションの価格は、縫製員の賃金と工場の収入が決定する。ここに、グローバリズムの波が押し寄せてくる。

 同書によれば、ニューヨークでは高度な技術を持つ縫製員の時給は12〜15ドルで、アメリカの国民平均より高い。しかし、これがドミニカ共和国の自由貿易区域内になると、月の最低賃金はUSドル換算で150ドル以下。中国沿岸部では月117〜147ドル、バングラディッシュに関していえば、なんと月34ドルだ。さらに違法操業業者も少なくなく、移民労働者などを最低賃金以下で雇っているという。

 縫製工場はどこまでも安い卸値を付けることを強要されている。さもなくば発注自体がなくなってしまうからだ。

「今日のアパレル業界では、メーカーの力は比較的弱い。労働環境を先進国と同等レベルまで引き上げることなしに、経済のグローバル化だけが進んだからだ。結果として世界じゅうの労働者が低賃金を武器に雇用を取り合うしかなくなっている」(同書)

 消費者は品質の劣化さえなければどこでつくられたかなど気にもしないが、現地の環境は劣悪だ。ファストリも進出しているバングラディッシュの工場では、従業員のほとんどが水道も電気も通っていないスラムか、「それよりももっとひどいところ」に住んでいるという。工場の建物は老朽化しており、非衛生的であるうえに、経営側が危険管理すらおろそかにしている事例が多発している。

 バングラディッシュでは、建物の崩壊や火災で多数が死亡するという“事故”が何度もあり、ときに被害者は数百名にのぼった。事故が発生した工場では、外資によってGAPやH&Mの商品が生産されており、従業員が帰宅しているはずの時間に火災が発生したにもかかわらず、死亡者がでてしまったケースもある。つまり、多くの従業員が劣悪な環境下で違法な残業を強いられており、それがファストファッションの低価格を支えているのだ。

 そんなことを言われても、安いのはやっぱり助かるし、実際、途上国にも資本を落としているのだから、目をつぶろうじゃないか――そう考える向きもあるだろう。だが、再び日本に話を戻すとどうか。

 たとえばユニクロ製品は、企画から生産、販売まで全てを手がけるSPA方式という業態を採用することで、品質を保ったまま低コスト化を実現している。現在、その生産の大部分が行われているのは中国だが、拠点をアジア諸国へと広げていくことが明言されている。

 ファストリは昨年、グローバル経済において、同じ労働に対して同じ報酬を与える「世界同一賃金」の導入を検討すると発表した。一見、『ファストファッション〜』で見られるような状況の改善策のようにも思えるが、他方で、一部幹部を除く労働者の賃金が全体的に引き下げられるのではないかという見方も根強い。げんに柳井氏は、朝日新聞からインタビューを受けたさい、離職率の高さをどう考えるかという記者の質問に対してこう答えている。

「それはグローバル化の問題だ。10年前から社員にもいってきた。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのはしかたない」(『朝日新聞』13年04月23日朝刊)

 この「中間層」こそ、日頃ファストファッションを消費するわれわれのことではないか。さらに柳井氏はこういう発言もしている。

「グローバル経済というのは『Grow or Die』(成長か、さもなければ死か)。非常にエキサイティングな時代だ。変わらなければ死ぬ、と社員にもいっている」
「生産性はもっと上げられる。押しつぶされたという人もいると思うが、将来、結婚して家庭をもつ、人より良い生活がしたいのなら、賃金が上がらないとできない。技能や仕事がいまのままでいいとはならない。頑張らないと」

 まさに経営者の強弁であり、勝者の論理だ。

 グローバリズムは決して対岸の火事ではない。現代の労働環境は、結果をだせなければ容赦なく“使い捨てられる”状況にある。皮肉なことに、ファストファッションは低賃金で働く労働者の味方などではないのだ。

 錦織選手の活躍は称賛されるべきだろう。だがしかし、彼が受け取る“ボーナス”の影には、“貧困・過酷労働と大量消費の円環的搾取”という構図が存在することを忘れてはならない。
(梶田陽介)

最終更新:2015.01.19 05:52

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