沖縄県知事選直前インタビュー

宮台真司が語る沖縄の生きる道「問題は基地反対の先にある」

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──たしかに、内地の〈経済保守〉にひっぱられるかたちで、沖縄が基地を甘んじて受け入れてきたという側面はあると思います。ですが、そこでひとつ疑問が生じます。なぜ沖縄はこれまで内地の〈経済保守〉に対抗しきれなかったのでしょうか?

宮台 それを理解するためには、今からいう前提を知っておく必要がある。内地と違い、血縁主義による分厚い家族・親族ネットワークがある沖縄では、顔見知り範囲の〈社交〉はあっても、国民共同体みたいに見ず知らずの範囲に及ぶ〈社会〉の観念がない。〈社交〉を越える〈社会〉の観念がないと、広域をガバナンスできません。たとえば、基地返還が毎度カネで片付けられるのは、血縁に軍用地地主がいたり交付金による土木事業に関わる者がいて、声を挙げづらいからです。基地依存経済だからという単純な話じゃない。でも〈社会〉観念の不在は、古層まで遡ればどこでも同じです。〈見ず知らずからなる我々〉の意識は、19世紀に戦争への共同防衛の意識から欧州に国民意識が醸成されるまで、歴史上ありませんでした。日本も19世紀末に天皇を使って〈見ず知らずからなる我々〉の意識をやっと醸成した。見ず知らずの人を名指して敵だ味方だといきり立つネトウヨのような馬鹿は、19世紀になるまで世界のどこにも存在しなかったわけです。ところが沖縄では、聖性を水平に観念するニライカナイ信仰が象徴するように、古層が残り、〈社交〉の外に〈社会〉を中抜きして直接〈聖なる世界〉が拡がっている。実際、離島を含めた琉球王国の範域を覆う〈我々意識〉は、今に至るまで存在しません。ちなみに〈見ず知らずからなる我々〉を背景とした国民国家(主権国家)は2段階で成立しました。第1段階は17世紀前半の30年戦争。新教と旧教の諸侯間のこの宗教戦争を、各諸侯に信仰の自由があるとする形で手打ちしたのがウェストファリア条約です。本来は「神が人を選ぶ」以上、「人が神を選ぶ」とする手打ちは、敢えてする虚構です。実際当初は、主権sovereigntyの概念の元になるsovereignも「諸侯」を意味しました。第2段階は、フランス革命後の王朝弱体化を背景とした「皆で武器をとらないと掠奪される」との危機感。そこから〈諸侯にとって代わる我々=見ず知らずの我々〉という国民意識が生まれたのです。〈社交〉と区別される〈社会〉の誕生です。

──つまり、沖縄には〈社会〉がないが、内地の人々が想定している〈社会〉もそもそもは虚構から成立したものだった、と。そしてその虚構を信じることで、内地の私たちは日常を生きることができていた。では、沖縄のように〈社会〉ではなく〈社交〉のうちに生きるということは、内地とどのような違いがあるのでしょうか?

宮台 ひとつは、沖縄には〈社会〉の概念がないので広域ガバナンスがなかなかできません。ゆえに、基地返還の実現には〈社会〉を持たずに広域ガバナンスをする戦略を編み出す必要があります。しかし、柳田國男がそうでしたが、僕には〈社会〉の虚構を信じない沖縄が魅力的に見える。昨今ではグローバル化で中間層が分解した結果、どこでも国民意識が風前の灯になり、〈感情の劣化〉を被った全体主義者が出てきています。国境を否定するイスラム国に先進国の若者が大挙参加する背景にも、中間層の分解による殺伐化と、国民意識の崩壊がある。〈見ず知らずからなる我々〉の虚構は意外に寿命が短く、ガバナンスができなくなって各国は混乱しているというわけです。つまり〈社会〉を欠くがゆえの広域ガバナンスの困難は、沖縄だけの問題じゃない。グローバル化を含めて副作用だらけの〈社会〉の虚構に依存することなく、広域ガバナンスを達成するという課題に、沖縄がどこよりも早く直面しているということなんです。だからこそ、翁長氏の「オール沖縄」運動は、ここで紹介してきたような問題を沖縄の人たちが共有する、類例のないチャンスだと思う。チャンスを利用して、沖縄が抱える構造的問題を解決する具体策につなげてほしいんです。

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