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竹内結子主演ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』の女性蔑視がひどい! 伊藤詩織さんやはあちゅうの性被害告発も揶揄
『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(番組HPより)
ここ最近、民放のドラマでは、政権の不正やセクハラ事件などを風刺・批判するような動きが起きている。たとえば『相棒』(テレビ朝日)では安倍政権の暗部を彷彿とさせるようなシークエンスが随所にちりばめられ、昨年放送された『アンナチュラル』(TBS)でも安倍首相御用ジャーナリストの山口敬之事件を想起させる場面が展開されるなど、女性蔑視を批判する目線が貫かれており大きな話題となった。これらは、安倍政権の言論圧力の結果、報道部門がすっかり萎縮し忖度している状況のなか、ドラマというフィクションで一矢報いようとするテレビ人の良心と言っていいだろう。
そんななか、今クールでも、現実社会で起こった事件や社会問題を彷彿とさせる内容を盛んに織り交ぜている連続ドラマがある。竹内結子主演の『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ)だ。危機管理・スキャンダル対策が専門という異色の弁護士・氷見江(竹内結子)が依頼人のトラブルを解決していくという一話完結もので、『相棒』や『アンナチュラル』のような権力批判、社会風刺が展開されるのではと期待したが、しかし、これが真逆のトンデモドラマなのだ。とくに1月17日放送の第2話は、現実社会でも問題となったある社会問題をモチーフにしていたが、その切り口は呆然とするものだった。
ドラマの概要はこうだ。氷見のもとに大手広告代理店「D cide」からの依頼があった。同社のトップクリエイター谷正輝(波岡一喜)が契約社員の女性にセクハラをしたとして週刊誌に告発された。これをきっかけに女性たちによるデモが起こるなど社会問題に発展、そのため谷は人事部長の藤原貴美子(国生さゆり)とともに、氷見に事態の沈静化を依頼する。谷はセクハラなど事実無根だと訴えるが、しかし被害女性である佐藤瑠璃(成海璃子)は、谷からのセクハラ・パワハラについてこう訴えた。
「上司に夜中、呼び出されて朝まで正座をさせられたことありますか?」
「上司に『仕事をクビになりたくないならひざまずけ』って言われたこと、ありますか?」
大手広告代理店「D cide」を舞台にしたトップクリエイターによる女性スタッフへのセクハラ。さらに正座などのエピソードを見ると、どうしてもあの一件を想起せざるを得ない。そう、はあちゅうが電通時代に先輩クリエイターの岸勇希氏から受けたセクハラ・パワハラ告発の一件だ。
はあちゅうへのセクハラ・パワハラが始まったのは2010年3月頃のこと。岸氏ははあちゅうを深夜に突然、電話で「俺の家にこれから来い」と命令、またあるときは「今すぐ飲みの場所に来い。手ぶらで来るな。可愛い女も一緒に連れてこい。お前みたいな利用価値のない人間には人の紹介くらいしかやれることはない」などの暴言を吐いたという。さらに呼び出されて自宅に行くと、黙って正座をさせられたこともあったという。
また、ドラマでは当初匿名だった被害者女性が、その後顔出しで実名告発しネットでバッシングを受ける様子も描かれ、さらに告発本『ブラックダイアリー』の出版を予定するというエピソードも出てくる。これは、明らかにジャーナリスト・山口敬之氏からの性暴力被害を訴えた伊藤詩織さんの『Black Box』(文藝春秋)を意識したものだ。
つまり、ドラマは電通を舞台にしたはあちゅうのセクハラ・パワハラ事件、そして伊藤詩織さんの性的暴行事件を合体させてモチーフにしたと思われるが、しかしこれら女性の性被害問題に一石を投じるものかと思いきや、ドラマは予想を超えたとんでもない展開を見せる。
