窪塚洋介がスコセッシ映画の舞台挨拶で政権批判!「この国のみっともない政府は自国の弱者には目も向けない」

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『沈黙-サイレンス-』HPより


 遠藤周作の代表作『沈黙』を『タクシードライバー』『グッドフェローズ』などの巨匠マーティン・スコセッシ監督が映画化した『沈黙-サイレンス-』が今月21日に日本でも公開された。

 冷徹に肉体的・精神的拷問を指示する筑後守を演じたイッセー尾形を筆頭に、窪塚洋介、浅野忠信、塚本晋也、小松菜奈ら日本人キャストの演技は海外メディアでも高く評価されている。

 そんな『沈黙-サイレンス-』の初日舞台挨拶で役者陣から語られた言葉が、現在話題を呼んでいる。

『沈黙-サイレンス-』は、キリスト教信者へのひどい弾圧があった1600年代の長崎を舞台に、隠れキリシタンたちとポルトガル人司祭がむごい迫害を受ける物語を通じ、信教や人間の心の弱さについて観る者に考えさせる。この物語は17世紀が舞台だが、弱い者たちを権力者が痛めつけるその姿は、かたちこそ違えど現在の日本でも共通して起きていることでもある。

 そんなことを踏まえ、処刑の恐怖に晒され続けることで常に信教が揺らいでしまう隠れキリシタンのキチジロー役を好演した窪塚洋介は、初日舞台挨拶の壇上でこう語った。

「2011年の3月11日に東北大震災(東日本大震災)が起こってたくさんの弱者が生まれました。なのに、この国のみっともない政府の連中は他の国には1兆、2兆、3兆円とオレたちの血と汗の税金を使って、ばらまき倒して自分の国の弱者には目も向けないじゃないですか」(2017年1月21日付デイリースポーツ)

 この作品に現在との共通点を見出したのは窪塚だけではない。太平洋戦争末期のフィリピン戦線で日本人兵士が置かれた極限状態を描いた『野火』で監督と主演を務めた塚本晋也は、その作品のことを引きながら同じ舞台上でこのように語っている。

「僕が作った『野火』とテーマが似ている。原作を読んでも、その考えは当たっていた。遠藤周作さんは「沈黙」という小説で、権力によって信仰が押しつぶされる様を描いています。他にも「女の一生」という作品では1部は宗教弾圧、2部は戦争によって自由が押しつぶされるところを描いています。歴史を見ると人々の自由を権力が押しつぶすということを、いつも繰り返している事がわかります。今、日本は70年戦争を行っていない。喜ばしいことではありますが、ウカウカしていられない警告のようなものを感じていただきたい」(17年1月21日付ウェブサイト「cinefil」)

 マーティン・スコセッシ監督の映画という、映画人ならば誰もが憧れる作品の初日舞台挨拶という場で、窪塚洋介や塚本晋也は敢えて現在の為政者たちの振る舞いに対して批判的な言葉を報道陣たちに投げかけた。

 それは、権力者による弱者への抑圧を描いた『沈黙-サイレンス-』が図らずも現状とリンクしている作品だからというのもあるし、彼らがここ数年一貫して現在の政権に対して疑問の声を投げかけ続けてきた映画人だからというのもある。

 前述の通り、塚本晋也は15年に大岡昇平の原作小説を映画化した『野火』を制作した。そこでは、極度の疲労と飢餓で徹底的に痛めつけられ、ついには人肉食の禁忌すら侵してしまう日本兵の姿が描きだされていた。しかし、彼はなぜ『野火』を映画にしようと思ったのか。『塚本晋也『野火』全記録』(洋泉社)のなかで彼はこのように語っている。

「そのとき戦争を描こうと思ったのは、どうもその頃になると「時局によっては、戦争もやむなし」みたいな発言が公の場でぽつぽつ出てきたからなんですね。人間の本能として「戦争がしたい」と思う人たちがいても、そのころまでは戦争を体の痛みとしてハッキリ知ってらっしゃる戦争体験者の方たちが抑止力となっていた。ところが、その方たちがだんだんと亡くなり始めて、それを見計らって「いまなら言えるんじゃない?」みたいな雰囲気が漂い始めた」

