「大阪都構想」住民投票直前 特別企画

橋下徹の圧力で凍りつく在阪テレビ局の「都構想」報道…あの怪物を作り出したのは誰だ!?

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「橋下徹」はいかにして生まれたのか(「大阪都構想」公式ホームページより)


 直前に迫った「大阪都構想」、いや大阪市解体構想の住民投票。世論調査では「反対優勢」が伝えられているが、一方では、「反対意見の有権者の投票率がかなり低くなりそうなうえ、橋下徹市長の泣き落としがじわじわ効いており、フタを開けると逆転もありうる」(新聞記者)と、まだまだ予断を許さない状況だ。

 だが、結果がどうなろうと、はっきり指摘しておかねばならないことがある。それは、この間の凍り付いたマスコミ、とりわけテレビの姿だ。

 在阪テレビ各局はいちおうニュースとして取り上げ、投開票当日は選挙報道に準じる開票特番を4局が放送予定だ。しかし、ここまでの放送内容を見ると、ほとんどは「賛成派はこう言っている、反対派はこう言っている」と動向を並列に伝え、表面的な解説やコメントを加えるだけ。ワイドショーや情報バラエティの中にはそもそもこの問題を取り上げようとしない番組もあった。

 直接の原因は、今年2月、都構想批判の急先鋒である藤井聡京都大学大学院教授をめぐって、橋下徹大阪市長の意を受けた維新の党が在阪各局に送った2通の“圧力文書”。内容は〈藤井氏が、各メディアに出演することは、放送法四条における放送の中立・公平性に反する〉〈藤井氏が、維新の会、大阪都構想に中立なわけがなく、番組内で虚偽の中立宣言をした藤井氏を出演させている放送局の責任は重大〉と、放送法や中立公正の意味をまったく履き違えたものだったが、それが効いているのだという。

■テレビ局に蔓延する「面倒を避けたい」というムード

「藤井さんを出さない、とはさすがにならなかったですけど、彼が出る日には都構想の話は取り上げないようにしようという話は出ましたね。中立公正に反する恐れがあるから、ということなんですが……」

「圧力に屈せず、と言えば聞こえはいいですが、それは買いかぶりです。軽い情報バラエティ番組なんで、権力を批判するとか、都構想について突っ込んだ意見を戦わせるとか、最初から考えてない」

 こう語るのは、藤井をコメンテーターに起用する2つの在阪テレビ局の関係者である。どちらがどの局かは敢えて書かないが、両者の話からは大阪のテレビ制作現場に蔓延する、共通の空気が感じ取れる。それは「面倒ごとを避けたい」ということだ。

 橋下の圧力に屈して藤井を出演させないとなれば、曲がりなりにも報道機関として汚点を残すだろう。視聴者から抗議が殺到するかもしれない。さりとて、藤井が番組で都構想反対論を展開すれば、またしても橋下の逆鱗に触れ、さらなる口撃や圧力を受けるのは明らかだ。狂信的な「信者」もいる。ならば、予定通り起用はするが、その話をさせなければよい……と、そんな論理でテレビ局は逃げを打っているわけだ。

 2つの局だけではない。橋下と関係が近いといわれる別の局のチーフプロデューサー(CP)は、そう見られることを警戒してか、住民投票当日の開票特番に当初乗り気ではなかったという。その局関係者が自嘲気味に語る。

「CPは数カ月前まで『そこまでやらなくていいんじゃないの』なんて言ってたんですけど、他局がやるという情報が入ってきたんです。大阪の形が変わるかもしれないんだから、まあ当然ですよね。すると、『うちもやらないわけにはいかない』となって、今ではかなり熱を入れてます。結局、自社の判断ではなくて横並びなんですよね」

 同じ横並びなら、なぜ言論の自由に介入する文書を送りつけてきた維新の党に各局が足並み揃えて抗議しないのかという話だが──現に、大阪弁護士会の有志100人は同党に対し「マスメディアへの干渉について」と題した抗議文書を出している──そういう発想へは向かわず、とにかく自局にトラブルが及ぶことや他局に遅れを取ることだけを恐れる「事なかれ主義」が幅を利かす。週刊誌に書かれるまで文書の件を明らかにしなかったのは、その表れであろう。

