春香クリスティーンらが経産省の「核のゴミ処分=原発再稼動」をPR! 復活する原発ムラ広告に群がるタレント達

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「産経ニュース」の座談会に参加した春香クリスティーン(「春香クリスティーン オフィシャルブログPowered by Ameba」より)


 先日、産経新聞のウェブサイト「産経ニュース」が、「高レベル放射性廃棄物の最終処分」なるシリーズ記事を5本連続で出したことが、一部で話題になっている。大学教授や社会学者、タレントらが、座談会あるいは対談やインタビュー形式にて、原発の使用済み核燃料等による放射性廃棄物=“核のゴミ”を地下深部に埋める「地層処分」について考える、というものだ。

 たとえば第3回では、タレントの春香クリスティーン、哲学者の萱野稔人氏、社会学者の開沼博氏が「座談会」を行っている。こんな感じだ。

〈春香 スウェーデンとフィンランドでは、20年以上かけてようやく処分地選定に至りました。この問題は、解決までにとても時間がかかる問題です。だからこそ若い世代も今から考えていかなければならないですよね。
 萱野 一人ひとりが当事者意識を持ち、「自分だったらどうするか」という問いをみんなで共有することが大事です。しかも、具体的な候補地が出てこないうちから共有し、考えていくことが大事だと思います。今こそ、国民的議論を起こし、総論において合意を形成していくべき段階でしょう。
 開沼 この問題は福祉や増税の問題と実はよく似ています。前の世代がやってきたことの負の遺産が次の世代に押し付けられてきた。(略)
 春香 確かに、今の世代にしっかり取り組んでもらわないと、次の世代に問題が先送られることになります。誰かが解決するだろうと目をそらすのは、自分の子供や孫のためにも絶対にしてはならないことだと思います。〉

 高レベル放射性廃棄物の問題は先送りしてはならない。「国民的議論」が必要だ。一読する限りでは、もっともなことを語り合っているように見える。

 他の記事も同様だ。第1回は「iRONNA(いろんな)」の特別編集長として活躍中の現役女子大生・山本みずき氏と、元総務相の増田寛也氏、科学作家の竹内薫氏の座談会。第2回は、元テレビキャスターの松本真由美氏による実業家・堀義人氏への「インタビュー」。第4回は、東京都市大学の「有志学生記者」が、経産省・資源エネルギー庁などが主催するシンポジウムをレポートする企画。そして第5回には再び山本みずき氏が登場して北海道・幌延深地層研究センター視察するレポート。主張はほとんど同じで、とにかく核のゴミは重要な課題だから、国民が自分ごととして考える必要があると、口をそろえて語っている。

 しかし、実はこれ、産経が突然、核のゴミ問題に目覚めてキャンペーン記事を始めたわけではない。広告主から金を受け取って掲載した“パブ記事”なのである。

 広告主とは、原子力発電環境整備機構(NUMO)。経産省所管の認可法人で、国と一体的な関係にある原子力関連団体だ。その事業はずばり、「高レベル放射性廃棄物等の最終処分(地層処分)」(公式サイトより)。

 本サイトが確認したところ、この5回にわたるシリーズ記事のうち4回は、同時に産経系の紙メディアでも展開されていた。NUMO公式サイトの「10月の『高レベル放射性廃棄物の最終処分 国民対話月間』に合わせて、地層処分に関する様々な広報を実施しました」というページには、ご丁寧にもパブの“ターゲット”まで記載されている。以下に抜粋すると……。

・1回目【産経新聞(一般層)】10月10日掲載
・2回目【Business i(オピニオンリーダー層)】10月16日掲載
・3回目【SANKEI EXPRESS(次世代層)】10月18日掲載
・4回目【夕刊フジ(ビジネスマン層)】10月19日掲載
・5回目【産経ニュース(インターネットユーザー層)】10月19日掲載

 しかも、このパブ記事、一目見ただけでは、記事か広告かは見分けがつかないようになっている。ウェブサイトは、シリーズタイトルの「提供:NUMO」というクレジットと、他は左上にごくごく小さく「Sponsored」と記載されているだけ。紙メディアも、たとえば、春香らの“対談風”記事が掲載された10月19日発行の「夕刊フジ」には、メインタイトルの横には「特集」の文字があるのみで、パブを示す「広告」「PR」の文言は一切なかった。

 ようするに、NUMOは多様な層ごとに「座談会」や「インタビュー」「レポート」などの形式を用いつつ、あたかもメディア独自の記事のようにプロパガンダを展開していたのだ。

 しかし、このシリーズ広告が問題なのは、PR記事掲載をめぐるメディア倫理の欠如だけではない。このパブ記事が経産省と原子力ムラによる原発再稼働の地ならしとして展開されており、登場する芸能人、有識者たちがその片棒を担いでいるという事実だ。

