伊坂幸太郎もキレた! 直木賞選考委員の「言いたい放題」がヒドい!

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『ゴールデンスランバー』(新潮社)

 いよいよ今夜発表となる第151回芥川龍之介賞と直木三十五賞。芥川賞ではマンガ家でもある小林エリカが、直木賞ではアニメ『氷菓』の原作ともなった〈古典部〉シリーズで知られるラノベ出身の米澤穂信が初ノミネートされ、注目を集めている。

 だが一方で、何度もノミネートされている“常連組”も数多い。たとえば今回も、芥川賞で戌井昭人がノミネートされるのはすでに5度目。直木賞の黒川博行は6度目の超常連だ。ここまで落選を繰り返していると相当に精神が削られてしまいそうな気がするが、5度のノミネートと落選を経て異例の“直木賞に選考されるのを辞退”したのが、人気作家・伊坂幸太郎である。

 その“事件”が起こったのは2008年。候補作が絞られる選考が始まる前の4月に、伊坂は「執筆活動に専念したい」という理由で自作の『ゴールデンスランバー』(新潮社)が直木賞候補になることを拒否。山本周五郎をはじめ、受賞後に辞退した作家は過去にも存在するが、選考自体を拒むというのは余程の話である。

 しかし、直木賞というエンタメ作家にとっての“最高の栄誉”を足蹴にした伊坂の気持ちもよくわかる資料がある。それは受賞後に「オール讀物」(文藝春秋)に発表される「選評」だ。

 たとえば、伊坂がはじめて『重力ピエロ』(新潮社)で直木賞にノミネートされた第129回(03年上期)の選評では、井上ひさしが「若き作家の健気な実験」、北方謙三が「才気に溢れた作品」と評価する声を寄せているが、平岩弓枝は「作者の意気込みは悪くないが、遺伝子に作品がふり廻されているような読後感を持った」と述べ、先日亡くなった渡辺淳一は「一見、当世風の洒落た作品のようだが、読みすすむうちに底の浅さが見えてくる」とバッサリ。「インターネットで集めたような知識を面白おかしく並べている安易さが目立つ」「心に迫る小説にはほど遠い」と、とりつくしまもない。

 2回目の候補となった第131回(04年上期)の『チルドレン』(講談社)では、ナベジュンも「構想や比喩もそれなりに鋭く、才気という点では一番だろう」と一定の評価を与えているが、次に噛みついたのは林真理子。伊坂の持ち味のひとつである「時空の自由な飛び方」に対し、「読者を混乱させてしまうばかりで、何の効果も生じないのだ」と酷評しているのだ。

 だが林も、続く第132回(04年下期)では受賞した角田光代の作品と同じように「推した」と述べ、「本当にセンスのいい作家だと思う」とベタ褒め。今度は津本陽や阿刀田高から「いまの境地を一段とつき抜ける熱情がほしい」「主人公の心情に同化できなかった」といわれ、五木寛之には「この程度の作家ではあるまい、というのが多くの選者の意見だった」とまとめられている。

 選評でダメ出しされて次の作品で納得させても、今度は別の選者からダメ出しをくらう──いくら文芸は客観的評価が難しいものだとはいえ、これだけ意見がバラバラだと「じゃあ、どうすりゃいいのさ!」と怒りをぶつけたくもなるだろう。

 しかし、まだここまでは我慢もできよう。問題は第134回(05年下期)の選評だ。4度目のノミネートとなったのは『死神の精度』(文藝春秋)だが、ナベジュンには「生や死や人生を、安易に割り切るところが作品の軽みであるとともに、底の浅いものにしている」と再び咎められ、ついには林にも「伊坂さんは、今とてもむずかしい時期に来ていると感じた」と見放されてしまう。さらに津本には「ながいあいだ書きながら、しだいに間口をひろげてゆけるようになることを期待する」と、“まだまだ青二才”認定を受けてしまうのだ。当時77歳の長老にこう言われてしまっては、直木賞受賞までこの先何十年かかるのか……と気が重くなったに違いない。

 そして、最後のノミネートとなった第135回(06年上期)。候補となったのは『砂漠』(実業之日本社)だったが、「応援してきた私としては少々、あてがはずれた感じ」(平岩)、「失敗作」(宮城谷昌光)、「作者の意図が私には計りきれなかった」(阿刀田)、「今回少々がっかりした」「中途半端な結果に終っている」(林)と散々な言われ様。五木は「これで受賞したら伊坂幸太郎のファンが泣くだろう」と書いているが、伊坂にしてみれば「自分で応募したわけじゃない!」「第一、お前一度も強く推したことないだろう!」と言い返したくもなるはず。しかも、ナベジュンにいたっては「深さとこくがない」と、これはコーヒーの選評か!?とツッコみたくなる言葉を投げつけられる始末。──まさに満身創痍、たとえ直木賞が最高の栄誉だったとしても、レースから降りたくなる心情もよく理解できるというものだ。

 ちなみに伊坂が直木賞の候補を辞退する以前にも、選評会が原因で横山秀夫が直木賞との“決別宣言”を行っている。第128回(02年下期)に『半落ち』(講談社)がノミネートされた際に、選考委員の北方が物語の鍵となる部分に関し疑問をもち、「関係の団体に問い合わせて見解を得、主人公の警部の動きには現実性がない」と批判。さらに林が記者会見で“欠陥にも気付かないミステリー業界も悪い”といった発言を行い、これに横山が激怒。指摘された部分を再取材した上で事実誤認ではないことを反論し、「今後、作品をゆだねる気には到底ならない」と直木賞への決別宣言にいたったのだ。

 横山も、そして伊坂も、直木賞候補となったときにはすでに世間からの評価が高い人気作家だった。彼らにとっては、選評でいちゃもんをつけられライフを削られるくらいならば“ゲームに参加しない”ほうがよっぽどマシ、だったのだろう。受賞作の売れゆきでは本屋大賞に完全にお株を奪われてしまっているが、こんなことでは、かろうじて残っている“権威”ももはや風前の灯火かもしれない。
(田岡 尼)

最終更新:2017.12.07 07:36

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