 橋下はそうしたマスメディアの体質を知り抜いているのだろう。口撃すれば記者は黙る。「中立公正に反する」とクレームをつければ局は及び腰になる。繰り返していれば、やがて、自分の言い分を垂れ流すか、そうでなくても「話題そのものをスルーする」という形で批判の矛先を鈍らせていくということを。府知事になって7年あまり、彼はそうやってメディアをいいようにコントロールしてきたのだ。

■橋下に心酔するテレビ局社員、取り込まれる新聞記者

 橋下が、気に入らない記事や番組、それを報じた新聞社やテレビ局、ときには記者やコメンテーターの個人名まで挙げて激しく口撃することは、よく知られている。ツイッターや維新のネット番組、日々の囲み取材や記者会見、街頭演説や政治集会。あらゆるところで、ほとんど挨拶がわりにメディア批判、いや批判のレベルをはるかに超えた罵詈雑言をぶちまけ、支持者たちと一緒になって嘲笑している。

 とりわけ朝日新聞と毎日新聞を目の敵にして延々と口撃を続けてきたが、朝日は「週刊朝日」問題、「従軍慰安婦は必要だった」発言、堺市長選での維新の広告掲載などをめぐって次々と攻められたせいか、最近はほとんど迎合とも言える記事を頻繁に載せるようになっている。これには、大阪維新の会結成当時から現府知事の松井一郎に食い込み、近い関係にある記者が東京から府政担当に戻ったのが影響しているともいわれる。だとすれば、完全に取り込まれてしまっているわけだ。

 一方、会見ではほとんど質問せず、チクチクと批判記事を書く戦略の毎日新聞に対しては相当苛立っているのだろう、橋下は「便所の落書き」「便所紙そのもの」「狂ったように批判してくる」「廃刊しろ」と、自分のほうが「狂ったように」罵倒し続けている。さらに、住民投票が近づいてきた最近では、読売新聞の記事や毎日放送(MBS)の解説者にも噛みついていた。

 ただ、新聞と比べれば、テレビ局への批判はこれまで少なかった。テレビで名を売ったタレント弁護士という経歴から、ある種の仲間意識を持っているのか、あるいは、自分の弁舌を活かすには、まだまだ利用価値ありと見ているのか。新聞の単独インタビューにはほとんど応じないのに、テレビにはしょっちゅう出演し、前回記事で書いたようなCMも派手に流している。いずれにせよ、橋下はテレビに見出され、テレビを利用して「改革者」イメージを肥大させた、根っからの「テレビ政治家」なのである。

 それゆえ、テレビ局の側にも、積極的に共感や支持を口にする者が多いのだという。明らかに破綻している「都構想」について、「理論的には合っている」と評価する府政キャップ。日々行動を追いかけるうちに、「彼は口は悪いけど、よく勉強していてすごい」と心酔を隠さないディレクター。「批判ばかりではなく対案を出すべきだ」と橋下の言い分をなぞるように主張する若手記者。在阪各局の関係者を取材して回ると、そういう話がいくつも出てくる。

 ある局の報道関係者はこんなふうに分析する。

「テレビ局の社員というのは一般に、自分の能力で競争を勝ち抜いてきたという“勝ち組”意識が強いので、生活困窮者や社会的弱者に対して『自己責任だ』『努力が足りない』と切り捨てる橋下氏的な考えと、もともと共振性が高いんです。だから、彼の主張や言動に疑問を持ちにくく、『彼の言うのももっともだ』と説得されてしまうというのがまずある。
 そのうえ視聴率競争に追われていると、とりあえず数字が取れる橋下ネタはおいしいし、うまくいけば単独出演にも応じてくれる。だから嫌われたくない。記者個人としても会見で彼にやり込められるのは怖いし、ツイッターでクレームを付けられ、名前を晒されたりするのも避けたい。
 そうすると、できるだけ無難に、トラブルを起こさないように……という姿勢になっていきますよね。また、そうして求められたことだけを大過なくこなせる人間が局内で評価されるという組織の問題もある。『都構想っておかしくないか』『橋下のやり方ってどうなんや』みたいな議論なんて、局内ではまったくありません。本当に問題だと思っている人間なんて、ごく少数でしょう」

