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発達障害本を出版、栗原類が語った日本の学校でのいじめ体験…「5年間、僕はずっとサンドバッグだった」
栗原類『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(KADOKAWA)
先日当サイトでも取り上げたが、今年8月に俳優の高畑裕太が強姦致傷容疑で逮捕されたとき、彼が発達障害であり、そのことが犯罪を引き起こす因子になったなどと報じるメディアが複数あった。これは明らかに間違った認識であり、発達障害を抱えているということが犯罪の直接的な要因となることはない。
しかし、現在の日本では知識のなさゆえにこうした誤った認識がことあるごとに流布され、発達障害を抱える子どもや親は不当な偏見と差別に苦しみ続けている。そんな状況のなか、モデルで俳優の栗原類が自らの発達障害についての体験を綴った『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(KADOKAWA)を出版した。
栗原は昨年5月に出演した『あさイチ』(NHK)で発達障害との診断を受けたことを告白し、大きな反響を呼んだが、今回の本では、彼の母である栗原泉氏や主治医の高橋猛氏のコメントも交えながら、発達障害を取り巻く環境についても、かなり踏み込んだ体験談と分析を綴っている。
一口に発達障害といっても、そのありようも程度もさまざまだが、栗原の場合は主に「感覚過敏」「強いこだわりがある」「二つの動作が同時にできない」「記憶力が弱い」「注意力散漫で忘れ物が多い」「人の心を読み取るのが苦手」といった特徴があるという。
栗原が、発達障害の診断を受けたのは、小学生低学年のとき。当時、栗原はニューヨークの公立小学校に通っていたが、1年生の後半ですでに進級できるかどうか危ぶまれる状態になった。そのとき、担任の先生から発達障害を抱えているかどうかテストを受けさせたいという提案があり、テストを受けた結果、ADD(注意欠陥障害)と診断されたのだという。
ニューヨークの小学校は発達障害教育への取り組みがかなり進んでおり、その後のフォローもしっかりしていた。栗原がアメリカで最初に発達障害の診断を受けたとき、母親の泉氏はこうアドバイスを受けたという。
「お母さんと類くんはぜんぜん違う。自分ができたことを子どもに要求しないで。自分が簡単にできたことを子どもができないことに関して、『なんでできないのだろう?』という疑問をもたないで。逆に自分ができなかったことだけを思い出すようにして」
「その言葉は、私にとって一生忘れることのできない大切な言葉となりました。「親子なのだから」「家族なのだから」という、個と個の境目を曖昧にするような感覚は、時として自分を甘やかし、相手に負担をかけます。「自分と子どもは別々の個性を持った人間であり、私にできないことを彼はたくさんやっている」と、常に考えることで、子どもを尊重し、心から褒めてあげられるようになります」
栗原の現在の主治医である高橋猛氏は同書の中でこう解説している。
「アメリカは幼少期から発達障害の的確な診断をします。保護者が自分で病院を探して、診察を受けないと診断してもらえない日本と違って、アメリカでは幼稚園で支援委員会が立ち上がり、半ば強制的に専門家による診断が実施され、小学校の就学先を検討したり、支援プログラムが組まれるなどして親子を支援します。社会的に支援するシステムが確立しているのです」
栗原自身、本書の冒頭で、「発達障害は、脳のクセです。人によって障害内容は異なりますが、早期に気が付き、環境を整え、正しく対処をすれば、ある程度の訓練で変わることができます。できないことができるようになるということは難しくても、生きづらさは解消できます」と綴っているが、彼が自分なりの生き方、居場所を見つけることができるようになったのは、ニューヨークの小学校に通っており、早期の診断と適切なサポートを受けられたことが大きかったということだろう。
しかし、小学校5年で日本に帰国してからは、まったく逆の環境が栗原を待ち構えていた。
「小学5年から中学卒業の5年間、僕はずっと理由もなく、ただ連中に言葉の暴力をあてられるサンドバッグの役割を受けてきました」
外見やファッションなどで目立っていたこと、英語をしゃべることなど、栗原はイジメを受けた理由をいくつか推測しているが、その理由のひとつは「ずっとひとり言を英語で言っていたこと」だったという。
「人と違うことは、日本では「目立つ」ことで、何かにつけて標的にされやすいのは事実だと思います。」
「しかし、独り言は違法ではないですし、ただ無視していればいいのにと僕は思っていました。横でブツブツ言われるのが気持ち悪い、不快だと感じる人がいると指摘されても、そういう発想があるんだと頭では理解できても、独り言をいう自由もないのかと逆に僕自身の権利を侵害されている気分にもなります。社会性を正しく身に付けるのは、非常に難しいと今でも感じます。」
さらに、そうしたイジメや嫌がらせに対する教師の対処法もアメリカと日本では大きくちがった。
「もうひとつ、決定的な要素もありました。友達に言われたことを、先生に報告する事です。/これに関してはおそらく読んでいる人の中にも「チクリ魔」「自分が悪い」「自分の問題は自分でなんとかしろ」と思われる方もいるかもしれません。/しかし、アメリカの学校では、生徒同士でケンカなどの問題があったら、自分たちで解決するのではなく先生達が監修するのが普通でした。彼らはどんなに忙しくても、人手が少なくても何があっても、ちゃんとその問題をみなければいけないという「義務」があり、生徒達も先生に報告する方針でした。だからいつも問題を見てくれる先生達の「熱意」を感じていました。/日本の学校では、僕がほかの子から暴言を浴びるたびに先生に助けを求めても、「わかった」というだけで、何もしてくれませんでした。そして、その子からは「チクるんじゃねーよ」と言われる繰り返しでした。そんな日々が3、4年続き、地獄のような日々を送っていました。」
ハード面でのサポートも、日本の学校はまだまだ追いついていない。たとえば、栗原は「二つの動作を同時にすることが難しい」ため、字を書くことと思考することを同時にしなければならない、手書きの作文などが苦手だという。
「授業中やテストで手書きにこだわる文化が、発達障害児には大きな壁になっています。手書きが下手なら、キーボードのタイピングが速くなればいい。「字は下手だけどタイピングはすごく速いね」と褒められればいいのです。だけど日本の学校では手書きじゃないと許されない。そこが改善されると僕と同じような障害のある子どもにはよいのにと思います」
栗原の母親・泉氏も同様の指摘をしている。
「教育現場への希望としては、結果の平等でなく、機会の平等を与えてほしいと切に思います。近眼の子が眼鏡をかけても文句を言われないのに、耳の聞こえが悪い子が補聴器をつけることが許されるのに、字を読んだり書いたりするのが苦手な子たちが、スマフォやタブレット端末を使うということを許してもらえないのは残念です」
日本では、子育てや障がい者のサポートを社会全体で担うのではなく、自己責任と家族だけに押し付けるような風潮がどんどん強まっている。それどころか、「児童の2次障害は幼児期の愛着の形成に起因する」とし、“子どもを産んだら母親が傍にいて育てないと発達障害になる。だから仕事をせずに家にいろ”という科学的にはなんの根拠もない理論を振りかざす、「親学」なるトンデモ思想を信奉する人物が政権の中枢を担っている。
必要なのは、母親だけに責任を押しつけ、社会から疎外することではなく、早期の発見と社会全体での理解とサポートだ。栗原が今回、出版した本からは、そのことがよくわかる。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.12 02:35
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