ネット上の非難にアイドルたちは…朝井リョウが描くアイドルの本音

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
watanabemayu_01_141017.jpg
まゆゆインスタ裏アカ流出もヲタは好印象? 一方のさゆりんは…(渡辺麻友オフィシャルブログより)


「週刊文春」がスクープした乃木坂46・松村沙友理の不倫騒動に、AKB48・渡辺麻友のアイドル像を覆したインスタグラムの裏アカウント流出事件──いま、このふたつのアイドルによるスキャンダルが、ネット上で大きな注目を集めている。

 松村の場合は、無理な釈明が火に油を注ぎ「文春」によってネット上に“抱擁&路チュー”動画がアップされるという追撃を受け、「これはビッチ決定」「何を信じたらいいんだ」とファンは激しく動揺。一方、まゆゆのほうは「羽生くんぺろぺろ」「ケツから突っ込まれる羽生くん」などという“腐女子”らしいつぶやきが「好感度あがった」「裏アカ流出しても男との接触が出てこないのはさすが」と、概ねファンは安堵している様子だ。

 だが、もっとも多くの人にとって興味があるのは、いま、松村やまゆゆが、どんなふうにネットの反応を受け止めているのか、ということではないだろうか。いや、スキャンダルに見舞われなくても、恋愛禁止をはじめとして社会のルールとは違う世界に生きる“異教”たる彼女たちが、日頃どんな思いで“アイドル”として生きているのか、知りたい人は多いだろう。

 女性アイドルの本音とはどんなものなのか──その大いなる謎に迫っているのが、デビュー作『桐島、部活やめるってよ』(集英社)で一躍人気作家となった朝井リョウ。朝井は現在「別册文藝春秋」(文藝春秋)に連載中の小説「武道館」で、女性アイドルグループのメンバーたちの心の内を、じつにリアリティたっぷりに描いているのだ。

 物語は、武道館でライブを行うことを目標にするアイドルグループ「NEXT YOU」のメンバー・愛子が主人公。朝井自身がTwitterで「これはアイドルの話ですが、女同士のいざこざとかセンター争いとか、そういう事は書いていません」と明言しているように、連載2話までの現時点ではメンバー間の戦いなどは出てこない。しかし、本作には残酷にも思えるほどに、メンバーたちがネット上の誹謗中傷に向き合わざるを得ない場面が多々登場する。

 たとえば、アニメ好きのキャラで売るメンバー・波奈は、自撮りした映像をアップした際にパソコンの画面が映り込んでいた。そして、そのブックマークに保存されたアニメの動画が違法アップロードされたものだとアニメファンが騒ぎ、炎上騒動として発展。さらに、波奈が過去に「声優のお仕事をしてみたい」と発言していたことが発掘され、この騒動はついにネットニュースのトップを飾るのだ。当然、コメント欄は〈突如正義感のようなものを手にした人たち〉によって荒れていく。

「自分たちはいろ〜んな特典つけてヲタクから金を搾取してるくせに、アニメは違法・無料で観るんですね」「衰退させるのは音楽業界だけにしろや。アニメ業界まで腐らせるのは禁止」

 ネット上に溢れかえる非難の言葉。実際、アニヲタとドルヲタは相性が悪いものだが、この場面などはまるで実際の事件を見ているかのようだ。しかし、もっと生々しいのは、握手会での描写である。主人公の愛子は古参ヲタから炎上騒動の話題を振られ、「元気づけてあげなね。こういうとき、支えになってあげられるのはメンバーしかいないんだから」と語られる。愛子は「ハイ」と神妙な面持ちで頷くものの、〈まるで先生のように話すこの人は、私たちのなんなのだろう〉と疑問に感じるのだ。……そのツッコミはごもっともだが、アイドルファンにとってはダメージが大きいシーンかもしれない。

 また、新曲を発表したときには、「イラネ」「売れなそう」という言葉とともに、握手券などのCD購入特典に対して数々の批判が投げかけられる。まだ高校生の愛子に込み上げるのは、持って行き場のない感情だ。

〈煽り耐性、スルースキル、それらの言葉は自分たちが小さなころにはこの世になかったのに、本当についさっき生まれたような新しい言葉なのに、その習性をあらかじめ持ち合わせていることを当然のように求められる〉

