中年男性200人を10年間にわたって定点観測してみたら…浮かび上がる男たちの怯え

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 介護疲れで出勤途中の電車で倒れ、パニック障害を発症したメーカー勤務の会社員は、「リストラの対象にされかねない」と介護休暇を取得するのをためらった挙げ句、数年に渡って心の病を抱え続けている。

 40代前半の、機械部品製造会社に勤務する会社員の母親(73)は認知症を発症、近所のスーパーで万引きをし、なじみの食堂で無銭飲食をし、深夜徘徊するようになった。症状は進行し、介護する息子を「あんた誰?」と認識できなくなる。そんなあるとき、「このやろう、もうお前なんか死んじまえ」と息子は母親を殴ってしまう。騒ぎを聞きつけた隣人の目が恐ろしくなり、常用していた睡眠薬と母親が処方されていた分を合わせて60錠以上を焼酎で一気に飲み干し、病院のベッドの上で目を覚ますという自殺未遂を起こす。

 どのケースも、仕事をしながら介護もこなす、という現実的にはかなり困難を伴う大役を、社会が期待するままに背負い込み、状況を悪化させている。法的に不備な問題も輪をかけ、社会がハッパをかける割に職場の理解は得られないという、ダブルスタンダードに苦しめられている。

 介護とともに実感するのは、自身の「老い」であろう。昔から男性の劣化は「歯、目、魔羅」の順と言われているが40も過ぎるとどれか一つはたいてい当てはまる。

 特に近年、男性更年期の存在が明らかになると「アンチエイジング」の掛け声とともに、薄毛対策やED治療など、製薬会社を中心に盛んにメッセージやキャンペーンが聞かれるようになった。ところがこれに飛びついて思わぬ「副作用」に悩まされる結果になった人もいる。

 印刷会社を経営する40代後半の社長は、印刷業のIT化のあおりを受け業績の悪化する会社の経営に奔走、心労が重なり心身に不調をきたしていた。病院で検査すると男性ホルモンがかなり減少していることが分かった。そこでテストステロンを筋肉注射する治療を受け始める。結果、鬱症状や疲労感、集中力の低下はかなり改善されたが、改善されたのはそれだけではなかった。それは男性機能の復活である。それが嬉しく、仕事への意欲も高まり、今度はED治療薬の処方も依頼した。かくして、効果はテキメンだった。かといって長年ご無沙汰の妻と「そういう事」は出来ず、元気な下半身が「もったいない」という想いを溜め込む。

「MOTTAINAI」という日本語に感銘し、ノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさんが思い描く「もったいなさ」とはかなり趣が異なるが、結局この御仁は自分の半分の年齢の若い女性と浮気をする。「男性力アップ」「40代からの肉体改造」などと煽る雑誌記事に目を配り、関連書籍を何冊も買う。それだけ世に需要があるのなら、自分だって負けてはいられないという気持ちだったという。

 ところがあっけなく浮気は妻にバレ、妻子は家を出ていき、しばらくして妻の欄だけ記入済みの離婚届が郵送されてきた。すっかり憔悴した男の顔にはしわやしみが目立ち、頭頂部は薄くなり、かなり老け込んでしまった。「老いていくことがとても怖かった」と振り返る。

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