 テレビにとって、橋下は取材対象であると同時に、気脈を通じた「仲間」であり、コンテンツという「商品」でもあるわけだ。なるほど、これではまともな批判や論評など望むべくもない。

■反発恐れ、忖度する「戦前」のような空気

〈冒頭で「橋下さんはテレビが育てたモンスターだ」と言いましたが、橋下さんに対抗できる政治家やきちんと意見を言える人間を育てようとするなら、まずテレビメディアが変わらなければいけないと思っています。自戒を込めて言うと、あまりにも政治をショーとして取り上げ過ぎたために、いい悪いは別にして、こういう多弁で能弁で、世論に敏感で、次々とアドバルーンを上げられるようなキャラクターを生んでしまったんじゃないか、と〉
〈テレビは、橋下さんの言う「権力のチェック機構」としての部分を怠って、その日その日の上澄みをつかんでは投げるということを繰り返してきた。ならば、メディアの責任に立ち返って、どうして彼が世に出たのか、なぜこれだけ人気があり、ふわっとした民意に包まれているのかを考えるうえでも、伝え方、ニュースの取り上げ方を一から考え直さないといけない。このままでは、彼のステージがどこになっても、同じことの繰り返しなんじゃないかと今日強く思いました〉

 これは、朝日新聞社発行の「Journalism」2012年7月号に掲載された橋下番記者座談会で、朝日放送(ABC)のデスクが述べた“反省の弁”である。ここにまったく異論はない。だが、それから3年近く、テレビは果たして「メディアの責任に立ち返って」「伝え方、ニュースの取り上げ方を一から考え直」してきただろうか。とてもそうは見えない。

 むしろ、報道番組の枠に芸人やタレントを起用して「情報バラエティ」化を一層進め、目先の視聴率や話題性だけを追って深く考えない、視聴者にも考えさせない、そんな軽いニュースばかりを流し続けているではないか。都構想の住民投票直前になっても、「中立公正」を言い訳にして、その問題点や橋下の発言の矛盾に踏み込もうとしない。彼の主張を軸にしてバランスを取ろうとするから、最初から賛成派の土俵に乗ってしまい、市民が投票の判断材料にするための「真実」をまったく伝えきれていないのだ。

「何か一つのきっかけでこうなったわけじゃないと思うんです。みんな自分が与えられた目の前の仕事に一生懸命取り組んでいるつもり。その結果として、橋下氏のような権力側からも、世論の側からも反発を受けないように忖度するようになっていく。戦前の空気というのは、こんな感じだったんでしょうね」

 先にテレビ局の空気を分析した報道局関係者の言葉である。

 橋下徹という虚像と「都構想」というまやかしをここまで大きくし、延命させてきたのは、彼自身が備えた大衆の欲望を感知する力と恐るべき詭弁術、そして、その暴走を批判できないばかりか、積極的に手を貸してきたマスメディア、とりわけテレビの責任であることは間違いない(それでも不思議なことに、「信者」からは、メディアは橋下を攻撃する「敵」に見えるらしい)。

 今回の結果がどうなろうと、大阪市政を不毛な混乱に陥れ、市民を分断し、その将来を不安にさらしたメディアの責任は免れない。そして、仮に橋下が負けて公言する通り政界引退しても(なんだかんだで居座るだろうという見方が強いが)、このままではまた新たな虚像を作り出し、その権力の前にひれ伏す愚挙を繰り返すことになるだろう。
(安福 泉)

【リテラ「大阪都構想」住民投票直前特別企画はこちらから!→(第1回)(第2回)(第3回)】

最終更新:2015.05.16 11:44

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