改憲に動き始めた安倍首相の「押しつけ憲法論」は嘘だらけ! GHQ支配の元凶は自民党とお前のじいさんだ!

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自由民主党HPより


 新しい年が明けた。従軍慰安婦問題は昨年末、日韓の合意がなされたが、安倍政権による歴史修正主義の動きがなくなったわけではない。それどころか、今年はさらにエスカレートするだろう。

 その中心となるのが昨年、自民党に設立された「歴史を学び未来を考える本部」(本部長=谷垣禎一幹事長)だ。12月22日の初会合では、南京事件など並んで、占領下の憲法制定過程を議論すると気勢を上げた。もちろん、安倍晋三首相の肝いりによるものだ。同本部は総裁(首相)直属組織で、「日本の近現代の歴史を幅広く検証する」としている。

 おそらく、安倍首相はこの組織での議論をベースにして、一気に憲法改正の理論的根拠とやらをつくりだそうとしているのだろう。

 実際、安倍首相は、それに先立つ11月28日、自らが会長を務める保守系超党派議連「創生『日本』」の会合で、「憲法改正をはじめ占領時代につくられた仕組みを変えることが(自民党)立党の原点だ」との演説をぶった。ようするに、日本国憲法をはじめとする戦後民主主義の価値観はすべてアメリカに押し付けられたものであり、それを変えることこそが自分の使命だと言いたいらしい。

 まったくよく言ったものである。日本の近現代の歴史を本当にきちんと勉強し、普通の神経を持ち合わせていたら、恥ずかしくてこんなことは絶対言えないはずである。

 そのことを具体的に指摘する前に、安倍首相らが「歴史検証」のよりどころにしている考え方について解説しておこう。彼らが唱えているのはWGIP史観と呼ばれるものだ。WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)とはGHQによる主要な占領政策のひとつで、「戦争による罪悪感を日本人の心に植えつけるための宣伝計画」とされている。WGIP史観は、この時のGHQの“洗脳工作”が戦後70年経ったいまでも生き続けていて、“反日左翼勢力”(笑)の形成につながっている、という考えだ。

 WGIPの存在自体は1989年に保守系文芸評論家の江藤淳が『閉された言論空間』(文藝春秋)で初めて指摘した。その後、藤岡信勝、小林よしのり、櫻井よしこ、西尾幹二らに受け継がれ、第2次安倍政権発足と軌を一にするかのように再び脚光を浴びるようになった。ここ1〜2年の間だけでも『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』(高橋史朗/致知出版社)、『GHQの日本洗脳』(山村明義/光文社)、『日本人を狂わせた洗脳工作』(関野通夫/自由社)、『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(ケント・ギルバート/PHP研究所)、『ひと目でわかる「GHQの日本人洗脳計画」の真実』(水間政憲/PHP研究所)……と、多数のWGIP史観本が出版されている。

 WGIP史観論者は、こうしたアメリカによる“洗脳工作”が成功して、「戦前の日本はすべて悪だった」とする、いわゆる「自虐史観」がかたちづくられていったというのだ。彼らは、アメリカ(GHQ)による「精神の奴隷化」もしくは「精神的非武装化」政策ともいう。

 確かにアメリカが主導したGHQの施策は、これらの書物が指摘するように当時の日本人をマインドコントロールしようとする側面があったのは事実だ。それまで日本を支配していた天皇崇拝、愛国心、滅私奉公といった封建的価値観を破壊し、アメリカ流の価値観を植えつけようとしたことは間違いない。

 だが、少なくとも、自民党、とくに安倍には、これを言う資格はない。なぜなら、アメリカによる「精神の奴隷化」政策がいまも続いているのは、他ならぬ歴代自民党(親米保守)政権が積極的にそうしてきたからだ。安倍首相は「占領下につくられた仕組みを変えることが自民党立党の原点だ」と言っているが、真っ赤な嘘である。

