米在住の坂本龍一が「トランプの時代」にアートの力で対抗する必要を訴え! 日本にもガガやメリルが必要だ

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ホワイトハウス公式サイトトップページより


 今月5日(日本時間6日)に行われたアメリカ最大のイベント「スーパーボウル」。今回のハーフタイムショーを務めたレディー・ガガのパフォーマンスが大変な反響を巻き起こしている。

 ライブの冒頭、彼女は反トランプデモでも頻繁に歌われているウディ・ガスリーの「This Land Is Your Land」から「This land is your land, this land is my land/This land was made for you and me(この国は君のものでもあり、私のものでもある/みんなのためにつくられた国なんだ)」の一節を歌いあげ、その後、「忠誠の誓い」の一節である「One Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all(神の下で、全ての人に平等と正義が約束された、分かつことのできない国)」を引用してからヒットソングメドレーを展開した。

 ドナルド・トランプが大統領選に勝利した直後、「Love trumps hate(愛は憎しみに勝る)」のプラカードを掲げて抗議を行うなど、レディー・ガガは多様性をアメリカから奪い去ろうとするトランプの姿勢に反対の意を表明し続けてきた。今回、全米が注目するスーパーボウルのハーフタイムショーという場で彼女が表現したものは、まさしくそれらの活動と地続きのもので、イスラム圏7カ国からの入国を禁じる大統領令が出るなど混乱の渦中にあるアメリカ国民の心を勇気づけた。

 人々が混乱し、打ちひしがれているときにこそ、文化や芸術は大きな力をもつ。「女性自身」(光文社)2017年2月7日号に掲載された坂本龍一と吉永小百合の対談で、坂本は「いまこそアートが必要だ」と語っている。

「僕はアメリカに住んでいて、アメリカ市民ではないので選挙権はないですが、やはり、トランプ氏が大統領選挙で当選したときには本当にショックで。周りにはショックで泣いている人もたくさんいましたけれど、翌日には「こんな時代だから、今までになく音楽やアートが必要だ」と、僕は強く思ったし、トランプ以前とトランプの時代では、アメリカにおける音楽やアートの存在の仕方が、たぶん違ってくるような気がします」

 もちろん、それはアメリカだけの話ではない。政権与党はやりたい放題の限りを尽くし、日増しに軍靴の音が大きくなりつつある日本もまったく同じ状況なのは言うまでもない。坂本は前掲の対談でこのようにも語っている。

「僕は、緊張が高まっている今だからこそ小説や物語、映画や音楽やアートに力があるような気がします。
 リアルな世界で緊張と緊張がぶつかり合っているときって、みんな音楽のことなんか忘れていると思うんです。
 でも、そこに「ポロリン」という音が入ってきた瞬間に「ああ、忘れていた」と誰もが感じる。
(中略)
 忘れていたことを思いださせるのは音楽やアート、映画や小説の役割ではないでしょうか」

 また、文化や芸術にはこんな力もあると坂本は指摘する。

「声高に主張しても、違う考えを持っている人の心を開くことはできませんから。跳ね返ってくるだけで。固く閉じている心を開くのは、アートや音楽、映画や物語の強さだと思います。だから、こういうときこそ、より必要だと思います」

 しかし、昨年夏に巻き起こった「フジロックに政治を持ち込むな」「音楽に政治を持ち込むな」の炎上騒動が象徴するように、この国ではアートがもつ力を否定するような動きがある。ただでさえ、政権への忖度などから報道は自由を失いつつある状況なのに、炭鉱のカナリアとなるべき芸術家たちですら口をつむがざるを得なくなるような状況が、この国では確実につくられつつあるのだ。

 一方、先ほどのレディー・ガガがそうであったように、アメリカでは文化や芸術に関わる者が社会的なメッセージを発信しても、それが問題となることはないし、ましてや「芸能人ごときが偉そうに政治を語るな」などという馬鹿げた批判を受けることはあり得ない。先月行われた、第74回ゴールデン・グローブ賞でメリル・ストリープがトランプ批判のスピーチを行い大きな賞讃の声を受けたのは記憶に新しいが、現在の日本ではこういうことは起こりにくい。

 松尾貴史はそういった状況を危惧し、連載している新聞のコラムでこのように綴っていた。

〈トランプなんて大変な人物が大統領になるなんてアメリカは大変だ、などと言っている人があるが、私は日本のほうが深刻なのではないかと感じている。もちろん、日本のトランプの悪影響は言うに及ばずではあるけれども、それより日本には、メリル・ストリープがいない。彼女のような力強い発言を、権力者に対してぶつけることができるスターがいない。よしんばいたとしても、黙殺されてしまうことが多い。そういう意味で、アメリカのアーティストにはこういう機会が与えられることは羨ましいところである。
 彼女のみならず、ロバート・デ・ニーロやジョージ・クルーニー、リチャード・ギアなど、自身の信条に基づく政治的な発言をする俳優は多い。彼らは、現役で大作の主演を張る人たちだ。アメリカだけではなく、おそらくほとんどの民主国家の役者は皆そうなのだろう。そういう意味では、日本のスターたちに奮起して「本音」を表明してもらいたいところだが、なかなかにいろいろなしがらみがあって窮屈な状態に陥っているのが現状だろう。
 日本のスターたちに奮起して「本音」を表明してもらいたいところだが、なかなかにいろいろなしがらみがあって窮屈な状態に陥っているのが現状だろう。
 芸能人が政治的な発言をすることは、「スタイリッシュではない」と思われているこの風潮は、解消していかなければならないのではないか、と感じる。発言力を与えられているからこそ、公益に努めるべきなのではないだろうか。こんな浮草稼業で社会から認知されているこのありがたさを考えても、役者の一つの使命でもあると思うのだが〉(17年1月15日付毎日新聞)

 もちろん、いまの日本にも勇気ある表現を行っているアーティストやタレントはわずかながら存在する。しかし、すぐに「芸能人のくせに」「タレントがえらそうなことをいうな」という批判が殺到し、ほとんどの人が口をつぐんでしなうのが現実だ。ましてや、スーパーボウルのような国民的なイベントでレディー・ガガのようなメッセージを発信するのなんて、ありえない話だろう。

 政権与党や官邸、そして安倍応援団のネトウヨたちがマスコミに対して有形無形の圧力をかける事態は、残念ながら今後も変わらないだろう。だからこそ、坂本龍一が指摘しているように、音楽・映画・小説・絵画などの力はより大きくなっていく。日本でも、レディー・ガガやメリル・ストリープのように骨のある表現を貫くアーティストが一人でも増えていくことを願う。
(新田 樹)

最終更新:2017.11.16 04:31

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