『野火』の映画化は塚本がずっと前から構想していた企画だった。この小説に特別な思いを抱いていた彼は、しかるべき予算とスター俳優のもと映画化し、より多くの人に届けられる作品になるようタイミングを待っていたのだが、どんどん保守化していく社会状況が『野火』という映画の制作そのものを危うくさせていく。前掲書で塚本はこのように語っている。

「プロデューサーに別の企画を出したついでに「ところで『野火』なんてのは……」とダメもとで言ってみたりすると、金額云々ではなく「ないです」とハッキリ言われるようになりました。10年前や15年前にはお金の問題だけがあって、内容については誰も文句は言わなかった。でも、いまは「日本兵がボロボロになる映画」というだけで、不思議と避けられたり、タブーに触れるような雰囲気がある。「これはヤバいんじゃないか……?」という世の中に対する危惧がさらに募りました」

 その結果、低予算のうえ、塚本が主演、監督、脚本、編集、撮影、製作を行うという過酷な体制で『野火』はつくられることになるのだが、人々がどんどん戦争への恐れを失いつつある状況を危惧した塚本は、大変な作業になることは承知で『野火』の制作に入っていく。結果的にこの作品は「キネマ旬報」(キネマ旬報社)の年間ベストテン・日本映画部門で2位に選出されるなど高い評価を受けることになる。

『沈黙-サイレンス-』のなかで塚本は、体重を40キロ台にまで落とし栄養士から「君、これはギリギリ飛行だよ」と言われるほどの役作りを行ったうえ(「映画秘宝」17年3月号/洋泉社)、波打ち際で磔になり拷問を受けるという一歩間違えれば大事故にもつながりかねない過酷なシーンに臨んでいるが、それほどまでに体を張ったのは、『沈黙-サイレンス-』のなかに、『野火』にも通じる、映画人として自分が伝えるべきものがあると感じたからだろう。

 一方の窪塚洋介も塚本同様に現在の政権に対し疑問を呈し続けてきた人だ。窪塚というと『凶気の桜』の印象もあり右翼的なイメージもある人だが、ここ数年は一貫して反原発・反戦のメッセージを発信し続けている。むしろ、ナショナリスティックな思想をもっているからこそ、現在の政治状況には黙っていられないということなのだろう。

 たとえば、昨年12月に発表された「ユーキャン新語・流行語大賞」のベストテンに「保育園落ちた日本死ね」が選ばれたことを発端にネットが炎上した際、彼がこのようなツイートを投稿しネトウヨから怒りを買った件は記憶に新しい。

〈「日本死ね」が流行語らしいけど、遅いだろ!?だってとっくに死んでんじゃん!笑 生きてるのは国民だけだよ。立ち上がれるのは生きてるやつだけ。日本政府なんてとっくに死んでただろぅ?今なんか一目瞭然でこの国の為の政府じゃないじゃん!て説明してる切なさよww〉(改行は引用者の判断で改めた)

 彼のこういった姿勢は一貫しているもので、14年の12月にはツイッター上でこのようにも語っていた。

〈街で自民党いるとイラつくw もし自民党が勝って、五輪後に向けて戦争まっしぐらになって、魂丸ごと散々叩き売っといて、また「家族を守る」「この国を、故郷を守る、ブレない」とか言い出したら、殺意に変わる自信あるわ。笑〉(改行は引用者の判断で改めた)

 窪塚の社会的な主張はツイッター上だけで行われるものではない。ご存知の通り、彼は卍LINE名義でレゲエ歌手としてもキャリアを重ねているが、11年4月には東日本大震災を受けて、反原発を訴える「日本のうた」という楽曲を発表したりもしている。

〈原発お疲れこれで絶交 A to the Zクリーンなのセット エネルギーリセットで倒れるゼットン 価値観根こそぎアップグレード〉
〈原発にぶら下がった結果今 ありえんような世界が現れた俺ら 人間無限に欲望を追うの〉
〈昨日までの生活嘘の様 目の前の現実荒れ模様 政府もメディアも糞の様 三度目の最悪、放射能〉

 マーティン・スコセッシという巨匠の映画作品の舞台挨拶で、堂々と勇気ある発言を行った2人を讃えたいし、今後も良識ある映画人として我々を勇気づけてくれることを期待せずにはいられない。
(新田 樹)

最終更新:2017.11.15 06:29

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