 そもそも自民党は、戦後日本でほぼ一貫して支配的立場にあった。それが立党の原点にあるなら、なぜ自民党は60年経ったいまも「戦後を終わらせる」ことができないままなのか。

 それは、「戦後の占領状態」が続くことが自民党の保身につながるからだ。そのことを鋭く指摘したのが気鋭の政治学者、白井聡の『永続敗戦論──戦後日本の核心』(太田出版)だ。

 日本の戦後の正体は「敗戦」を「終戦」置き換えたことにあると白井は言う。「戦後」のスタートである8月15日を、日本では「終戦記念日」と呼んでいる。しかし、当たり前だが戦争は自然に「終わった」わけではない。戦争は日本の敗北によって終わったのだ。にもかかわらず、この日は「戦争に負けた」日ではなく、「戦争が終わった」日として認識されている。この「敗戦」を「終戦」と言い換える欺瞞によって、戦後レジームの根本が成り立っているというのである。白井はこれを「敗戦の否認」と呼んでいる。

「敗戦の否認」が必要とされたのは、大東亜戦争を指揮した人たちが戦後も支配層にとどまり続けるためだった。その代表が安倍首相の祖父、岸信介であり、読売新聞中興の祖といわれた正力松太郎であり、賀屋興宣といった元A級戦犯の面々だ。彼らが復権できたのは、やはりアメリカ(GHQ)の意向によるものだった。米ソ冷戦が緊迫化し始めた占領後期、アメリカは日本の民主化よりも反共国家化を優先するようになる。この方針転換に従って、戦争犯罪人を含む戦前の支配層を再び元の地位に戻すことにした。前出の岸が「このまま米ソが対立すれば(復権の)望みがある」と日記に記していたのは有名な話だ。しかし、岸ら元戦争指導者にとって“負けた責任”を追及されるのははなはだ困る。

 だから、それをごまかすための「敗戦の否認」が必要だったわけだ。

 国民の目線から「敗戦」の事実を隠すために占領終了後もさまざまな工作が施された。尖兵となった正力松太郎は日本テレビを使ってアメリカ製ホームドラマや英会話番組を流すことで心理作戦に貢献し、アメリカナイズされた生活様式を浸透させた。本土にあった駐留米軍基地を当時アメリカの施政下にあった沖縄に押し付けていったのも「敗戦の否認」の一環だ。“独立”後も占領が続いていることを隠すためだ。“洗脳”はいまも続いている。アメリカの手先となってそれを推し進めてきたのが歴代自民党政権なのである。

 同じ敗戦国でありながら敗戦ときちんと向き合ったドイツはいまやEUの中核国という地位を占め、アメリカとも対等に渡り合っている。片や「敗戦」を「終戦」と言い換えるばかりか、敗戦責任者でもあるA級戦犯を「神」として祀る靖国神社を東京のど真ん中に置く日本は、いまだに近隣諸国との軋轢すら解消できず、いつまで経ってもアメリカのお追従を続けている。これは歴史的な事実である。

 日本の右派・保守勢力は東京裁判を戦勝国による一方的な後付け裁判だったと批判する。WGIP史観本にもそうした言説が溢れている。百歩譲ってそれが当たっているとしても、普通の考え方でいけば、戦争指導者らの“負け戦”に対する責任は逃れることができないだろう。だが、歴代自民党政権はその責任追及を怠ってきた。なぜなら、それを追及することは自らの存立基盤を脅かすことになるからだ。

 実は“占領時代につくられた仕組み”の最大のものがこれなのだ。戦勝国のアメリカは、日本の敗戦を覆い隠すことでアメリカにとって都合のいい日本人(親米保守)を支配層にとどめることに成功した。それが自民党のルーツであり、際限のない対米追従構造の始まりでもある。岸がアメリカ(CIA)の資金と援助によってつくられた首相であったことは、ニューヨークタイムズのティム・ワイナー記者がその著書『CIA秘録』(日本版は文藝春秋)で暴露している。
https://lite-ra.com/2015/08/post-1400.html

