東京五輪で一掃? 「エロ本」消滅危機の中、80年代エロ本が生んだ濃密なアングラカルチャーを懐かしむ

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 しかし、かつてのエロ本には、濃密な「カルチャー」が息づいていた。「おたく」という言葉の創始者である中森明夫、後に『危ない薬』(データハウス)を上梓した青山正明、伝説的なジャズミュージシャン阿部薫の妻にして作家の鈴木いづみ、『物語消費論――「ビックリマン」の神話学』(新曜社)などの論評で時代を鋭く捉えた批評家の大塚英志……。「エロ本」はこういった人材を多く輩出している。だが、どうして「エロ本黄金時代」のエロ本は世の中の最先端を捉えることができたのか?

 それは、「エロさえ押さえておけば読み物はなにを載せてもいい」という、現在では考えられない自由過ぎる価値観が80年代のエロ本には息づいていたからである。その先便をつけた出版社の一つが白夜書房だった。同社の編集者たちは「エロ本なんてドカタと変態が読むものだ」と言われ、わざと低俗な誌面をつくっていた業界の常識に疑問を投げかけた。そして、赤瀬川原平、荒木経惟といったサブカルチャー色の強いラインナップを取り揃えて「ウィークエンドスーパー」「写真時代」「ビリー」といった雑誌を次々と生み出していく。同社の目論みは当たり、これらの雑誌は大学生などからも支持された。

 彼らがエロ本業界の慣例を崩した裏にはどんな考えがあったのか。現在、白夜書房の系列会社コアマガジンにて代表取締役社長を務めている中沢慎一氏は、前掲『エロ本黄金時代』でこう語っている。

〈ただ単に女の裸並べて売れればイイなんて本は作りたくないじゃん? 他の部分で、ライターの優秀な人見つけて、面白い文章で本が売れたらイイなあと思うよな。いい原稿が載れば雑誌にパワーが出るから、より多くの人にアピール出来るだろうし〉
〈俺はさあ、ある部分をキッチリ押さえておけば、全編エロじゃなくてもいいんじゃないかと思ったんだよ。エロ本とはいえ雑誌なんだから、雑誌における遊びの部分というか、幅があった方がいいんじゃないかと。俺は売れればいいと思ってたから、押さえるところを押さえていれば、すべて読者が歓ぶものばかりじゃなくていいんじゃないか、売れるんじゃないか?〉

 こういった、エロ本でありながらも「活字」にこだわる姿勢は、ある伝説的な雑誌につながっていく。1983年に創刊し2013年まで続いた「ビデオ・ザ・ワールド」だ。この雑誌はアダルトビデオに「批評」を持ち込んだ。メーカーとのしがらみをものともせず、「やめて田舎へ帰れ!」と誌面上で罵倒するなど、徹底して辛口の批評を掲載し続け一時代を築くことになる。

「ビデオ・ザ・ワールド」には、優秀なライターたちがどんどん集まった。藤木TDC、沢木毅彦、木村聡、そして、同誌の連載をまとめた『AV女優』(文藝春秋)を大ヒットさせ「アダルト業界のドキュメンタリー」というジャンルを確立させた永沢光雄……。

 そんななかでも、「ビデオ・ザ・ワールド」でメインライターの一角として大きな役割を担ったのが、奥出哲雄であった。本橋信宏は奥出哲雄に関し、『エロ本黄金時代』のなかで「エロ本にひとつの時代を作った奥出哲雄という人物。伝説の人だよね。エロ本でもしっかり文章を書いていいんだ、と思わされた人です」とまで語っている。

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