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厳しい取締りでさらに危ないドラッグが…半グレも逃げ出す危険ドラッグ業界の末期症状
『危険ドラッグ 半グレの闇稼業』(溝口敦/角川書店)
2014年9月中旬からの約1カ月の間に、危険ドラッグのひとつである「ハートショット」の使用により15人が死亡した。この前後から警察による大々的な危険ドラッグ撲滅キャンペーンが始まったが、それでも乱用者は後を絶たない。一説によると危険ドラッグ市場は1200億円市場と目されており、目下、半グレのシノギのひとつとなっているとも言われる。
『危険ドラッグ 半グレの闇稼業』(溝口敦/角川書店)は、ここ数年、危険ドラッグの危険性が叫ばれ、実際に痛ましい事件が起こりながらも、供給を続けている側に取材を行い、そのシノギの構造を解明している。
危険ドラッグとは覚せい剤や大麻など法律で規制された薬物と似た化学物質を含むドラッグであり、乾燥した植物片に薬剤をまぶしてあるもの、粉末状、液状、錠剤、など色々な形がある。過去には脱法ハーブと呼ばれていた時期もあった。実際のところ植物片にまぶしているのは化学物質であり、ハーブというイメージからは程遠いケミカルドラッグだ。ある化学物質が規制されればそれに似た化学物質をまぶした新種の危険ドラッグが出回る、というサイクルを繰り返しており、イタチごっこが続いている。
作者が取材したPという男は、現在は足を洗っているが、かつて北日本で輸入卸を兼ねて開業し、一時は全国の小売店に頼りにされていたという。
Pは、もともと親しくしていたN社長が日本で初めて危険ドラッグの製造を手掛けた関係で商売をはじめ、お互いに売上げを伸ばしていった。
「小売りのほかに卸もやっていて、こちらの売上が月2000万円くらい。売上げ、儲けとも当時はうなぎ登りでした。というのは、原価率が極めて低いから」(P)
当時、小売りで2800円、3800円で売られているようなものだと原価は50円。ボロ儲けである。Pは2010年、N社長の会社を従業員ごと2000万円で買収し、商売を続けた。
だが、〈この業界にあまりに強く逆風が吹き始めたので〉、2年後に足を洗ったという。
Pは厚労省の麻薬取締官とも付き合い、情報を収集していたが、「脱法ドラッグで社長なんかやってる時代じゃないよ、マジやられるよ」と忠告されたのも危険ドラッグから離れる理由になったという。
「僕らはビールを売っていたつもりだったけど、売っちゃいけないというので、次に発泡酒や第三のビールを売った。そしたらそれもダメというので、裏技を使うつもりでハイボール、ワインを売った。それもダメとなり、この後、どうしたらいいか。残っているのはウォッカしかないよとなり、今はそれも全部ダメ。アルコール度97%のウォッカしか残ってない状態です。要するに危険な薬物しか残ってない」(P)
ある化学物質の規制により、それと似た化学式の物質を使い……というイタチごっこの結果、危険ドラッグは形を変え続け、もはや元業者も“危険な薬物”と言ってしまう有様となった。
冒頭に記した殺人ドラッグ「ハートショット」は、製造元「SSC」の元幹部社員Rによれば〈2014年になってから新社長の下で開発された〉という。前体制の頃「軽く爽やか、ライト層を掴もう」をコンセプトにして開発した弱めのドラッグだったが、全く売れなかった。そのうち前社長が家宅捜索を受け逮捕、Rも会社を離れたが「倉庫にはハートショットのパッケージだけはたくさん積み上げられていた。それをSSCの新体制が流用したのではないか」とRは言う。
「2013年、最初のハートショットは軽すぎて売れなかったから、今度は濃度を強めたんでしょう。が、行き過ぎで、掛けるパウダーがあまりにも強かった」(R)
しかし、この、より危険な物質を探して商品にするというやり方にも限界があったようだ。とくに13年、厚労省による危険ドラッグの「包括指定」の影響は大きかった。これは物質の基本的な化学構造を基本骨格ととらえ、同じ基本骨格を持つ物質を規制対象とするものだ。化学式の枝葉だけを変えても通用しない時代になったのである。