 こういうと、このパブ記事の関係者たちはおそらく、「原発再稼働と核のゴミ問題はまったく別で、再稼働に加担しているわけではない」と反論するだろう。実際、問題のパブ記事の中でも、「(核のゴミは)既に存在している以上、その処分は今後の原発利用とは切り離して議論すべき問題です。」(第1回目の萱野氏発言)「原発再稼働と既に生じた核のごみをどう処分するかは、全く別の議論です」(第5回目の山本氏発言)と、必ずそのことが強調されている。

 しかし、彼らがどう言い繕おうが、この広告は明らかに原発再稼働と連動している。それは、高レベル放射性廃棄物の処分問題が突如、盛り上がり始めた経緯をふりかえれば明らかだ。

 そもそも核のゴミ問題は、長らく原子力業界の“アキレス腱”だった。NUMOは2002年から高レベル放射性廃棄物の受け入れ自治体を公募してきたが、現にその最初期の段階である文献調査すら今まで一度も行えていない。さらに3.11後の世論の逆風もあって、高レベル放射能廃棄物処分の取り組みはほとんど棚上げされていた。

 だが、12年に誕生した第2次安倍政権が原発再稼働の方針を打ち出したこと、そして、14年の東京都知事選で、細川護煕、小泉純一郎の元首相コンビがこの政策に真っ向から反対したことで、流れは大きく変わった。

 とくにポイントになったのは、脱原発を公約に掲げる細川元首相を全面支援した小泉元首相が、13年11月の会見で「原発を再稼働すれば(核の)ゴミが増えていく。処分場が見つからないなら出直した方がいい」などと主張したことだった。安倍政権の再稼働方針に勢いづいていた経産省はこの主張に真っ青になり、慌てて「核のゴミ」対策に乗り出したのだ。

 毎日新聞14年2月2日付の報道が、高レベル放射性廃棄物の処分をめぐる経産省の有識者会議の議論がこの小泉発言を機に「急加速した」ことを伝えている。

 毎日がスクープした経産省の内部文書によれば、前述の小泉発言後、有識者会議ではあらたに3つの施策が早急に取りまとめられていたという。その中には「対外秘」として「国が科学的観点から有望地を絞り込み」という項目があった。経産省エネルギー庁・放射性廃棄物等対策室の職員は「小泉発言以来、自民党から『早くなんとかしろ』と急かされており、困っている」と漏らしていたという。さらに、記事のなかには、このような経産省幹部のコメントが掲載されている。

「反原発への動きを抑えて都知事選をやり過ごすには、処分場選定を急ぐ姿勢を見せることが大切。実現可能性? あるわけない」

 そして、この動きは2014年、10年間にわたって原子力委員長を務めていた“原子力ムラのドン”近藤駿介東京大学名誉教授がNUMOの新理事長に就任して、一気に具体化していく。今年5月には、国が処分地選出の主体となって「科学的有望地」を指定するという新方針が打ち出され、7月には、東京電力、中部電力、九州電力の中堅幹部が新理事に送り込まれた。いずれも、原子力発電所の地元立地対策を担当していた面々だ。

 そしてこれと軌を一にするように、NUMOは新聞などへの広告出稿、全国でのシンポジウム開催など、受け入れの啓蒙活動を大々的に展開し始めたのだ。

 たとえば、新聞広告ではこの10月に、読売新聞、秋田魁新報、福島民報、北日本新聞、山梨日日新聞、中国新聞、高知新聞、南日本新聞などに15段ぶち抜きの広告を大々的に展開しているし、雑誌でも、「日経ビジネス」(日経BP)など、経済誌にパブ記事を頻繁に掲載されるようになっていた。そして、今回、取り上げた産経への大規模なパブ記事出稿──。

 もうおわかりだろう。高レベル放射性廃棄物の処分をめぐる啓蒙活動は、原発再稼働とは「別問題」どころか、完全にセットなのだ。しかも、経産省幹部の「実現可能性? あるわけない」というコメントからも明らかなように、彼らは現実に処分場選定の道筋をつくろうなどとは全く考えていない。重要なのは、原発再稼働のために処分場選定を真剣に考えているふりをすること。そのために、税金と電気料金を湯水のように使って、広告をばらまいているのだ。

 これはまさに、この国の官僚がずっとやってきた国民を騙す詐欺的行為の典型だろう。そして、産経とそのパブ記事に登場した芸能人、学者たちは、その詐欺的行為の片棒をかついでいるようなものではないか。