 その岸を通じて自民党がアメリカ(CIA)から継続的に秘密献金を受け取っていたという指摘もある。そもそも自民党の結党資金はアメリカ(CIA)が用立てたという説さえある。自民党が本気で日本の近現代史を検証するというなら、ぜひこの点も明らかにして欲しいものである。際限なく続く対米追従構造を変えない限り、「戦後レジームからの脱却」などとは恥ずかしくて言えないだろう。

 だが、安倍や自民党にそんな知性や誠実さはない。自分に都合のいい部分だけをつまみ食いして、ひたすらすべては占領期の洗脳だったという陰謀論を垂れ流すばかりだ。

 戦後、日本は、それまでなかった女性の参政権、財閥解体、農地解放、平和主義と国民主権、人権尊重と人道主義、労働組合の育成を推し進め、戦後民主主義の礎をつくっていった。ところが、安倍首相らWGIP史観の連中は、これも“押し付け”られたものとして忌み嫌う。

 その最たるものが、9条で戦争放棄を謳った日本国憲法の制定だ。たとえば、安倍首相は現行憲法はアメリカの“押し付け”であり“みっともない”と断じる根拠として、以下のようなものをあげている。

〈まず、憲法の成立過程に大きな問題があります。日本が占領下にあった時、GHQ司令部から「憲法草案を作るように」と指示が出て、松本烝治国務大臣のもと、起草委員会が草案作りに取り組んでいました。その憲法原案が昭和21年2月1日に新聞にスクープされ、その記事、内容にマッカーサー司令官が激怒して「日本人には任すことはできない」とホイットニー民生局長にGHQが憲法草案を作るように命令したのです。
 これは歴史的な事実です。その際、ホイットニーは部下に「2月12日までに憲法草案を作るよう」に命令し、「なぜ12日までか」と尋ねた部下にホイットニーは「2月12日はリンカーンの誕生日だから」と答えています。これも、その後の関係者の証言などで明らかになっています。
 草案作りには憲法学者も入っておらず、国際法に通じた専門家も加わっていない中で、タイムリミットが設定されました。日本の憲法策定とリンカーンの誕生日は何ら関係ないにもかかわらず、2月13日にGHQから日本側に急ごしらえの草案が提示され、そして、それが日本国憲法草案となったのです〉(安倍晋三公式サイトより)

 なんという粗雑で浅薄な歴史認識だろう。実際、安倍首相のような占領憲法、押し付け憲法論に対して、日本を代表する近現代史研究者の保坂正康は、占領下という圧倒的に不利な状況でも日本の平和と国益を守るために一身を賭した先達への侮辱であると批判している(毎日新聞2013年6月8日)。

〈吉田茂や幣原喜重郎、それに全面的賛意を示していた昭和天皇の努力、熱意に考えが及んでいない〉
〈現憲法を作成するために当時の政治指導者がどのように努力を払ったか、単に占領憲法というだけでは彼らを侮辱していないかと指摘しておきたい〉というのである。

 勉強不足の安倍は知らないと思うが、GHQの憲法草案は日本人の憲法学者、鈴木安蔵らの憲法研究会がつくった憲法草案要綱がベースになっている。つまり、日本国憲法の起草者は日本人だったとも言えるのだ。しかも、GHQ草案は日本の国会で審議され、さまざまな修正が加えられた。単純な“押し付け”ではないのである。さらにいえば、保坂も指摘していることだが、安倍らが改定を熱望している第9条もマッカーサー(アメリカ側)の発案ではなく、当時首相だった幣原喜重郎の示唆によって挿入されたものだったのだ。