セクハラ被害告発を金儲け・売名行為と揶揄
たとえば、被害者女性は週刊誌にパワハラ・セクハラを告発するのだが、そこに乗り込んだ氷見は編集者とこんなやりとりをするのだ。
編集者「セクハラ、パワハラは被害者がそう感じたらそうなんです。彼女は契約を切られた際に被害者意識を持ったってことでしょうね」
氷見「“被害者”って言葉は強いですからね」
編集者「その武器があれば大抵大丈夫です。部数稼ぐためにちょっとアレンジしてあげればオッケー」
まるでセクハラ告発を商売にしているようなやりとりだが、それだけでない。ドラマでは、ほかにも「いまだったら彼女は世の中を変えるヒロイン」などと、セクハラ被害者を揶揄するようなセリフが盛んに飛び出す。
そして被害女性が顔出ししたことで、過去の写真などが暴かれると、弁護士事務所でそれを見たスタッフたちが「ネットのみなさんが探し出してくれました」「ちょっとあざと過ぎましたよね」と、実名告発に対してあたかも売名行為のように批判し、嘲るのだ。
さらにドラマは、被害者女性が加害者の谷と交際していたのではないかと疑い、被害者にそれを詰問するという信じがたいストーリー展開になる。マツエクサロンにいた被害者女性に、水川あさみ演じる弁護士・与田知恵が「付き合ってたんですか、谷さんと。フラれた腹いせで、セクハラを訴える人もいますからね」と詰め寄るのだ。すると被害者女性はそれを認めた上で、「別れ話をしたら部署を移動させられたことは立派なセクハラ」だと主張。この被害女性の主張は当然のものだが、しかし与田はマツエク中の被害者を見て吹き出し、「その顔で言われてもね。フフフフ」と小馬鹿にして笑う。
クラクラする展開だが、さらに最終解決方法として氷見は加害者男性の谷と被害者女性を同席させ、こんな会話をする。
氷見「お二人はお付き合いされてたんですか? 優秀なクリエイターが若い彼女に捨てられてその未練から嫌がらせをした。そんな恥ずかしいことは人には言えませんよね? でも、谷さん、交際していたことを認めればあなたの状況はこれ以上悪くはならないと思いますが」
いやいや、交際していたからといってパワハラやセクハラが免責されるなんてありえないし、そもそも加害者側の弁護士が、被害者と加害者を同席させることじたい、被害者を萎縮させる信じがたいもの。しかも氷見は2人の付き合っていた頃の思い出話をさせ、その挙句、谷と被害者女性にこんな口論をさせる。
谷「お前に 俺の苦労がわかんのかよ!」
被害者「苦労なんかしてたっけ?」
谷「したっつうんだよ!」
(略)
谷「お前だって地位と名誉が欲しくて必死になって近づいてきたんだろうが」
被害者「踏み台にもならなかったけどね」
(略)
被害者「別れたいって言ったら私を異動させて。そのくせ夜中に仕事だって呼び出して正座させて、罵倒して。歯向かったらクビにするって脅して!」
谷「こっちは会社にも切られて暴露本まで出すとか言われて。それに比べたらお前のほうがましだろ!」
加害者男性は明らかに上司と部下という支配関係を背景に女性を脅したり不当に異動させたりしているにもかかわらず、過去の交際を持ち出し、セクハラ・パワハラをまるで単なる痴情のもつれかのように矮小化する。あまりにもふざけた展開だが、さらに氷見はこう畳み掛けるのだ。
「いい加減にしてください。そもそも これは周りを巻き込まなくてもお二人が話し合えば解決できる問題じゃないんですか?」
「セクハラがあったことは事実です。でも それを利用して人を貶め、まわりを振り回す必要までありますか? 冷静に考えてください。谷さんとの素敵な思い出もあるんじゃないですか?」
