ヤクザから学ぶ、要求を通すための正しい「怒り方」のテクニック

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『ヤクザ式 相手を制す最強の「怒り方」』(光文社)

 ストレス社会といわれる現代、日々怒りを感じて生きている人は多いのではないだろうか。友だち、上司や部下、ご近所にママ友、家族──怒りの対象は数限りない。もちろん我慢しようとは思うが、時にはどうしても爆発してしまう。しかし、大抵の場合、いいたいことは伝わらず、自分でもわけがわからくなって、人間関係が壊れるだけだ。

 では、自分の不満をきちんと伝え、要求をとおす怒り方、つまり「正しく怒る」にはどうしたらいいのだろう。

 そんなときは、そのスジのひとたち、つまり、ヤクザを見習ってみてはどうだろうか。イリーガルな存在であるヤクザのまねをするなんて、と抵抗があるかもしれない。しかし、『ヤクザ式 相手を制す最強の「怒り方」』(向谷匡史/光文社新書)によれば、ヤクザの怒り方がもっとも「手っ取り早く現実的」らしい。

 同書の著者はヤクザ関係の取材が豊富な元週刊誌記者だが、ヤクザは怒りを熟知している究極のプロであり「一般市民は〈怒り〉を感情で処理する」のに対し「ヤクザは理性に落とし込み」、〈怒り〉によって最大限の効果と利益をあげるのだという。

 なるほど。妙な説得力のある理屈だが、では、そんなヤクザの怒りのテクニックとはいったいどんなものなのか、同書から紹介すると──。

 まず、ネチネチくどい相手に反撃する場合、“信用”という言葉がキーになる。ヤクザ社会は信用が一番。だからくどい相手には「わしが信用でけへんのか!」と居直り、逆に相手に「悪かった」と言わせてしまう。これは会社でも通用するという。上司や部下に頭にきたときに、低い怒りのトーンでたんかを切るといいらしい。「課長、私のことが信じられないんですか?」と課長に切り返せば、「信用しないというわけではない」とトーンダウンする。もし信用していないなどといえば、リーダーとしての適正を疑われる。だから部下に歩み寄らざるを得ないのだ。

 次は正論を主張する人への対処方法。ヤクザの抗争で、幹部たちが話し合いをした。「殺っちまいましょう」とエエカッコしいの一人の幹部が声高に主張した。しかし他の幹部は抗争など避けたいが、建前上、そうはいえない。その場合は「ウチからも“兵隊”を預けるぜ」と、賛成や反対を表明せずに責任を丸投げしてしまうのだという。実際、こういわれたカッコつけ幹部はビビって逃げ腰になったという。

 ビジネスでも「営業は熱意だと思います」などと上司の前でカッコつける奴は多い。そんなとき「まったくだ。陣頭指揮はキミに頼む」といえば相手は責任を背負わされると、及び腰になる。そこで「拙速は避け、きっちり話し合ったほうがいいんじゃないか?」と助け舟を出せば、恩も売れて一石二鳥というわけだ。

 また「バカ野郎! お前の頭は蟻の脳みそか!」などと上司に侮蔑されたら、あくまで冷静に切り返す。「そうです。蟻の脳みそしかない私が必死に知恵を絞ったんです。しかし努力まで否定されるのは侮蔑です。撤回してください」

 あくまで冷静に、そして「謝れ」ではなく「撤回」。この言葉の方が上司も受け入れやく、その後の上司の態度も変化すること請け合いだという。

 他にも人の弱みを握る、のらりくらりと話をはぐらかす、黙ってムッとした態度を取る、時には開き直る、自分自慢にはほめ殺しで対処、部下を怒鳴った後は褒める、怒っている相手に「それで?」とかわす、などなど多くのヤクザの怒り方、対処指南が示される。とはいえ、やはりヤクザ社会は特殊である。サラリーマン社会に全て応用できるかといえば、ケースバイケースだろう。

 自分の中の〈怒り〉は上手にコントロールし、時に巧い〈怒り方〉で相手を制する。それが社会を生き抜く知恵かもしれない。
(伊勢崎馨)

最終更新:2016.08.05 06:32

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