 このことは、1951年5月の米上院軍事外交合同委員会の公聴会でマッカーサー元元帥自身が証言している。当時は日本(幣原)側の証言がなかったのでひとつの説に過ぎなかったが、その後研究が進んで、国会図書館内にある憲法調査会の資料に、幣原の側近である平野三郎(元衆議院議員)が幣原から憲法9条が生まれたいきさつを聞き取った文書があることが分かっている。これを読むと、当時の政治指導者が単に戦争放棄という理想主義に燃えただけではなく、さまざまな思惑や深慮遠謀に基づいて、9条の挿入を提案したのがよくわかる。安倍にもぜひ読んでもらいたい。

幣原にとって最大の眼目は天皇制の維持安泰だった。これは「占領に天皇を利用する」というマッカーサー(アメリカ側)の思惑とも一致していた。だが、アメリカ以外の連合国は天皇の戦争責任追及を強く求めていた。天皇がいる限り、日本が再び軍国主義化する可能性があるのではないかと恐れていたのだ。そこで幣原はマッカーサーに戦争放棄という突拍子もない提案をする。戦力不保持を宣言すれば、 天皇制が残っても日本は二度と軍国主義化することはない。いぶかるマッカーサーを幣原はじゅんじゅんと説く。

 原爆という新兵器が登場した以上、いままでのような軍備は役に立たない。最終的に各国は世界同盟のようなもの溶け込んでいくしか平和を維持する方法はないのではないか──いまでいう国連中心主義の理想である。これを聞いたマッカーサーは感激し、幣原の提案を受け入れることにした。だが、敗戦国の日本からこれを言い出すのははばかられる。日本国内を説得することも不可能だ。そこであえて、GHQから“押し付け”られた形にしてもらうことにしたというのだ。なんたる“謀略”(笑)。

 安倍との役者の違いが分かるだろう。

 しかも、幣原にはもう一枚、秘めたる意図があったという。それは緊迫化する米ソ冷戦において日本の青年がアメリカの尖兵になるのを防ぐことだった。朝鮮戦争の勃発後、マッカーサーは幣原に嵌められたことを悟るが時すでに遅しだった。9条という“押し付け”られた防波堤の存在によって、日本の戦後復興と驚異的な経済成長が成し遂げられたことはすでに書いた。これが国際政治の駆け引きというものなのだ。

 翻って安倍政権は、これとまったく逆のことをやっている。自衛隊員を守るどころか、アメリカの戦争に差し出そうとさえしている。それで得られるものは実はなにもないというのが新安保法制の実体だ。

 なぜなら、戦後、日本を支配してきた親米保守層は、そうはいってもそれなりにしたたかにアメリカと付き合ってきた。対米追従を利用しながら、 日本の国益を守ってきたと言ってもいい。その代表格が吉田茂だ。吉田はアメリカから“押し付け”られた憲法を盾に朝鮮戦争、ベトナム戦争への出兵を拒み続けた。それが日本の経済復興に莫大な貢献をもたらしたことは言を待たない。以後、55年体制下での自民党は社会党に常に3分の1以上の議席を与え続け、あえて改憲できないようにしてきたという。そうして、“強力”な社会主義勢力が存在していることを理由に対米交渉においてさまざまな譲歩を引き出してきた。

 だが、安倍にはそうした駆け引きがいっさいない。昨年4月の米上下両院議会での演説では歯の浮くようなセリフでアメリカを礼賛し、リチャード・アーミテージやジョセフ・ナイといったジャパンハンドラーに言われるがままに特定秘密保護法や解釈改憲による新安保法制を成立させた。占領から70年も経っているのに、新たな駐留米軍基地を造ろうとし、その固定化をも進めている。

 もし、“アメリカの押し付け”を言うなら、歴代首相の中でもっとも盲目的な対米追従主義者である安倍首相こそが真っ先に断罪されるべきなのだ。こんなインチキな男が喧伝する歴史修正主義に絶対に騙されてはならない。
(エンジョウトオル)

最終更新:2016.02.26 12:12

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