労働問題に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
堀江貴文が“手取り14万円”に「お前が終わってんだよ」でまた無知を晒す それでもホリエモンに踊らされる自己責任厨の信者たち
堀江貴文Twitter
ホリエモンこと堀江貴文氏が7日、こんなツイートをしたことが物議を醸している。
〈日本がおわってんじゃなくて「お前」がおわってんだよwww〉
いったいホリエモンは何を馬鹿にしているのかって話だが、これは「12年勤務して手取14万円『日本終わってますよね?』に共感の声」と題されたネット記事をリツイートし、感想のかたちで投稿したものだ。ちょっと説明しておこう。
記事は、ウェブサイト「キャリコネニュース」によるもの。民間企業の正社員の平均給与503万5000円と非正規社員の平均給与179万円(国税庁「民間給与実態調査」2018年)を取り上げ、〈格差社会が浮き彫りになった〉と伝えたうえで、ネット匿名掲示板「ガールズチャンネル」に立てられた「手取り15万円以下の人」というトピックを紹介した。〈栄養士〉だというトピ主のこんな投稿から始まる。
〈アラフォーの会社員です。
主は手取り14万円です…
都内のメーカー勤続12年で役職も付いていますが、
この給料です…
何も贅沢出来ない生活
日本終わってますよね?〉
掲示板では〈転職してどうぞ〉という意見もあった一方、〈日本に死ねと言われているみたいで切ないです〉〈もはや日本も発展途上国の仲間入りしてるんじゃないかと時々思う〉というような共感や同情の書き込みも見られた。「キャリコネニュース」の記事は、こうした書き込みを〈現状の辛さの吐露〉だとして、〈日本に住む人が「日本に住んで良かった」と思える国づくりを本格的に着手しなければいけない局面に来ているだろう〉と結んでいた。
さて、これに対してホリエモンが吐き捨てたのが、〈日本がおわってんじゃなくて「お前」がおわってんだよwww〉の一言だった、というわけである。ようするに、ギリギリ生活するのがやっとの「手取り14万円の栄養士」が「日本終わってますよね?」と訴えたのに対して、「終わってるのはお前」と嘲笑したのだ。
“ネオリベ冷笑系の権化”のようなホリエモンが弱者に自己責任論を押し付けるのはいつものことだが、今回のツイートは同時に、この男が現実認識能力というものをまったくもっていないことを証明してしまった。
なぜなら、日本の経済や労働の実態について少しでもわかっていたら、この“手取り14万円の栄養士”が個人の特別なケースでもなんでもなく、むしろ日本経済こそが「終わっている」ことがすぐにわかるからだ。
たとえば、OECDが今年5月に発表した調査を見ても、主要先進国のうち、過去20 年間で賃金がマイナスになっているのは日本だけだ。2018年の1997年の「時間あたり賃金」のデータを比べると、たとえばイギリスは93%、アメリカは82%のプラスと、およそ2倍に上昇。隣国の韓国にいたっては167%も増加している。ところが、日本だけは、なんと8%のマイナス。つまり、欧米やアジア先進国のなかで唯一、時給が上昇するどころか減少しているのである。
議論の土台を全然分かっていないのに知ったかぶり ホリエモンの頭の悪さがまた…
賃金だけではない。国際社会のなかで、日本は最も経済成長が滞っている国と言っていい。事実、日本のGDPは1990年代後半から現在にかけてほとんど変わっていない。これを「世界全体に占める日本のGDPシェア」の観点で見てみると、1995年に17.6%だったものが、直近ではわずか6%程度。これは1980年よりも低い数字である。このGDPシェアをみれば、“日本の経済力”は実に40年以上前の水準以下になっていると言う他ない。加えて、日本の労働分配率(企業などで生産された付加価値のうち、給料など労働者に還元される割合)は世界最低水準だ。
つまり、日本経済自体が長いトンネルから脱出できず、もはや「豊かな国」とは言えない水準まで落ちている。そして、そのしわ寄せを一番受けているのが労働者なのだ。富裕層と一般層の格差が広がっており、日本の相対的貧困率15.6%(2015年)はOECD加盟国のなかでワーストから数えたほうが早い。「努力が足りないお前が悪い」という言い方は「努力すれば報われる」という前提に立っているが、実際には、「手取り14万円」が当たり前になっているほど、日本の経済状況は地盤沈下している。