 しかも、このNUMOの広告バラマキにはもうひとつの狙いがある。それは、メディアや芸能人、文化人の“原子力ムラ”という利権共同体への取り込みだ。

『原発広告』などの著書で知られ、元博報堂社員として広告業界に精通する作家・本間龍氏が、こうした原子力ムラによる広告制作過程の内幕を「世界」(岩波書店)15年8月号で分析している。本間氏が着目するのは、「週刊新潮」(新潮社)に14年1月から4回にわたって掲載された電事連のパブ記事だ。起用されているのは、デーモン小暮や舞の海秀平らタレント、手嶋龍一氏に宮家邦彦氏という安倍政権と親しい評論家である。

〈新潮に掲載された広告はいずれも中面見開きの二頁、同誌で一番高価な紙面だ。(中略)
 初回のデーモン小暮氏が登場する広告は、まるでデーモン氏本人が語っているように見えるが、もちろん本文はコピーライターがリライトしており、本人の「肉声」ではない。これらの広告の左下隅に「提供 電事連」というテロップがついているが、これは「電事連がお金を出して作った広告です」という意味だ。もちろんデーモン氏には高額な出演料が支払われていて彼の発言を装って広告主たる電事連の主張が展開されている。(中略)
 ちなみに、この広告でいえば、新潮への掲載料はカラー見開きで約三五〇万円であり、そこに広告原稿の制作費、タレントの出演料が加わって、合計の制作費・掲載料はゆうに一〇〇〇万円を超えるだろう。その原資は全て電気料金であることは言うまでもない。〉

 こうした広告出稿は、原子力ムラにとっては単なる広報を超えた意味を持つ。広告料が喉から手がでるほど欲しい新聞・雑誌メディアからしてみれば、これほどおいしいクライアントはいない。そして、広告漬けになったメディアは、その後の広告引き上げを恐れて、原子力ムラに批判的な報道を控えるようになる。ようは、原子力ムラはカネにものを言わせて“原子力タブー”を生み出してきたのだ。

 タレントや評論家に対しても同様だ。数年前、イラストレーターのみうらじゅん氏が東京電力から4コマ漫画を依頼された際、提示された金額が「500万円よりもっと上」だったことを暴露して話題になったが、原発ムラは普通ならありえない法外なギャラを支払うことで、タレントや評論家の原発批判を封じ込み、原発応援団に取り込んできた。実際、福島原発事故前にはさまざまなタレント、評論家が原発の広告に出演し、原発推進の旗振り役をつとめていた。勝間和代、石原良純、長嶋一茂、大宮エリー、浅草キッド……。

 もっとも、福島原発事故を機に、こうした電力会社や原子力団体の広告バラマキも厳しい追及を受け、規模はかなり縮小されていた。タレントや評論家も事故の際に「原発の安全神話をつくりだしてきた共犯者」と厳しい糾弾を受けたため、原発広告への出演を控えるようになっていた。

 しかし、安倍政権による原発再稼働政策とともに、それが今、復活気配にあるのだ。

 日経広告研究所が毎年発行している『有力企業の広告宣伝費』の13年度版と14年度版を見比べると、例えば東京電力の宣伝広告費は16億9800万円から30億1000万円へと倍増。東北電力も36億7800万から40億5100万円と増加している。これは11年度以降初めての傾向だ。そして、業界団体である電事連や、本稿で取り上げているNUMOなど、関連団体の広告予算は公表されていないが、かなりの水準で上昇していると言われている。

 また、昨年には、博報堂とアサツーディ・ケイという大手広告代理店が日本原子力産業協会に加盟し、以前から加盟していた電通をふくめて、国内トップ3が原子力ムラのスクラムにがっちりと組み込まれる体制となった。

 そして、タレントや評論家に対しても、露骨な原発推進広告ではなく、出演を応諾しやすい電力全般や関連団体の広告、PRを依頼することで、取り込みを再開している。

 つまり、今回、NUMOのパブ記事にタレントや有識者を数多く起用した背景にも、原子力ムラのそうした意図があるのではないかと推察されるのだ。「原発の是非とは関係はない」というフレコミで「高レベル放射性廃棄物等の最終処分選定の議論を」と近づき、金漬けにして、最終的には原発応援団に仕立てていく、そういう作戦ではないのか。

 実際、その人選を見ると、朝日新聞で特定秘密保護法に反対しながら、読売新聞で原発再稼働を容認した春香クリスティーンなど、中立派を狙い撃ちしているように思える。

 いずれにしても、高レベル放射性廃棄物をどうするかという課題は、けっして、産経グループのメディアで彼らが一斉に喧伝するような「再稼働とは別の問題」ではない。少なくともNUMOは新たに生み出される“核のゴミ”を前提にしているはずだ。それは同時に、脱原発派を抑え込むという自民党の選挙対策、マスメディア対策を兼ねている。

 春香クリスティーンらこのパブ記事の出演者がそれでも、再稼働とは別だというなら、ぜひNUMOから金を貰っていない場所で議論してもらいたいものである。
(梶田陽介)

最終更新:2015.11.05 04:15

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