村上春樹「侵略は事実、謝るべき」発言はポーズじゃない! 初期作品にも東アジアへの罪の意識

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 この「最初の短篇」である『中国行きのスロウ・ボート』は、主人公がこれまでの人生で出会った中国人3人について回想する物語だ。登場する2人目の中国人、主人公である「僕」が大学時代にアルバイト先の出版社の小さな倉庫で知り合った、日本で生まれ育った中国人女子大生と僕は、ある日デートでディスコに行き楽しい時間を過ごす。門限のあるその女性を、時間に間に合うように新宿から山手線に乗せ、最初のデートに手ごたえを感じた僕だったが、しばらくして、間違えて逆周りの山手線に乗せてしまったことに気づく。結果的に彼女を悲しませてしまうのだが、この、いいことをしようとしたのに、最終的には中国人を騙してしまった、という僕の罪というのは、満州国建国や戦時中日本の中国大陸侵略を、村上的に解釈し作品の一部として甦らせたものと考えることができる。これは藤井の言う、「日本の父たちの戦時体験を」「原罪として継承」したという一つの例になるだろう。

 つまり先述の海外でのスピーチや、「村上さんのところ」での政治的発言も、ノーベル文学賞を意識したわけでも何でもなく(事実、村上は毎年ノーベル賞の時期になると騒がれることについて、「正直なところ、わりに迷惑です」と同ウェブ上で語っている)、村上が元来取り組み続けてきたことの延長上にある、「デビュー以来、持続する歴史意識を反映した発言」というわけなのだ。

 最後に村上の国内での最近の発言を引用しよう。先ほどの評論を書いた小山氏が村上にインタビューし共同通信が配信した記事で、村上は最近の日中韓関係について、以下のように語っている。

「歴史認識の問題はすごく大事なことで、ちゃんと謝ることが大切だと僕は思う。相手国が『すっきりしたわけじゃないけれど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう』と言うまで謝るしかないんじゃないかな。謝ることは恥ずかしいことではありません。細かい事実はともかく、他国に侵略したという大筋は事実なんだから」

「今、東アジアには大きな地殻変動が起きています。日本が経済大国で、中国も韓国も途上国という時には、その関係の中でいろんな問題が抑え込まれていました。ところが中国、韓国の国力が上がって、その構造が崩れ、封印されていた問題が噴き出してきている。相対的に力が低下してきた日本には自信喪失みたいなものがあって、なかなかそういう展開を率直に受け入れることができない」
(「壁と闘う人々へ 村上春樹さん、時代と歴史と物語を語る」 15年4月 共同通信配信)

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