 こうした感情は、きっと現実のアイドルたちも抱えているものなのだろう。先日も、握手会で襲撃を受けたAKBの川栄李奈が、「テレビは出るのに、握手会は出ないのか?」「握手会が嫌なら辞めろ」とトークアプリ上で批判され、「あのさー握手会やれとかここに書かないでもらっていいですかー」と反論。彼女の気持ちを少しでも想像すれば当然の返答だと思うが、ファンのなかには「スルーしろよ」と投げかける者もいた。怒りを怒りとしてもってはいけない、発露できない──ネットという接点が生んだ現代アイドルたちの苦悩を、この小説はあぶり出しているかのようだ。

 そして、もっとも痛ましいのは、オーディション時から太ってしまったメンバー・足立真由への心ない書き込みだ。

〈完全終了のお知らせ〉〈【これはひどい】だちまゆ、オーディション時と別人になる【比較画像アリ】〉〈【超絶悲報】でぶまゆ、ひとりだけ違うデザインの水着を渡される〉

 無分別なバッシングにさらされた真由は、満足に食事も摂らず、ローカロリーの茎わかめを手放さない。それでもブログには、食べもしないドーナツを手にした写真とともに〈超絶悲報☆食欲の秋、到来ナリ〜〉と投稿する……。読んでいるだけで胸が詰まりそうになるが、この手のバッシングも、現実のアイドルたちが数多く経験しているもの。真由のように、現実のアイドルたちも懸命にふんばって耐えているのだろうが、本作で救われるのは、他メンバーが真由を気遣い、「真由が何かをサボったり、なまけてるからじゃないんだよ」と諭していること。現実のアイドルたちにも、このようなメンバーがいますようにと祈らずにはいられない場面だ。

 本作について、作者の朝井は自身のTwitter上で、このように述べている。

「いつでも可愛くいるべきだが恋愛は禁止、歌やダンスはうますぎても応援されない…両立しない要求に応えてしまえている現代のアイドルは「異物」です。そして、日常に異物が現れたとき、人間は新たな一面を露呈させます。受け入れる人、拒む人、怒る人、笑う人…異物への反応に人間の本質が出ます」
「私はアイドル自身を描きたいのではなく、どのメディアもアイドルにまみれた現代に生きる私たちに起きた変化、を書きたいのだと思います」

 アイドルとは何か、アイドルを消費する社会とは何か──本作は、そういったことを考える上でも示唆に富んだ作品であることは間違いない。連載はまだ2話までしか発表されていないが、今後の展開がじつに楽しみな作品だ。
(サニーうどん)

最終更新:2015.01.19 05:01

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

ネット上の非難にアイドルたちは…朝井リョウが描くアイドルの本音のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。AKB48サニーうどん乃木坂46文学の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

1 山本太郎が懲罰なら“ヒゲの隊長”は?入管法改正ゴリ押し自民の卑劣
2 羽田雄一郎参院議員の死が示すコロナ検査の現実
3 二宮のアカデミー賞の挨拶が顰蹙
4 入管法改正案の根拠となった「難民審査」の信じ難いデタラメが発覚!
5 入管の常勤医師の“飲酒・酩酊状態で診察”判明!齋藤法相は把握も隠蔽
6 葵つかさが「松潤とは終わった」と
7 オリラジの吉本興業退所でマスコミが触れない松本人志をめぐる圧力
8 故・松田優作の在日差別への恐れ
9 グレタさん攻撃で炎上した野口健は15歳のシェルパの娘と「児童婚」
10 宮根誠司がアパホテルを擁護し中国攻撃
11 ぱるるグラビア差別発言にグラドルが
12 「総理、逃げるんですか」記者に“批判“が殺到する日本の後進性! 
13 SMAP騒動とメリー氏被害妄想
14 ジャニーズ性加害問題で露わになったテレビ局の共犯性! 
15 ウィシュマさん攻撃を肯定する維新 音喜多に続き馬場も「間違っていない」
16 東山紀之が『旅サラダ』で菅官房長官の名前出し神田正輝も最敬礼
17 “難民見殺し”の「入管法改正」めぐり岸田政権と自民党がキチク言動!
18 維新の代表質問で梅村みずほ議員がウィシュマさんを「詐病」扱い!
19 グッディ高橋克実が北朝鮮危機で本音
20 タッキー引退の裏にジャニーVSジュリーの派閥抗争
マガジン9

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