クラクラするような不見識なセリフの数々。パワハラ・セクハラは、過去の恋愛関係や素敵な思い出で軽減されるものではないし、恋愛関係の破綻を恨み、自分の地位を利用して女性を不当に異動させるというパワハラは、2人で話し合って解決する個人的な問題などではまったくない。そのような大きな不利益を被った女性がそれを訴えるのは正当な行為だ。にもかかわらず、それを「セクハラを利用して人を貶め」などと非難するのは、まるで財務省セクハラ問題のときの麻生太郎財務相ではないか。にわかには信じがたいかもしれないが、ドラマではこうした氷見の言動を批判的に描いているのではなく、ヒーローとして描いているのだ。
そしてドラマは、告発本の出版中止という最大のミッションを氷見が成し遂げて、大団円を迎えるのだが、その経緯も酷い。2人が恋人関係にあったことを知った氷見が、そのネタを週刊誌にリークし掲載させたことで、発売直前だった告発本『ブラックダイアリー』は出版中止に追い込まれるのだ。
何度でも言うが、たとえ加害者と被害者が恋愛関係にあっても、パワハラやセクハラが許されたり矮小化されるものではない。しかしドラマでは恋人関係がことさら強調され、しかもそれが被害者側の“落ち度”のように描かれている。まるで性被害に対して声をあげたことじたいが間違いだったかのように。
実際、現実社会でも、セクハラやパワハラを告発した女性に対し、「売名行為」「女性が誘った」「女性にも落ち度があった」などと卑劣なバッシングが起こり、性被害を矮小化しようとする動きが起こっているが、ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』は、こうした風潮を正当化し、差別を煽り、さらに勇気を持って告発しようとする被害者を萎縮させ、告発を封じようとしているとしか思えないものだ。
「ババア」「告発女性は性格悪い」と女性蔑視のオンパレード
しかもこのドラマ、セクハラ事件そのもの以外でも随所に女性蔑視のシーンやセリフのオンパレードなのだ。
たとえば代理店の内情を知るため、氷見たちが代理店社員と合コンまがいの飲み会をセッティングし、色仕掛けでその実情を聞き出す。また、セクハラをもみ消すのは国生さゆり演じる女性人事部長で、ヒステリックで高圧的なパワハラ人物として描かれる。さらに被害者への謝罪を頑なに拒む人事部長に対して「谷さんに気があんじゃないの?」などというゲスの勘ぐりまで挿入される。その上、中川大志演じるイケメン弁護士・藤枝に人事部長を接待させるのだが、その際、藤枝は事務所で氷見たちに向かってこんなセリフを吐くのだ。
「おーい! ババアども! 俺はな、ババアを楽しませるため弁護士になったんじゃない!」
ほかにも「昔は パワハラもセクハラも当たり前だった」「人事のババア」「甘えたことを言ってくる女たち」「要は元カノ(被害者女性)が性格悪かったって話でしょ」など、問題を矮小化し、まるで被害者に非があるかのようなあるまじきセリフさえ平然と飛び出すのだ。
なぜこんな時代錯誤なドラマをつくったのか、フジテレビの意向はまったく不明だが、しかしこれだけは明らかだろう。わざわざ、はあちゅうのセクハラ・パワハラ事件、そして伊藤詩織さんの性的暴行を彷彿、モチーフとした上で、その被害者女性たちを貶める。女性の性的被害の訴えを個人的関係に貶め、バカにする──。
さらに問題なのは、実際に起こった事件をモチーフとしたことで、はあちゅうや伊藤詩織さんとドラマの被害者女性が一体化してしまい、彼女たちまでもがあたかも金儲けや売名行為をしたという印象操作にさえなってしまっていることだろう。
しかも『スキャンダル弁護士』は、この回以降も、フィギュアスケート選手に対する枕営業の強要や、有名女性コメンテーターが受けたDVなど女性をめぐる問題を題材にしているのだが、いずれもそれらの問題を矮小化し、女性蔑視の目線で貫かれているのだ。
せめてもの救いは視聴率が極端なまでに低く、多くの人の目に触れていないということだが、しかし、これほどまでに意識の低いフジテレビが、その終焉を囁かれるのも納得というものだろう。
(林グンマ)
最終更新:2019.02.14 09:39
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