しかも、こうした実態が、新しいイノベーションや、経済成長の阻害要因になるという悪循環を生んでいる。
少し前、ソフトバンクの孫正義氏が「日本はいつの間にかAI後進国になってしまった」「この数年間で一番革新が進んだAIの分野で、完璧な発展途上国になってしまった」と発言して話題になったが、この背景にも、日本の労働環境の悪さや低賃金がある。
賃金が低いため、労働者のモチベーションや生産性も上がらず、やる気のある人材は海外の流出していく。外国人労働者も待遇や賃金などの問題で、日本より韓国、ドイツなどを選択するケースが増えている。
言っておくが、いま説明したことは、日本の経済状況や労働者の生活状況を語る上で、ごく当たり前の基礎知識だ。「手取り14万円」の労働者を「終わってんのは『お前』だろwww」と嘲笑するホリエモンは、そんな状況も分かっていないらしい。
本サイトでは以前から、堀江氏が年金問題や原発問題などで“知ったかぶり”をかますたびに、実はその議論の土台を全然分かっていないという“頭の悪さ”を指摘してきたが、今回の発言もまさにそういうことなのだろう。
だが、恐ろしいことに、いまだにホリエモンに騙されてしまう人が少なくないらしい。しかも、同類のネオリベ系若手経営者みたいな連中ばかりでなく、それこそ、ギリギリの生活を強いられるような“貧困層”の若者が、ホリエモンを尊敬しているらしいのだ。
ホリエモンの “自己啓発系ビジネス本”に踊らされ、思考停止の自己責任論を支持する信者たち
たとえば、ジャーナリストの藤田和恵氏が「週刊東洋オンライン」で連載している「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では、少し前、「フリーランス」という31歳の男性を取り上げていた。この男性は起業サークルに入会し、有料でセミナーなどに通っている。一方、収入源は食事配達サービス「ウーバー・イーツ」の配達員で、月収は3万から5万円ほど。しかし雇用の不安定性を指摘する藤田氏に対し男性は「(労働者を守る)労働基準法はもう古いと思います。人材が流動化する時代、それでは価格競争に勝てません。事故に遭ったとしても自己責任」などと自己責任論を語る。この男性は、ホリエモンやキングコング・西野亮廣の著書を読んでいたという(2019年5月10日「フリーランスを志す31歳男性の『夢と現実』」)。
「悪いのは社会でなく自分自身」。もちろんこの男性ひとりのケースを直ちに全体に敷衍できるようなものではないが、社会全体の構造的な問題を個人の問題に収斂させるような思考回路は、ホリエモン信者の多くにも共通して見られるものだろう。
堀江貴文が世に出てきたときのイメージは、まさに既存の大企業の「働き方」にとらわれなず既得権益と戦う“自由で新しい経営者”というものだった。しかし、その口から発せられてきたのは、たんなる弱者切り捨ての自己責任論でしかない。それは既得権益に抵抗するように見えて、そのじつ、強者の権益を増強させるだけだ。
社会の問題を徹底的に個人の問題に矮小化させ、「悪いのは社会でなく自分自身」と刷り込み、信者相手に中身スカスカのネオリベ自己啓発本を売り、オンラインサロンビジネスでセコセコ稼ぐ。そうやって“堀江貴文に憧れる持たざる若者”は踊らされ食い物にされてしまっているのだろう。
実際、今回の「終わってんのはお前だろwww」ツイートにも、Twitterでは多数の反論が寄せられる一方で、〈うん、確かに。日本は終わっていない。こういう被害者意識の塊みたいな考えの人達が日本を終わらせるんだと思う〉〈何でもかんでも国のせいにすな〉などと、ホリエモンを讃える声が数多くあがっていた。
どうやら、ホリエモンの基礎知識や現実認識の欠如した思考停止の自己責任論は、どこまでも落ちていく日本という国の実像を覆い隠してしまう効果があるらしい。いまだにこんなツイートがチヤホヤされてしまう状況を見ていると、やっぱり「日本終わってる」としか思えないのだが……。
(編集部)
最終更新:2019.10.09 11:57
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