あのワープア芥川賞作家が、真夜中の天下一品で…!

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 人は時に、どうにもあがなうことのできない“こってり”への誘惑にからめとられることがある。文中にもあるように「辛いことがあった時」や、あるいはムシャクシャすることがあった時、なんだか頭がすっきりしない時……等々。ようするに、「パーッと行きたい」時に、その誘惑は突如現れる。そして、一度その考えが萌芽すると、振り払うことはかなり困難だと言っていい。そして、そのこってり欲を満たすための食べ物は人それぞれだが、ラーメンであれば確かに手っ取り早いしリーズナブルだ。

〈もちろん、ラーメンだけでもいいのだが、わたしは天下一品に行くと必ずから揚げ定食を頼んでしまう。そしていつも満腹になりすぎてしまい、フラフラになりながら家路につく。〉

「ラーメンだけじゃなかったのか!」と思わず突っ込んでしまったが、わかる。

 私事で恐縮だが、いまだにラーメン屋で「大盛り無料です」と言われると、条件反射で「お願いします」と答えてしまう。普通の食事としてならまだ大丈夫だが、酒を飲んだ後だったりすると、やはりちょっとヘヴィすぎる(歳も歳だし)。しかし、食べ物を残すのは主義に反するため無理やり食べ、結果、盛大に腹を壊す、ということを度々やってしまう。“こってり”や“大盛り”といった過剰さは、人の感覚を狂わせる。「どうせ食べるなら、いっそのこと……」と、より過剰な方へ、過剰な方へと導かれるのだ。

 閑話休題。

 そして、こってりラーメン、からあげ、ごはんからなる「からあげ定食」を食べた津村は、「またやってしまった」と反省することになるのだが、しかし、何度満腹地獄を経験しても、人は懲りない。

〈ただ、ごくたまに、さわやかな満腹という状態になる。わたしはその、疲労と腹の空き具合と体調が高次に融合する瞬間をひたすら待っている。〉

 もはやこのへんは、酒飲みが何度二日酔いで死にそうになっても、夜にはケロっと忘れてまた飲んでいる、あの感覚に近い。あー、わかるなぁ。

 以前、東海林さだおは「なにかのはずみで、ふと食べたくなると、もう矢も盾もたまらぬ」という気持ちにさせる食べ物としてラーメンを挙げていたが(『ラーメン大好き!!』東海林さだお・編/新潮文庫)、ラーメンはその言葉の響きだけで、そうした気持ちにさせるものの代表格ではないだろうか。現に、こうしてラーメン、ラーメンと書き連ねている今(深夜)、頭のなかはラーメンの湯気でいっぱいになりつつある。

 この時間のラーメン、太るんだよなぁ……。

 ラーメンをすする音だったはずの「ずるずる」は、いつしか涎が垂れる音になっていたのであった。
 
 悩ましい本である。
(辻本力)

最終更新:2017.12.07 07:38

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ずるずる、ラーメン (おいしい文藝)

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