同書の著者の溝口は現状を〈危険ドラッグ業者の多くは日本では包囲網が狭まり、身動きが難しいと感じている〉と分析している。
さらに、捜査機関が税関での“水際対策”を強化したことで、海外で製造した危険ドラッグを輸入することが以前よりも困難になってきた。危険ドラッグ業界で中国への送金代行をしているFが知る業者の話によると、
「中国の製薬メーカーに500万円を送金し、中国から2014年12月中旬、荷がヤマト便の配送所に届いた。夕方受け取りに行き、荷を会社に持って帰ったが、会社に荷を置いておきたくなく、その夜は自宅に持って帰った。と、次の日の朝、警察が家宅捜索令状を持って自宅にやってきた」
という。なぜ警察がガサに来たのか。〈弁護士の見立てでは東京税関がコントロールドデリバリーで荷にGPSを仕込んだというものだ〉というから、国内での製造における逮捕のリスクを回避しようと、海外で製造したものを輸入したとしても、同じくリスクは避けられない。
「東京税関は危険ドラッグに対して覚せい剤並みにGPSまで紛れ込ませ、泳がせ捜査をする。そういう時代になってしまったとほぼ断言できるのではないかと思う」(F)
こうした取り組みが功を奏したのか、危険ドラッグを売る店の数は激減しているという。厚労省の調べでは14年3月末、全国に215店あった販売店は同年11月末段階で東京が14店、大阪が8店、神奈川が8店、埼玉が3店、北海道が2店の計35店舗に減少した。同省が同年12月末に再度調べると、販売を確認された販売店は全国で5店とさらに激減しており、ほとんど壊滅状態にある。同省はネット販売にも目を付け、プロバイダに販売サイトの削除を要請し続けており、販売をやめたサイトは153にのぼる。消費者調も14年8月以降、危険ドラッグの販売が疑われる77サイトに対して住所や電話番号を記載するよう是正を求め、そのうち66サイトが閉鎖または販売を中止した。
PにもRにも言えることだが、自ら危険ドラッグの薬効を楽しんでいる訳ではなく、あくまでも金儲けが目的であるため、規制が強まれば簡単にその業界から足を洗う。
前出のFによると危険ドラッグ業者には〈不思議なほどヤミ金出身が多い。そもそもは逮捕の危険がなくて楽に稼げるという理由で始めている〉という。かつて五菱会の影響下にあったヤミ金の店長だった者や店員たちが、五菱会の摘発をきっかけにちりぢりになったのちに手を出したのが脱法ハーブの商売だった。〈ヤミ金出身者たちも半グレに分類すべきだろう〉と作者は危険ドラッグ業者の多くが半グレであると分析している。
著者はPのような供給側の醒めっぷりをこう分析する。
〈その人間が危険ドラッグ屋になったのは単に儲かるからであって、危険ドラッグが彼の嗜好品だからではない。この点、覚せい剤のバイ人がいつか商売ものの覚せい剤を使う、つまり自己消費してしまうケースがまま見られるのとは違う。危険ドラッグ屋は長年危険ドラッグを扱いながら、危険ドラッグを好きにならず、むしろ嫌悪しているような感じを受ける〉
〈彼らは危険ドラッグを嫌い、危険ドラッグの愛用者をバカにしている。こういう性格を業者が持つ以上、商売が儲からなくなったら、経営が難しくなったら、逮捕されそうになったら、即、その商売を離れる。危険ドラッグに未練はないわけで、いつでも離れられる〉
危険ドラッグ業者たちはすでに新しい商売の目星をつけはじめている。それが〈金インゴットの輸入による消費税のちょろまかし〉だ。インゴットとは、金を鋳型に流し込んで固めたもの。
〈金の値段は全世界どこでも一律だが、香港やシンガポール、オーストラリアなどで非課税で買い、日本の税関で申告せず、そのまま国内に持ち込む。国内の金取扱店で金を売ると、消費税分8%をプラスして買い上げてくれる。この8%が半グレたちの儲けなのだ〉
実は、同書で証言しているPも、現在では香港などから1キロのインゴットを買って日本に運び込むという仕事をしている。危険ドラッグに比べると、かなり利ざやの薄い商売だが、結局、危険ドラッグはそれを商売にする半グレにとっても“危険”な存在になってしまったということだろう。
(高橋ユキ)
最終更新:2015.06.25 12:04
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